カクシタカルマ

まいく

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〇繁華な通り
和也「頼む!このこと梅には黙っててくれ!!」
  俺は返事に悩んだ。
  目の前で土下座をしかねない勢いで懇願しているのは友人の和也だ。
  そして梅とは和也の彼女である。
  そう、俺はついさっき、和也の浮気現場を目撃してしまったのだ。
和也「頼む浩二~!」
浩二「はあ・・・」
  俺と和也と梅の三人は同じ大学で仲がいい。
  そして和也とは高校生の頃からの親友だ。
  こいつの頼みなら何でも聞いてやりたいと思う。しかし。
浩二「お前は親友やけど、梅だって友達やからなあ・・・」
  浮気現場を見てしまった以上、それを黙っているのも共犯な気がして気が引ける。
和也「でも浩二、俺が女癖悪いの昔から知ってるやろ!?」
  そうなのだ。こいつは高校生の頃から女癖が悪い。というかクズだ。いわゆる女の敵だ。
  しかし大学生になってからはそれを隠して過ごしていたので、梅や周りの人にも気付かれることはなかったのだが・・・
和也「やっぱりさあ、そんなすぐには変われへんねんって人間」
浩二「開き直んなや」
  梅のことを考えると心が痛んだが、どちらにせよこれは二人の問題なので俺はとりあえず俺は黙っておくことにした。

〇学食
和也「悪い梅、今週の日曜はいとこと会うねん」
  昼飯を食べながら和也は梅にそう言い放った。
  しかし俺は知っている。いとこと会うというのは和也が浮気相手と会う時に使うお決まりのセリフだということを。
  俺はチラリと和也の隣に座る梅を見た。
梅「そっかあ残念。じゃあ映画は来週にしよ!」
  一転の曇りもない笑顔。
  そう、梅は純粋無垢というか天然というか、とにかく疑うということを知らないのだ。
  もちろん今の和也の言葉も何ひとつ疑っていないだろう。
和也「おお、そうしよか!土曜はどう?」
梅「土曜は逆に私がいとこと会うから、日曜は?」
和也「日曜でもええよ。梅のいとこ今こっち来てるんやっけ?」
梅「そうそう!仕事の都合で半年くらいこっちおるねんて!和也のいとこは近くに住んでるんやんね?いつか会えたらええなあ」
和也「お、おお。せやな。てか日曜何の映画見る?」
梅「うーん、アクション系!」
  平然と嘘をつく和也も一切の疑いなく和也の言葉を受け止める梅も俺には少し理解しがたい。
  しかしまあ、二人が幸せならそれでいいのかもしれない。
梅「浩二も来る?映画」
浩二「なんでやねん。二人で行ってこいや」
  俺はいちゃつく二人を無表情で眺めながら、淡々と昼ごはんのカレーを胃に流し込んだ。

〇大学の広場
  あれから約三ヶ月。和也の浮気の頻度は俺でも分かるくらいに上がっていた。
  きっと俺にばれたところで俺は梅に告げ口しないし、肝心の梅はあの性格なので気付かれることもないと確信したからだろう。
  しかし、さすがに俺の良心も我慢の限界だった。
  何度か和也に助言はしたが彼は一向に聞く耳を持たない。まあ、和也の性格上それは分かっていたことなのだけれど。
  このままでは梅が可愛そうだ。俺は大きなお世話だと理解したうえで梅に全て話そうと決意した。
梅「何?話って」
  あらかじめ俺が指定した場所に現れた梅は小首をかしげながらそう言った。
浩二「あのさ、和也のことなんやけど」
梅「うん」
浩二「・・・」
梅「浩二?」
浩二「あいつ、浮気してるねん」
  梅からの返事はない。俺は怖くて梅の顔を見れなかった。
  沈黙が二人を包み込む。
梅「・・・フッ」
  その吐息のような声に、俺は思わず顔を上げた。梅は、笑っていたのだ。
梅「なんやそんなこと?知ってたで」
浩二「・・・は?」
梅「和也が浮気してんのも、私がそれに気付いてないって思ってんのも」
  俺は言葉が出なかった。梅は、全て知っていた。知っていたうえであのような態度を取っていたというのか。
梅「和也がいとこと会うって言う時は浮気相手に会う時。だいたい、そんな分かりやすい口実何回も使って勘づかん女なんておらんわ」
浩二「・・・」
梅「私のこと、なんも気付かんアホな女やと思ってた?」
  そう言ってクッと口角を上げた梅が妙に色っぽく、俺は不覚にもドキッとしてしまった。
  こんな梅は、始めて見た。
浩二「で、でも、なんで気付かんフリしてるん?」
梅「だって、私もしてるから、浮気」
浩二「・・・は?え!?」
梅「一回和也と同じようにいとこと会うって口実使ってみたんやけど、あ、その時浩二もおったっけ」
梅「和也一切疑ってなくて、こいつアホやと思ったわ」
浩二「なんで、そんなことしてるん?付き合ってんのにお互い浮気なんて・・・」
  そう言うと梅は少し俯きがちに答えた。
梅「・・・最初に浮気したのは和也やで。私、ショックやった」
浩二「・・・」
  そして梅は、勢いよく顔を上げた。
  その表情は、清々しいほど満面の笑みで。
梅「だから、仕返し!」
  長い髪を翻して俺に背を向けた梅は、そのまま歩いていってしまった。
  その後ろ姿は美しい女神にも見えたし、恐ろしい悪魔にも見えた。
浩二「・・・女って、凄いな」
  今後二人がどのような形に落ち着くかは分からない。
  しかし、しばらく俺は彼女はいらないなと、心の中で強く思った。

コメント

  • 彼女は自分の浮気は仕返しだと言っていたけど、本当は傷ついた自分への慰めみたいなもので、いつか和也が本気に自分を好きになってくれるのを秘かに待っているのかなあと、同じ女性として推測しました。

  • やっぱり自分がしたことはそっくりそのまま返ってくるって言う教訓みたいですね。梅ちゃんも仕返しって、浮気できるのもすごいと思うけど、、このふたりの真相をみてしまったらそりゃ人間不信にもなるし彼女もしばらくいらんよね〜と妙に納得してしまいました。

  • 意外とこういうカップル多い気がします。
    本人たちがいいのならそれでいいと思うので、二人のこの先の話も見てみたいですね。
    お互いどういう相手と浮気してるのか気になります。

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