泡沫ロマンス(脚本)
〇白いバスルーム
ゆり「ふんふ〜ん♪」
???(あ、ゆりちゃんだ)
???(なんだかとっても嬉しそう・・・)
???(何か良いことがあったのかな?)
ゆり「数学のテスト、まさかクラスで1位になるなんて!」
ゆり「ふふ、頑張った甲斐があったな」
???(そっか、今日はテストの返却日だったんだね)
???(ゆりちゃん、ずっと数学が苦手だってボヤいていたけど、)
???(とっても勉強頑張ったんだね)
???(よかったね、ゆりちゃん)
〇白いバスルーム
ゆり「あわわわ」
ゆり「大変大変!」
ゆり「バロンに隠された靴探してたら、こんな時間になっちゃった!」
ゆり「遅刻しちゃうよ〜!」
???(大変大変!)
???(急いで、ゆりちゃん!)
???(あっ!)
ゆり「きゃああ!」
ゆり「石鹸、待って〜!」
???(あいた〜!)
???(落ち着いてゆりちゃん!)
???(余計に遅刻しちゃうよ!)
〇白いバスルーム
ゆり「ぐすっ、ひっく・・・」
???(ゆりちゃん、なんだかとっても悲しそう・・・)
???(どうしたのかな・・・)
ゆり「試合、負けちゃった・・・」
ゆり「あんなにいっぱい練習したのに・・・」
ゆり「最後のシュート、どうして決められなかったんだろう・・・」
???(そっか、今日はバスケの試合だったんだね・・・)
???(ゆりちゃん、毎日練習頑張ってたもんね・・・)
ゆり「本当に下手くそだな、私・・・」
???(ゆりちゃん、そんなに自分を責めないで・・・)
???(ゆりちゃんは下手くそなんかじゃないよ)
ゆり「・・・そうよね」
ゆり「泣いてばっかりいられないよね」
ゆり「何がダメだったのか、また一から分析して練習しよう!」
ゆり「頑張るぞ〜!」
???(その調子だよ、ゆりちゃん!)
〇白いバスルーム
ゆり「はあ・・・」
???(あれ、ゆりちゃん)
???(顔が赤い・・・?)
ゆり「私、どうしよう・・・」
???(ゆりちゃん・・・?)
ゆり「バスケ部の先輩に告白されちゃった・・・」
???(・・・え?)
ゆり「『ずっと好きでした』って・・・」
???(そんな・・・)
ゆり「私も、先輩のこと・・・」
???(ゆりちゃん・・・)
〇白いバスルーム
(そっか・・・)
(そうだよね・・・)
(だって、ゆりちゃんは人間で・・・)
(僕はただの・・・)
宝石石鹸(宝石石鹸なのだから・・・)
〇宝石店
宝石石鹸(僕たちが出会ったのは、宝石石鹸の小さな専門店だったね)
宝石石鹸(僕はあの日のことを、今でも鮮明に覚えているよ)
宝石石鹸(店に入ってきた君は、目をキラキラと輝かせて僕たちを見渡してたね)
ゆり「わあ、すご〜い!」
ゆり「本当に全部石鹸なの?」
ゆり「きれ〜い!」
宝石石鹸(君はぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねてた)
宝石石鹸(それから君は、ショーケースに駆け寄って飾られている僕たちを1つずつ丁寧に見て回ってたね)
ゆり「う〜ん・・・」
ゆり「どれもキレイでいい匂いがして迷っちゃうなあ・・・」
ゆり「どうしよう・・・」
宝石石鹸(真剣に選んでいる顔がとても可愛くて、僕を選んで欲しいなって願望が生まれたんだ)
ゆり「う〜ん・・・あっ!」
宝石石鹸(君は僕の前に立った途端、いっそう目を輝かせて僕を見つめていたね)
ゆり「この子だ!」
ゆり「絶対この子にする!」
宝石石鹸(そう言って浮かべた笑顔に、僕は一瞬で恋に落ちたんだ)
〇白いバスルーム
宝石石鹸(あれからずっと・・・)
宝石石鹸(君が僕を使う度に、君への思いが溢れて・・・)
宝石石鹸(いつしか僕は、ずっと君のそばにいたいと思うようになっていた・・・)
宝石石鹸(でも、それは無理な話だった・・・)
宝石石鹸(だって僕は石鹸だから・・・)
宝石石鹸(使われれば使われるほど、僕の体は小さくなっていく)
宝石石鹸(そして、最後には・・・)
宝石石鹸(ねえ、ゆりちゃん)
宝石石鹸(僕は、君に出会えて本当に嬉しかった)
宝石石鹸(君に使ってもらえて、本当に幸せだった)
宝石石鹸(ゆりちゃんはどうだっただろう・・・)
宝石石鹸(君に少しでも喜んでもらえていたらいいな・・・)
〇白いバスルーム
ゆり「大変大変!」
ゆり「遅刻しちゃうよ〜!」
ゆり「お洋服選びに時間かかりすぎちゃった!」
ゆり「しかも手がバロンに舐められてべちょべちょだよ〜!」
宝石石鹸(ゆりちゃん、急いで!)
宝石石鹸(先輩との待ち合わせに遅刻しちゃうよ!)
宝石石鹸(あっ!)
ゆり「きゃああ!」
ゆり「石鹸、待って〜!」
宝石石鹸(あ痛〜!)
宝石石鹸(落ち着いて急いで、ゆりちゃ〜ん!)
ゆり「この石鹸、本当にいつもいい匂いだな」
ゆり「先輩もこの匂い、好きだって言ってくれたし」
ゆり「私、この石鹸だ〜い好き!」
宝石石鹸(ゆりちゃん・・・)
宝石石鹸(僕も君のことが・・・)
宝石石鹸(だ〜い好き!)
好きな相手と過ごす時間は嬉しいけれど、それに比例して自分の存在が徐々に失われていくという設定がなんとも切ない。まさに命がけで身を削る恋が泡のように消えてしまう美しくも悲しいロマンスでした。
物に意識があって、こんな風に思ってくれていたら凄く嬉しいです。物を大切にしなさい!とよく言われましたが、改めて大切にしないとなぁと感じました!
相対するものがまさかの石鹸、とても斬新な設定に驚きました。モノを単なる使うものとは思わず、少し目線かえて接する良い機会になりました。