最初で最後(脚本)
〇女の子の部屋(グッズ無し)
私はお姫様。
かっこよくてユーモアがあって私を笑わせてくれて、優しくて気遣いが出来て、
甘えてくれるけれども拘束しないし距離感が完璧な彼氏と恋愛結婚をする。
初恋は実らないなんて言うけど私だけは違っていて、素敵な人と出会って素敵な恋をして、友達とも沢山遊んで
今の世の中独り立ちできない女性は馬鹿にされるから。
そこらへんの男には負けないように勉強も頑張ってバイトして仕事の経験もつけて、
掃除と料理は旦那様がやってくれるから私は愛情をお返しする。
・・・・・・
そんな幻想をお気に入りのマグカップの中にたっぷり入れて、
生クリームとチェリーを添えてから壁に投げつけて木端微塵にぶち撒けて立つ気力が無くなったあの日。
私は神になった。
全部を理解して全部を納得して全部を受け入れてその全部を否定した。狭い世界で一人きり今日もタブレットで異世界の様子を見る
いつもと同じ毎日。どこかで何かが起って誰かが泣いて誰かが笑ってる。
自分が物語の主人公だと思ってる人もいれば、主人公にはなれないなんて思ってる人は沢山いるけど。
お前ら目を覚ませ。
お前が見てる世界がお前の物語でお前が主人公で、クソクダラナイストーリーを一人で誰にも読まれず紡いでるんだよ。
工夫しろ、K.U.F.Uってハゲが言ってただろう。
他人の定めたレッテルやらレールやらルールやら顔色をお伺いして認めたり認められたり自尊心とか
なんかそういうグチャグチャしてネチャネチャしてるの、全部壁にぶちまければいいのさ。
そうすれば君も明日から神になる。
私みたいにね。
ここまで書いて今日はお終い。投稿ボタンを押そうとするけれども、一瞬手が止まる。
こんなの投稿したら誰かに心配されるかもしれない。どうしたの?何かあった?なんて。
別に何もなんて言いながら何食わぬ顔をして笑って終われば私は神様になったまま皆を俯瞰して見れるんだろうか。
そうは言っても人の事なんてだいたい俯瞰で見てるし、俯瞰で見るべきは自分だってね。
俯瞰で見ろなんて言われても私の目は顔に付いてるし目を外して上から見るか、ドローンとかで自分を上から見る?
言葉の通りだけどそれで自分見てもなんにもならないよね。
見えてない寝癖とかはわかるかもしれないけど。
youtubeのプレイリストがワンちゃんの生きるを流し始める。ほんとさあんたは残すだけ残して羨ましいよ。
私は多分なんにも残せないからさ。私の傷も壁のシミもへこんだ跡も、多分すぐ直って見えなくなっちゃうんだろうさ。
床に転がってるマグカップだった破片達が羨ましい。君たちは多分直らないだろうからさ。
まぁ、いいさ。私は神になったんだから多分もう少しは死なないでいれそうだよ。
神様は死なないからね。
現代社会では、狭い部屋でスマホやタブレットから世の中を俯瞰する絶望の神々が一体何人いることやら、と思うと気が滅入ります。最後のセリフはニーチェの「神は死んだ」と対をなしているみたいでかっこいいですね。
まるでマグマのような怒りが一瞬にして神様という静けさに成り代わったという描写が、世の中にあふれる重くてダークなものを私に変わっって投げつけてくれたという印象もあり共感できました。