この恋の障害は

黒瀬時雨

この恋の障害は(脚本)

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黒瀬時雨

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〇パールグレー
  私には、誰にも言えない秘密がある。
  体温を一定に保てないのだ。

〇病室(椅子無し)
  小さいころから寒さに弱くて、冬場は体調を崩すことが多かった。
  中学に上がる前の冬、低体温症で急遽入院。
  精密検査の結果、人間に備わっているはずの体温を維持する力が著しく弱く、いわば「変温動物」と同じ体質だと診断された。
  あまりにも特殊なこの体質。説明したところで誰にも理解してもらえないのは容易に想像できで。
  お父さん、お母さんと主治医の先生以外には隠して過ごしている。

〇教室
  そんな私にも気になる男の子がいる。
  と言っても遠くから見ているだけの憧れの存在だった。去年までは。
朝比奈「水瀬ー。図書室行くぞ」
  昼休みのチャイムが鳴りはじめてすぐに、朝比奈くんが私の席までやってきた。
水瀬「う、うん!すぐ準備するね」
  体温がじわりと上がる感覚がする。
水瀬(いけない。落ち着いて、私)
  新年度のクラス替えで、初めて朝比奈くんと同じクラスになったのが3か月前。
  それだけでも嬉しさで舞い上がってしまいそうだったのに、あろうことか一緒に図書委員になってしまったのだ。
水瀬(接点ができたのは嬉しいけど、朝比奈くんといると身体が熱くなっちゃう)
  私の体温が外気温に影響を受けてしまうことは、主治医の先生の説明で理解していた。
  けれど、こんな風に誰かと一緒にいて体温が上がってしまうことは今までになくて、少し戸惑ってしまう。
水瀬(委員会の仕事、今日も何事もなく終わるといいな)
  朝比奈くんに気づかれないように呼吸を整えながら、二人並んで図書室に向かった。

〇古い図書室
  私たち二人しかいない図書室に、時計の秒針の音がカチ、カチと響く。
朝比奈「暇だなぁ」
水瀬「まぁいつものことだよねぇ」
  生徒が図書室に本を借りに来るのは、朝の読書週間があるときくらい。
  このあいだ読書週間が終わったばかりだから、しばらくは暇な日が続くだろう。
  それでも一応、昼休みには図書委員が順番で受付にいなきゃいけないから、この時間を使って宿題を終わらせてしまうことが多い。
  今日も一緒に数学のプリントを進めていると、朝比奈くんがこちらを見てポツリと呟いた。
朝比奈「水瀬さー、俺のこと嫌いでしょ」
水瀬「え?どうして?」
朝比奈「だって同じ委員会になってしばらく経つのに、一度も目合わせてくれないじゃん」
水瀬「そ、そんなことなくない?」
朝比奈「そんなことあるよ。だって今もこっち向いてくれないじゃん」
  冷静に振舞おうとする意志に反して、速くなっていく心臓の鼓動。
水瀬(どうしよう、体温が上がっちゃう)
水瀬(一人になれるところに行かなきゃ)
水瀬「ごめん、ちょっとお手洗い行ってくるね・・・」
  勢いよく立ち上がると、視界が回転した。
  バタン!
  立ちくらみを起こして、その場に倒れてしまった。
朝比奈「おい大丈夫か!?」
水瀬「・・・・・・大丈夫」
  必死で平静を装って立ち上がろうとするれど、身体が言うことを聞いてくれない。
朝比奈「どう見ても大丈夫じゃないでしょ。保健室行くぞ」
  朝比奈くんに身体を支えられながら、何とか立ち上がって同じ階にある保健室に向かう。
  肩を支える、大きくて骨ばった手。
  私とは違う、がっちりとした身体。
  息づかいまでもが聞こえてきそうな距離。
水瀬(だめ・・・・・・どんどん身体が熱くなっちゃう・・・・・・)
  保健室にたどり着くころには、フラフラで宙に浮いているみたいだった。

〇保健室
朝比奈「次の授業、先生には俺から話しとくから、ちゃんと休みなよ」
水瀬「うん・・・・・・ありがと」
  事情を話して、保健室で少し休ませてもらうことになった。
朝比奈「それと・・・・・・体調悪かったのに、さっきは変なこと聞いて悪かった」
  少しばつが悪そうに謝る朝比奈くん。
水瀬(体調不良の原因、朝比奈くんなんだよな)
  心に浮かんだ言葉は口には出せなくて。
水瀬「ううん。でも嫌いじゃないのは本当だから・・・・・・」
  朦朧とする頭でなんとか言葉を紡ぐ。
朝比奈「わかった。じゃ、お大事に」
  朝比奈くんはそう言って小さく笑うと、保健室を出て行った。
水瀬(やっと一人になれたけど・・・・・・まだ心臓がドクドクしてる)
  さっき朝比奈くんの手が触れていた肩が、腕が、熱い。
  すっかり火照った身体はしばらく冷めてくれそうになかった。

コメント

  • 変温動物の体質ならば何か徳することはないのかな?なんて、別のことを考えてしまいました。彼女の身体が心配です。様々な事案にどう対処して良いものか考えましたが、何もいい案は浮かびませんでした。

  • 私は特異体質ではないけど、冬でも厚手のセーターを着る事がないほどなので彼女に共感できる部分がありました。緊張しているわけではないけど、長電話しているとじわーと汗がでてきたり。思い切って、好きな彼に私こういう体質なんだよねーって言ってすっきりしたほうがいいかも。生まれもったもの否定する人なら、付き合わないほうがいいし。それとは別に甘酸っぱい恋愛の味も伝わりました!

  • 切ないですね、心が影響して体温が上がってしまうなんえ。ドキドキが楽しめないですよね。何かいい方法はないのでしょうか、、、好きな人と恋愛できないのは切ないです。

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