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ビスマス工房

Story#0704:その人は、ただ微笑んでいた(脚本)

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〇歯車
  これは、母が私に語ってくれた昔話。
  そして、幼少期の私の不思議な体験だ。
  母は、いつも見えない何かと話をしていた。何かと聞けば、"お友達"だと言う。
  姿は見えなくとも、ずっと傍にいるのだと、母は語った。

〇カラフルな宇宙空間
  ある夜の夢の中だった。
シルエット4「初めまして、綾ちゃん」
  七色に輝いている星空を漂っていくと、見知らぬお姉さんが現れた。
シルエット1「お姉さん、誰?」
シルエット4「私は、──。よろしくね」
  優しそうな笑顔の、綺麗な人だった。
シルエット4「何をして遊びましょうか」
  その日から毎日、私はその人と遊んだ。
  その人は頼めばどんな場所にも連れていってくれたし、ありとあらゆる遊びを知っているようだった。
シルエット4「あら、もうすぐ朝ね」
シルエット1「バイバイ、お姉さん」
  毎日寝るのが楽しみになっていった。

〇黒背景
シルエット4「今日はね、あなたに会わせたい人がいるの」
  お姉さんにそう言われて、私たちは空の中を飛んでいった。
シルエット1「あ」
シルエット2「・・・・・・」
  そこには、白いマントを着たおばあさんが、静かに佇んでいた。
シルエット4「紹介するわ。この人は、私たちのお母さん」
シルエット1「・・・・・・こんにちは」
  おばあさんは何も言わずに、こちらを見つめていた。深い皺が刻まれたその顔には、見覚えがあった。
シルエット1「母さま?」
  おばあさんはどこかへ行ってしまった。
シルエット4「気に入られたみたい。いつか、私の兄弟姉妹たちも紹介するわ」
  お姉さんは笑い、夢は途切れた。

〇おしゃれな居間
シルエット3「何? ──が?」
  電話の向こうから聞こえた名前に、男は顔をしかめた。
シルエット3「本当なのか? ──が人間に接触したとは」
  恐るべきその名を、男は知っていた。
シルエット3「すぐにエージェントを送る。監視を続けろ!」

〇シックな玄関
  心を探るようなチャイムの音に、彼女は顔を上げリビングの掃除をやめて玄関に向かう。
シルエット3「こんにちは。私はWSA特殊事案捜査部門のエージェント葵と言います。少しお話しよろしいでしょうか?」
  その来客を家に上げて、お茶を出すと、男は訊ねてきた。
シルエット3「綾さんは、学校でしょうか?」
シルエット2「ええ。今の時間は学校だと思います」
  そう答えると、男は一枚の念写真を見せた。そこには、一人の美しい女性が写っていた。
シルエット3「この女性に見覚えは?」
シルエット2「・・・・・・いいえ」
シルエット3「綾さんが帰ってきたら、お近くの事務所までよろしくお願いします」
  男は写真をしまい、帰っていった。
シルエット2「・・・・・・”──”」
  見覚えはないと答えたが、彼女はその顔を知っていた。幼い頃に作った、幻想の天使。
シルエット2「まさか、そんな・・・・・・」
シルエット1「ただいま。どうしたの?」
  元気良く玄関を開けた娘に、彼女は訊ねた。
シルエット2「最近、どんな夢を見てるの?」
シルエット1「お姉さんと遊ぶ夢!」
  その答えに、彼女は耳を疑った。

〇シックなリビング
シルエット3「ただいま。あれ、どうしたの?」
  夫に言うべきだろうか。思い詰めた顔をして彼女は口を開く。
シルエット2「綾、毎晩、夢で誰かと会ってるみたい。その相手が”──”なのよ」
シルエット3「なんだって?」
  夫は眉間に皺を寄せた。空想が好きな彼女の最初の"お友だち"の名前だったからだ。幼なじみだった夫は、その名を知っていた。
シルエット2「実は、今日WSAの人が来たの。”──”と接触した人間を探してるみたい。”──”、危険な存在になったのかしら」
  ”それ”には綾も含まれる。夫は静かに言う。
シルエット3「明日、綾をWSA事務所に連れていこう」

〇渋谷のスクランブル交差点
  光り輝く壮麗な都市イスーラで、私は彼女と遊ぶ。小さな彼女の歩幅に合わせ、私たちは軽々とビルを飛び越える。
シルエット1「競争だよ、お姉さん」
シルエット4「・・・・・・!」
  楽しい時間に闖入者が現れた。
シルエット1「わ、ちょっと、お姉さん」
  私は小さな彼女を抱え、夢の外まで飛んだ。
  ここまで来れば安全だ。
シルエット2「どうしたんだい?」
シルエット4「お母さま、綾を頼みます」
  あの男が何者なのかは、知っている。彼女を捕らえさせはしない。
シルエット2「やれやれ、行っちまったねえ」

〇おしゃれな居間
  翌日、私は母と共に近隣のWSAエージェント事務所に行った。
シルエット3「こんにちは。中曽根綾子さんですね」
シルエット3「”タルパ”はご存じですか?」
シルエット1「いいえ」
  その人は、”──”と名乗ったあのお姉さんの正体を教えてくれた。
シルエット3「中曽根晴海さん、あなたは幼少期に、タルパを作っていましたね」
シルエット2「はい」
シルエット3「彼らは精神構造体、簡単に言えば意思や自我を持つものですよ。細かな設定をすればするほど、ね」
シルエット2「・・・・・・はい」
シルエット1「お姉さんをどうするの?」
シルエット3「我々の方で終了処分いたします」
シルエット1「・・・・・・嫌だ」
  自然と声が出た。
シルエット1「嫌だ。消しちゃうなんて嫌だ!」
シルエット3「お別れの挨拶を、すませておいてくださいね」
  その人は冷淡に言った。

〇魔法陣2
シルエット4「どうしたの?」
  ベッドで泣いていると、いつの間にか、夢の世界に入っていたようだ。その人はいつものように傍らに座り、話し掛けてきた。
シルエット1「お姉さん、今日ね」
  泣きながら、その日にあったことを話した。お姉さんは静かに聴いていた。
シルエット1「お姉さん、消えちゃうの?死んじゃうの?」
  泣きながら訊ねると、お姉さんは微笑んで、頭を撫でてくれた。
シルエット4「ええ。消えるかもしれないし、違うかもしれない。でもね、もし消えても、私はきっと、最後まで幸せだったって言えるわ」
  どうして、と聞こうとすると、目が覚めた。
シルエット4「・・・・・・」
シルエット3「よろしいですね?」
シルエット4「はい」

〇シックなリビング
シルエット1「お母さま、もうすぐ帰ってくるわ」
  今日は、妹を産んだ母が帰ってくる日。部屋を片付け、準備をする。
シルエット2「ただいま」
  両親が帰ってきた。母の腕に抱かれた小さな妹の顔を見ると、頭の中に声が響く。その瞳の輝きに、見覚えがあった。
「また会ったわね、綾ちゃん」
  確かにあの人の声だった。

次のエピソード:Story#0120:私の、世界で一番の

コメント

  • 私の姪が現実に目に見えぬ故人である私の父親や叔母と言動ではなくテレパシーのようなもので交信している時期がありました。姉夫婦の関係がとてもギクシャクした中で成長したせいなのか、それとも彼女が特性を持ち合わせたのかは分からないまま、今は高校生になってその症状はなくなったみたいですが。なのでこのお話がとても身近に感じられました。

  • 昔私も空想の人物を頭の中で考えていたことはあります。
    でもそれが自分が考えたものなのか、それとも何かしらの影響を受けて生み出されたものなのか…。それはわかりませんね…。

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