エピローグをキミに(脚本)
〇男の子の一人部屋
〇男の子の一人部屋
莉緒「・・・」
莉緒「ハァ〜」
莉緒「またエター、か」
莉緒「今度はいけると思ってたのにな・・・」
莉緒「結局書けたのは7,000文字。コンテストの応募条件は最低でも五万字以上・・・」
莉緒「無理じゃね?どう考えても」
莉緒「・・・」
莉緒「なんでいつもこうなんだろうな」
莉緒「いや、原因はわかってる」
莉緒「あたしの意志が弱くてずっとネットサーフィンばっかやってるから」
莉緒「軽くゲーム依存症になってたあの頃よりはマシっちゃあマシだけど・・・」
莉緒「マイナス2がマイナス1になっただけなんだよなぁ」
莉緒「スマホの電源入れなければネットサーフィンはせずにすむけど・・・」
莉緒「Web小説書けねぇから本末転倒なんだよなぁ」
莉緒「・・・」
莉緒「来月も小説のコンテストはあるけど、今のままだと絶対に一万字すら書けねぇ」
莉緒「どうしたもんかねぇ・・・」
「落ち込んでる暇があるなら、さっさと書きなさい」
莉緒「え?」
〇男の子の一人部屋
莉緒「き、君は!?」
ミーナ「私の名前はミーナ。聞き覚え、ない?」
莉緒「ミーナ?」
莉緒「ミーナ・・・ミーナ?」
莉緒「あっ、もしかして、あたしが書いた小説のヒロインの『野良猫のミーナ』!?」
ミーナ「ええ、そうよ。『洞窟王と野良猫のキミヘ』で主人公エドをサポートするキャラクターとしてあなたに生み出された猫耳族の少女」
ミーナ「それが私よ」
莉緒「いや、待て待て待て!なんで物語の登場人物が現実の世界に存在してるんだよ!あり得ねぇだろ!?」
ミーナ「原因は私にもわからない」
ミーナ「ひょっとしたら神様に私の願いが届いたのかも」
莉緒「願い?」
ミーナ「あなた、自分がどこまで書いたか覚えてる!?」
莉緒「えっ?えーっと、確か・・・主人公が無実の罪で投獄されて拷問を受けてるところでストップしていたはずだけど」
ミーナ「ええ、そうよ!!あなたがそこで更新を止めているせいでエドは8ヶ月以上もずっと殴られ続けているのよ!?」
莉緒「は、8ヶ月!?」
莉緒「(そういやそれエターになってから半年以上過ぎてたな。・・・他のも数ヶ月・・・経ってるかも)」
ミーナ「私の願いはただ一つ」
ミーナ「お願い。エドを助けて」
莉緒「助けてって・・・続きを書けってことだよな?そう言われてもアイデアが・・・」
ミーナ「いいえ。書く必要はないわ」
莉緒「えっ?」
ミーナ「続きを書く必要なんてないの」
ミーナ「Web小説なら自分が書いた作品を削除できるんでしょ?」
莉緒「削除!?ちょっと待て!!そんなことしたら君は死ぬんじゃないのか!?いや、もしかしなくても死ぬよな!?」
ミーナ「ええ、そうね。削除した瞬間、今ここにいる私は跡形もなく消え去るんじゃないかしら」
莉緒「そんな・・・」
莉緒「(あれ?でも削除ってどうやるんだ?あたしが使ってる投稿サイトに削除ボタンなんてあったか?)」
※備考
莉緒はインターネットを使うのが少し下手。
でもネットサーフィンはしょっちゅうやる。
ミーナ「もし削除が出来ないなら、もっと簡単に──」
莉緒「(えっ、まさか心読まれてる?)」
ミーナ「別に。ずっと画面と睨めっこしながら書いてたから、『ああ、ネット苦手なんだな』ってわかっただけ」
莉緒「(まだ何も言ってないんだけど。あたしってそんな顔に出やすい?)」
ミーナ「もう一つの方法はもっと簡単。私とエドの役を逆にするの」
莉緒「──は?」
ミーナ「名前を入れ替えるぐらいなら、あなたにもできるでしょ?」
莉緒「お前・・・自分が何言ってるのかわかってんのか!?」
ミーナ「もちろん。物語の内容が変われば、エドの代わりに私が8ヶ月分の拷問を受けたことになるわ」
莉緒「8ヶ月?違う!あたしが続きを書かない限り君は一生殴られる!」
莉緒「君は本当にそれでいいの!?」
ミーナ「ええ、もちろん」
ミーナ「それであの人が・・・私の大好きな人が助かるのなら・・・」
ミーナ「私はもうそれだけで十分幸せなの」
莉緒「・・・」
言葉が出なかった。
そうだった。ミーナはこんな子だった。
どんな時も主人公の味方で、行動力は人一倍。逆境にもめげず、理不尽なんて知ったことかと笑い飛ばす。
そして、誰かが傷つくのをよしとせず、進んで身代わりを引き受けてしまうような自己犠牲の精神が強い女の子。
莉緒「・・・書くよ、続き」
ミーナ「えっ?」
莉緒「あなたみたいな優しい子がボロボロになって一生を終えるなんて、そんなの絶対に嫌だ!」
莉緒「良作にするとは言えない!それでもちゃんと完結させてエピローグまで書き切る!」
莉緒「今はまだ辛い出来事が続くけど、ハッピーエンドにしてみせる!」
莉緒「だから、すぐに自分を犠牲にしようとしないで!」
ミーナ「私をこういう性格にしたのはあなたなのに・・・」
莉緒「それは本当にごめん。言い訳にしかならないけど、君の優しさが伝わる描写をするつもりがおかしな方向に筆が進んで・・・」
ミーナ「・・・エドも私も、みんなも幸せにできる?」
莉緒「全員は難しい。それでもなるべく多くの人が救われるようにする」
ミーナ「あなたを信用できる証拠はある?またエターになる可能性の方が高いんじゃない?」
莉緒「ある、って言えればよかったんだけど・・・残念ながらない」
莉緒「情けないことを言ってるのはわかる。でもお願いがある」
莉緒「あたしを見張っていてほしい」
莉緒「少なくとも監視されている間は怠けることはない」
莉緒「あたしは自分の駄目なところを見られるのが苦手なんだ」
莉緒「だから人の目がある間だけはそこそこ真面目になれる」
ミーナ「・・・わかった。いつまでここにいられるかはわからないけど、完結するまであなたを見張っておくわ」
莉緒「ありがとう。よろしく、ミーナ」
ミーナ「ええ、こちらこそよろしくね。莉緒」
さて、まずは拷問を中断させねーとな。
小説の登場人物が作者のところに執筆続行や配役変更を直談判しに来るという発想がすごいですね。ミーナちゃんだから「書くのを見守ってて」とか言えるけど、モンスターだったらソッコーで削除ボタンかも。私もこれからイケメン物語を書いて、わざと執筆を中断して本人が出てくるのを待とうかな〜。
自分も物語を作ろうと奮起することもあるのですが、結局途中でボツにしてしまうこと、よくあります…。
拷問のような展開中にボツにすることはありませんが笑
とても可愛い発想のストーリーでした! 長編小説に挑戦している方にとって、このお話はいわゆるエールのようなものになること間違いなしだと思います。