読切(脚本)
〇公園のベンチ
目が見えない修二
友達も
彼女もいない
家族も2年前にみんな他界した
何も起きない人生
それでも・・・
公園のベンチで過ごす時間は幸せだった
天気のいい日曜の昼間
心地よい風
池で鯉が跳ねる音
こうしていると”目が見えない”修二にも平和な情景が浮かんでくる。
〇公園のベンチ
智子「あの、、、すいません」
いきなり若い女性から声をかけられる修二
修二「何でしょう??」
智子「これ、、、落としましたよ・・・」
修二のポケットからずり落ちているスマホを差し出す智子
修二「あぁ、ありがとうございます」
智子「可愛いスマホカバーですね」
修二が目が見えないことを悟る智子
智子「あぁすいません。そういうつもりじゃ・・・」
修二「いいんですよ」
修二「目が見えない僕でもこのスマホカバーは可愛いですから!!」
修二(綺麗な声の人だ)
喋り方も優しくて
ずっと彼女と喋りたくなってくる
修二(こんな綺麗な心と声の持ち主の彼女は)
修二(きっと目が澄んでいて)
修二(育ちが良くて)
修二(かといって派手な服装でなくって)
修二(きっと・・・)
修二(きっと綺麗な女性なんだろうな)
修二「あの・・・」
修二「僕、修二って言います。 もしよかったらお友達になってくれませんか?」
智子「もちろん!! 私、智子って言います」
智子「よろしくね」
〇公園のベンチ
白黒だった背景が色付き
桜吹雪が修二の初恋を祝福してくれているようだった。
〇電器街
初めてのデート
初めてくる繁華街
みんなに見られているような
誰も見ていないような
智子「大丈夫ですよ!!」
智子「私がしっかりエスコートしますから」
智子「あっ!!」
〇ペットショップの店内
ペットショップに駆け寄る智子
智子「かわいい〜」
チワワ「ワンワン」
チワワを見つめる智子
ペットショップ店員「いらっしゃいませ!!」
智子「この子って人気ですか?」
ペットショップ店員「もちろんです!!」
ペットショップ店員「何てったってチワワですから!!」
智子「そうですよね」
智子「次来た時もういないかもしれないよね・・・」
修二「俺、飼うよこの子」
修二「一緒に育てよう!!」
智子「え?いいの?」
修二「うん、だって人気らしいし」
修二「次きてもいないかもしれないでしょ?」
修二「俺一人暮らしで寂しいし」
智子「ありがとう!!」
ペットショップ店員「可愛いですね!!」
修二「はい!! だってチワワですから」
修二「僕は目は見えませんけど」
みんなチワワが一番だって言うし
ペットショップ店員「そうじゃなくって」
ペットショップ店員「彼女さん」
ペットショップ店員「お幸せに!!」
何だか彼女のことを誇らしくなる修二
今までも十分可愛かった智子が
余計に愛おしくなった
その日から
〇海辺
海へ行ったり
〇丘の上
山へ行ったり
〇花火
花火大会も行った
〇観覧車のゴンドラ
僕たちの真ん中にはいつもチワワがいた。
そして・・・
付き合って数ヶ月後
〇屋敷の門
智子の両親に挨拶に行くことに
智子「ただいま〜」
修二「お邪魔します〜」
母「こんにちは! 智子の母です!」
父「どうぞ! 智子の父です!」
品のいいご両親だった
お義母さんのご馳走をいただき
母「美味しい?」
修二「はい!! 美味しいです」
母「いっぱい食べてね」
修二「ありがとうございます!!」
お父さんと音楽の話で盛り上がり
何だか、この家庭で智子が育ったのが納得できた
〇屋敷の門
夜も遅くなり、そろそろ帰る時間
「では、修二くん」
はい??
「智子を頼んだよ!」
修二「もちろんです!!」
嬉しそうに見つめる義母と智子
〇アパートのダイニング
家に帰ると電話がかかってくる
博士「もしもし、修二くん」
博士「4年前予約もらってた目の手術の件だけど」
すっかり忘れていた。
最新の再生医療で視力を回復できる手術のことだ
修二「あ、はい。もう手術お願いできるんですか?」
博士「あぁ遂に君の順番が来たよ」
修二(これで遂に、智子と目を見て話すことができる!)
チワワ「ワンワンワン」
修二「これでお前のことももっと知れるぞ〜」
〇手術室
手術当日
博士「では、手術を始めます」
修二「よろしくお願いします」
目を閉じる修二
〇手術室
目を開けると
銀の手術器具が目に入ってくる
博士「お疲れ様です」
博士「手術は・・・」
博士「成功しました」
〇総合病院
走って病院を駆け出す修二
修二「会いたい!! 早く智子にあって目を見て会話したい!」
修二「智子!今どこにいる?会いたい!会いたいんだ!」
智子「どうしたの急に?」
智子「私は家にいるけど・・・」
修二「待ってて! 今会いに行くから」
修二「理由は後で説明する!!」
〇平屋の一戸建て
智子の家に到着するが・・・
修二「おかしい」
住所は正しいはずなのに、家の形がまるで違う
修二「あの〜お邪魔します」
「どうぞ〜」
奥から義母の声が聞こえる
早く目が見えるようになったことを伝えたい修二
修二「実は俺・・・」
家の中に駆け込んで入る
〇怪奇現象の起きた広間
義母「いらっしゃい修二くん」
本当の義父「待っておったぞ修二くん」
修二「・・・・・・」
理解できない光景に言葉を失う修二
義母「一緒に食べましょ」
見たことのない物体を出す義母
義母「この前美味しいって食べてたでしょ?」
修二「智子は?? 智子さんはいますか?」
修二「智子〜智子〜」
本当の智子「どうしたの?」
見たことのない物体が目の前に現れる
修二「お前・・・ 誰だ・・・??」
本当の智子「誰って、私よ私 智子よ」
修二「いやだー」
家から飛び出し逃げる修二
〇一軒家の玄関扉
何が何だかわからない
ただ、
逃げるように雨の中家まで帰ってきた
智子から鬼のような着信が来ている
だが怖くて出られない
「クゥーン」
遠くからチワワの鳴き声が聞こえる
修二「そうだ 今日、餌を与えていなかった」
一旦落ち着き
チワワの方へ
修二「ワァー」
絶叫する修二
きっと疲れているんだ
そう言い聞かせ顔を洗いに洗面所に
〇白いバスルーム
顔を洗って冷静になろうとする
タオルで顔を拭き鏡を見つめる
本当の修二「ワァー」
見たことのない化け物が鏡の中で叫んでいる
本当の修二「これが・・・ 本当の・・・」
本当の修二「・・・俺?」
〇公園のベンチ
目が見えるようになって気がついた
この世界は思ったより美しくもないし
思ったほど鮮やかでもない
人間は皆、
薔薇色の眼鏡をかけているのだ
チワワは
可愛いからチワワなのではなくって
チワワだから可愛いのだ
究極の話、人間は全員見た目も中身も化け物なんだけど、「そういうもんだ」という思い込みと慣れで正気が保たれているんですよね。そうした共同幻想をチワワの存在に集約させたラストのセリフ、作者さんのセンスがすごいと思いました。
すごい優しい世界の話だと思って読んでいたら怖い話…というかなんだか人間の真理の話になっていました…。
目が見えない方がよかったのかもしれませんね…。少し不謹慎かましれませんが…。
テレビや雑誌のコマーシャルでなにかしら洗脳されている部分ってありますよね。流される、自分の目や耳で感じたもので判断し選んでいく癖をつけたいものです。とても面白い切り口だと思います!