感情ロスをなくしたい!(脚本)
〇花火倉庫
これは人間の心の世界の話です。
ギルト「まただ。在庫が全然合わない」
ギルトは人間の感情を宿した感情玉を保管する倉庫の管理者であった。
ギルト「最近酷いな。何が原因なんだ?」
ギルト「あっ」
エミーニャ「あ~あ、面倒くさいな」
ギルト「あいつは確か新人の配達員・・・」
エミーニャ「“怒り玉”の場所は・・・」
ギルト「おい!」
エミーニャ「わぁ!」
ギルト「ここで何をしている!」
エミーニャ「驚かさないでくださいよ」
ギルト「私の許可なくここで何をしているんだ」
エミーニャ「余った感情玉を返しに来たんです」
ギルト「余る? 指示書通りに配達すれば余るはずがない。さては配達をサボったな」
エミーニャ「サボってません! 人間の方が受け取りを拒否しているんです!」
ギルト「受け取り拒否だと? 言い訳するな!」
エミーニャ「何も知らないみたいですね」
ギルト「え?」
エミーニャ「ここに返しに来たこと、本当だったら褒めてほしいくらいです!」
ギルト「褒めるだと?」
エミーニャ「あ~あ。配達現場、見たことないでしょ?」
ギルト「わ、私はここの管理という重大な任務を」
エミーニャ「ダメです。一度見てください。そして私のことを褒めてもらいますから!」
ギルト「えっ」
こうしてギルトはエミーニャの配達に同行することとなった。
〇一戸建て
エミーニャ「配達先に着きました。ギルトさん、指示書ではどうなっていますか?」
ギルト「指示書ではこの家の父親に“怒りの玉”を届けることになっている。帰宅の遅い息子を叱るんだな」
エミーニャ「“怒り玉”ですね。覚えていてくださいね!」
ギルト「わかった」
ギルト「って、どうして私がお前の指示を受けなきゃいけないんだ!」
エミーニャ「さあ、配達時間が来ましたよ!」
息子「ただいま」
父親「遅かったな」
息子「塾の補習だよ」
ギルト「息子は塾をサボって遊び回っていた。それを父親が叱りつけるんだな」
エミーニャ「“怒り玉”を注入された父親は」
エミーニャ「こんな感じに変化します。見ていてください。いきますよ」
エミーニャ「“怒り玉”注入!」
ギルト「“怒り玉”がはね返された!」
エミーニャ「これが受け取り拒否です」
父親「そうか。頑張っているんだな、偉いぞ!」
息子「うん・・・」
ギルト「何なんだ、この親子は」
エミーニャ「関係をこじらせたくないから感情を抑え込んだんです。最近こういう人間が多くなっているんです」
ギルト「人間は感情を必要としていないのか?」
エミーニャ「せっかくなんで見ておきますか?」
ギルト「見る? 何を?」
〇埋立地
ギルト「こ、これは」
エミーニャ「受け取り拒否でロスになった感情玉の投棄場所ですよ」
ギルト「人の感情はゴミになったのか」
エミーニャ「私も先輩にここを教えてもらったのですけど、どうしても捨てられなくて」
ギルト「私が大切にしている感情玉が捨てられていたなんて・・・」
エミーニャ「どうですか。私の事、褒めてくれますよね?」
ギルト「・・・」
エミーニャ「あれ? ノーリアクション?」
エミーニャ「わ、気絶しちゃってる!」
〇山の展望台(鍵無し)
エミーニャ「大丈夫ですか?」
ギルト「ああ」
エミーニャ「気絶するほどショックだったんですね」
ギルト「私の存在価値が否定された気がした」
エミーニャ「それだけ人間の感情玉を大切にしていたわけですね」
ギルト「人間にとって感情はどうでもいいということなのか?」
エミーニャ「そういうわけでも無いようです」
ギルト「え?」
エミーニャ「コミュニケーションは大切だと思っているみたいです。大切だからこそ感情を抑えているようなんです」
ギルト「はあ? 最近の人間は複雑で面倒くさいんだな」
エミーニャ「はい。私もそれがわかったから最近アレンジしているんですよ」
ギルト「アレンジ?」
〇学校の校舎
エミーニャ「次の配達先です。指示書ではどうなっていますか?」
ギルト「部活でのチームの方向性を巡って口論になり“怒り玉”注入をきっかけに暴力事件になるようだな」
エミーニャ「また“怒り玉”ですか」
学生A「おい。お前やる気あんのか!」
学生B「やる気ならあるよ」
学生A「どこがだよ。全然本気出していないじゃないか」
学生B「お前こそ、キャプテンだからって張り切り過ぎなんだよ」
学生A「何だと!」
エミーニャ「ここで“怒り玉”注入!」
ギルト「またはね返された」
エミーニャ「だったら“悲しみ玉”はいかがですか!」
学生A「!?」
ギルト「注入された! 指示書と違うのに・・・」
学生A「ああ。どうしてこういう言い方になるんだろう」
学生B「え?」
学生A「本当はお前のこと励ましたいのにさ。自分の性格がつくつぐ嫌になる」
学生B「・・・」
学生A「俺、自分が情けないよ」
学生B「・・・ごめん、悪かったよ」
学生A「え」
学生B「お前がそんなに俺のこと思ってくれていたなんて・・・俺、キャプテンの為にもっと頑張るから!」
学生A「本当か!」
エミーニャ「あの二人、仲直りできたようですね!」
ギルト「・・・」
〇花火倉庫
エミーニャ「いい仕事ができました!」
ギルト「指示書以外の感情玉をどうして持っているんだ」
エミーニャ「さっきみたいな時のために予備用のストックを持っているんです」
ギルト「無断で持ち出していたのか!」
エミーニャ「す、すいません」
ギルト「在庫が全然合わなくなっている原因はそれだったのか」
エミーニャ「指示通りじゃない感情玉が正解だったりするんですよね。人間の心って複雑だけど面白いって思いませんか?」
ギルト「そんなことされたら私が在庫管理している意味がないじゃないか!」
エミーニャ「また私を怒るんですか?」
ギルト「えっ」
エミーニャ「私は感情玉のロスを無くしたいだけなんです」
ギルト「・・・そ、その心がけはいいことだが」
エミーニャ「じゃあ褒めてくれますよね?」
ギルト「・・・そ、その調子で配達頑張ってくれ」
エミーニャ「はい!」
ギルト「あと・・・感情玉も好きなだけ持って行っていいから」
エミーニャ「いいんですか!」
ギルト「これからはお前が誤配することも計算に入れて在庫管理するつもりだ」
エミーニャ「やった! ありがとうございます!」
〇水玉
こうして人間の心の世界では、時には誤配もありますが、感情の配達が繰り返されているのです。
あなたが時々気まぐれな言動をするのはエミーニャが感情玉を誤配したからかもしれませんよ。
エミーニャ「どの感情玉がいいかな~」
『感情Delivery~ECOな配達娘~』
END
独特の設定と世界観が面白かったです!温かい優しい雰囲気のお話ですね✨
誰かに嫌な感情をぶつけられる事があっても、「あー、またエミーニャちゃんが誤配してるなw」と思えば平和な気分で過ごせるかもですね😊
いわゆる「空気を読む」という言葉が一般的になると同時に、指示書通りの感情玉が世の中で機能しなくなったような気がします。怒り玉や悲しみ玉がなくなれば世の中が平和になるとも限らず、使い方次第で活かせることもあるんですね。エミーニャがギルトにツンデレ玉を注入したかのごとく、最後には認めてもらったところが可愛かったです。
とても素敵なお話でした。
感情玉を捨てられない、その場に合わせて感情玉を使い分ける心優しいエミーニャちゃん、とても好きになりました。