雪だるまと赤い苺

市丸あや

雪だるまと赤い苺(脚本)

雪だるまと赤い苺

市丸あや

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〇本棚のある部屋
棗藤次「うー・・・寒っ!!」
  ・・・真冬の底冷えに震えながら、藤次は目覚める。
棗藤次「まだ夜中か。 つか寒過ぎ。 エアコン・・・」
  部屋を温め、隣で寝ている絢音には毛布を二重に掛けてやり、窓の外を見る。
棗藤次「雪や・・・ こらぁ、積もるでぇ・・・」
  しんしんと降る雪を一瞥し、藤次は何か温かいものを飲もうと、階下に降りて行った。

〇本棚のある部屋
棗絢音「ん」
  窓から差し込む陽の光で、絢音は目覚める。
棗絢音「さむ〜 こっちの冬はホント厳しいわね」
  暖かな瀬戸内育ちの絢音にとって、京都の冬はまだ慣れない。
  体を摩りながら起き上がると、時計は10時を差し掛かっており、しまったと瞬く。
棗絢音「や、やだ私! 早くご飯しないと!!」

〇広い玄関
棗藤次「おう! 起きたか。 おはようさん!」
棗絢音「お、おはよう。 ごめんなさい!私寝坊しちゃって! 直ぐに朝ごはん・・・」
棗藤次「ああ! それなら心配せんでええで ワシ用意しとるから。 ホラ、玄関寒いよし、居間行こ」
棗絢音「えっ、うん・・・」

〇狭い畳部屋
棗藤次「ほら、簡単なもんやけど。 目玉焼きにウインナー」
棗絢音「あ、ありがとう」
棗藤次「あとは味噌汁と飯やな! 温めるから待ち!」
棗絢音「い、いいわ! 自分のことくらい自分で・・・」
棗藤次「ええて、大人しく炬燵入っとき! 寒さで早よ目覚めたワシが勝手にした事や。 気にせんでええ」
棗絢音「でも・・・」
棗藤次「いや〜 見事な銀世界! 今日が仕事やのうて良かったわ。 こんな雪の中でのチャリは怖いしの〜」
  笑いながら、藤次は膳を持って居間へやってくる。
棗藤次「ほら、たっぷり食え! あと、雪かきついでに、近所のガキ達とおもろいもん作ったよし、後で見したるな?」
棗絢音「わっ! こ、こんなに食べられないわよ〜」
棗藤次「何言うとんや! しっかり食うて、坊に栄養送らな!」
棗絢音「だ、だめよ。 食べすぎて太るとかえってよくないて・・・」
棗藤次「お前普通の時も痩せすぎや思うくらい細かったから、少しくらい大丈夫や! せやから早よ、食べ」
棗絢音「う、うーん・・・」
  戸惑いながらも、藤次がニコニコと無邪気な顔で勧めて来るので、やむ無く絢音は、茶碗一杯に盛られたご飯を受け取り口に運ぶ。
棗藤次「昼は何にする? 冷蔵庫見たらうどんあったよし、ちょっくら肉屋で「かす」買うてきて、かすうどんにでもするか?!」
棗絢音「い、いいわよ!! 仕事で疲れてる藤次さんをこれ以上台所に立たせられないわ!私が考えるから!」
棗藤次「別にええて、ちゃちゃっとするよし!」
棗絢音「でも・・・」
棗藤次「ああ分かった! ほんなら、それ食ったら一緒に買い物行こ! そんで一緒に作る! これなら、ええやろ?」
棗絢音「う、うん・・・」
  納得してご飯を食べすすめていく絢音を見つめながら、藤次は呟く。
棗藤次「ホンマは、身重のお前を雪深い日に外に出したないんやで? 滑って腹でも打ったら一大事やん」
棗絢音「だって、もう安定期入ったから、先生少しは動いた方が良いって・・・」
棗藤次「そやし、こない雪の日に動かんでも良いやろ? 冷えかて大敵やし・・・」
棗絢音「だって、藤次さんと一緒に居たいし・・・」
棗藤次「そう思うてくれるんは嬉しいけど、やっぱりワシ心配や。 後生やから、家で待っといてくれへんか?」
棗絢音「でも・・・」
棗藤次「大丈夫や。 商店街までなら、ワシなら15分で行ける。 夕飯の買い物もしてくるよし、家で待っとってや」
棗絢音「う、うん・・・」
棗藤次「ん!ええ子や。 すぐ帰ってくるよし、暖かくして編み物でもしとき!」
  そうして絢音の額にキスをして、藤次はマイバックを持って外へと出かけて行った。

〇狭い畳部屋
  ・・・しかし、1時間を過ぎても2時間経っても、藤次は帰って来なかった。
  メールでもしてみようかとスマホを取ったが・・・
棗絢音「あ・・・」
  ちゃぶ台に置かれたスマホを見て、絢音は顔を歪める。

〇飾りの多い玄関
笠原大輔「じゃあ絢音、大人しく待ってるんだよ? お父さん達、ちょっと外の様子を見に行ってくるだけだから」
笠原絢音「うん! アタシ待ってる!! だからお父さん!お土産、忘れんでね?」
笠原大輔「ああ、絢音の好きな苺のショートケーキ、必ず買ってくるよ」
笠原絢音「わーい!!」
笠原英子「ふふっ。 絢音はホントに、おねだり上手じゃね〜 まあ、お父さんも絢音には頭上がらんけんね」
笠原大輔「当たり前さ。 可愛い一人娘なんだから。 愛してるよ。僕の絢音」
笠原絢音「うん!! あやねも、お父さん大好き!」

〇狭い畳部屋
棗絢音「いや・・・」
  不意に頭によぎった、両親との最後の会話。
  あれから、両親は豪雨で氾濫した河に飲み込まれ、帰らぬ人となった。
  まさか、藤次も・・・
  すると、遠くで救急車のサイレンが聞こえて来て、絢音の心を益々掻き乱す。

〇明るいリビング
笠原絢音「お父さん達遅いねー みーちゃん・・・」
笠原絢音「きゃっ! カミナリ! こわいよ〜!」
笠原絢音「ふえっ、わーん! おとうさーん! おかあさーん!」

〇狭い畳部屋
棗絢音「いや・・・独りは、イヤ・・・ 藤次さん!!」
  涙が溢れて来て、着の身着のまま家を飛び出そうとしたら・・・

〇広い玄関
棗藤次「あ、絢音?!」
  玄関を出た瞬間、藤次と鉢合わせる。
棗絢音「と、藤次さん・・・」
棗藤次「な、なんやなんや!? そない薄着の上裸足で、どないした?!」
棗絢音「だって、2時間経っても帰って来ないし、スマホも、忘れてるし・・・」
棗藤次「やからってお前、そないなカッコで出ようとすなや・・・ ワシも悪かった。八百屋ですっかり話し込んでしもて」
棗絢音「うっ、うっ、 藤次さん・・・」
棗藤次「ああ・・・泣きなや。 悪かった。 不安にさせてもうて・・・せや、見てみ?」
棗絢音「?」
  泣きながら、藤次に促されるまま外を見ると・・・
  眼前に見えたのは、仲良く並んだ3体の雪だるま。
  2体は大きく、1体は小さい。
  それはまるで、親子のような格好で・・・
棗藤次「もうすぐ、もうすぐや。 この雪だるまみたいに、ワシらも家族になるんや」
棗絢音「藤次さん・・・」
棗藤次「ん。 ほんなら居間行こ。 大事な身体なんやから」
棗絢音「うん・・・」

〇狭い畳部屋
  孤独な時間が長過ぎて、時々無性に不安になる。
  でも、大丈夫。
  今は、心から愛する人が、側にいる。
  だから、もっと強くなりたい・・・
棗藤次「おおっ! あの材料でこのクオリティ! やっぱ絢音は天才やな!」
棗絢音「もー・・・褒め過ぎ!! さ、食べましょう?」
棗藤次「おう!」
  そうして食卓を囲み、いつものように手を合わせる。
「いただきます!!」

〇本棚のある部屋
棗絢音「ねぇ藤次さん、赤ちゃん、男の子と女の子、どっちがいい?」
  食事を終え、風呂を済ませ、ベッドで藤次に腕枕されながら聞いてみると、彼は天井を見上げながら口を開く。
棗藤次「んー・・・? せやなぁ やっぱり娘かのぅ お前似の可愛い娘、欲しいの〜」
棗絢音「私は、男の子がいいな。 藤次さん似の元気で明るい子、欲しい」
棗藤次「ははっ。 それはおおきに。 せやったら、この子産まれたらまた作ろう? 知り合いに3人子供おる奴いんねん。 それ位、欲しい」
棗絢音「や、やだ・・・ そんなにポンポン産めないわよ〜」
棗藤次「なんでや? 可愛い子、沢山欲しいやろ? その為ならワシ、なんぼでも子作り頑張れるえ?」
棗絢音「も〜・・・ 恥ずかしい・・・」
  そうして笑い合って、幸せな未来予想図を描いて眠りにつく・・・

〇広い玄関
棗藤次「ほんなら、いってくるな?」
棗絢音「うん! いってらっしゃい!!」
  ・・・朝。
  雪のため、いつもより早く出勤していく藤次を見送り、絢音は洗濯物にとりかかる。

〇白いバスルーム
棗絢音「さて、まずはー・・・」
  そうして、洗濯物を取ろうとした時だった。
棗絢音「!」
  不意に、お腹に感じた衝撃。
  瞬き手を添えると、また衝撃が来たので、絢音は破顔する。
棗絢音「赤ちゃん・・・動いた・・・」
  嬉しくて、藤次に同様の内容のメールを送ると、直ぐに着信が来る。

〇街中の道路
棗藤次「絢音?! 赤ん坊動いたて、ホンマ?!!」

〇白いバスルーム
棗絢音「うん・・・ でも、もう少し早く動いてたら、藤次さんにも触ってもらえたのに。 でもそれ以上に、私・・・」

〇街中の道路
棗藤次「泣きなや・・・ 仕事さっさと切り上げて帰ってくるわ! 土産も買うてくる! 何がええ?」

〇白いバスルーム
棗絢音「苺の乗ったショートケーキ! 約束ね! 藤次さん!!」

〇花模様
  ・・・絢音の好物の苺。
  その花言葉は「幸せな家庭」
  どうか、どうか・・・
  願いを込めて、その果実を口にする彼女に
  永久(とこしえ)の幸せが、訪れますように・・・

コメント

  • 藤次の流れるような関西弁の語り口、人柄まで感じさせるようなセリフ回しの表現力に舌を巻きました。目で読んでるのにまるで声が聞こえるようにスムーズに頭に入ってきます。作者さんは関西の方なのでしょうか?

  • いつもお話が起承転結がしっかりきいていて内容がしっかりと伝わってきます。人と人が紡いでいくべき絆がわかりやすく表現されていて、スッと読者の心に入っていくきがします。

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