25歳の高校生

民奈涼介

エピソード1:不自然な辞令(脚本)

25歳の高校生

民奈涼介

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〇散らかった職員室
掛橋太志「ど、どういうことですか!?」
  ここは大手企業「カツザワ株式会社」のオフィスである。
  「商品と、夢を届ける」
  誰もが一度はこのキャッチコピーを聞いたことがあるだろう。
  今や、玩具商社は「カツヤマ株式会社」と「ウール株式会社」の二強と言われている。
  俺はこの有名企業に就職してから、四年ほど営業部で働いている。
  自慢ではないが、俺はそれなりに営業成績が高い。
  主任にこうして呼び出されたのは、昇進の話に違いないと高を括っていた。
松下課長「もちろん、本気だよ。君には「小海高校」に出向してもらう」
掛橋太志「しかし、私は講師の経験もありませんし、子供の相手は苦手で・・・」
  「学校に出向」?
  そんな話、聞いたことないぞ?
松下課長「大丈夫よ。掛橋君に授業を担当してもらいたい訳ではないし、子供を相手にする必要はないわ」
掛橋太志「では、一体?」
松下課長「ただ、学校に通って、授業を受けて、時間になったら帰宅するだけでいいの」
掛橋太志「「講師ではなく、高校生になれ」ということですか!?」
松下課長「えぇ。さすが掛橋君ね! 話が早くて助かるわ」
掛橋太志「・・・なんの為にですか?」
松下課長「市場調査よ。弊社が扱う商材は、主に20代以下の学生をターゲットとしてるでしょ」
松下課長「アンケートじゃ引き出せない、学生が求めているニーズを聞き出して欲しいのよ。あ、毎月一度は報告書を提出してね」
掛橋太志「学生のフリをするってことですよね? バレてしまったら大事になりませんか?」
松下課長「うちの社長は教育事業にも力を入れていてね。校長と古くからの友人らしいわよ。だから大丈夫」
掛橋太志「そういう問題ではない気が・・・」
松下課長「掛橋君、童顔だし」
掛橋太志「課長、下手したらそれパワハラですよ」
松下課長「もちろん、冗談よ」
掛橋太志「・・・」

〇教室
  キーンコーンカーンコーン!
飯田先生「それじゃあ授業を始めます。教科書の35ページを開いて」
  こうして僕は、高校生になった。
  自分でも言っている意味がよくわからないけれど、つまりはそういうことだ。
  学校に通い始めてから三ヶ月が経過したが
  びっくりするほど事は順調に事は進んでいる。
  誰からも怪しまることなく、僕は高校生になれてしまったのだ。
掛橋太志(こんなこと、あっていいのか? 25歳だぞ?おっさんだぞ!?)
掛橋太志(はぁ。出世コース外れたかな。 俺、何かマズイことしたっけ)
掛橋太志(それなりに業績は上がっていたはずなのに、どうして俺なんだよ・・・)
飯田先生「掛橋君!!」
掛橋太志「はいっ!?(裏返った声)」
飯田先生「3 5 ペ ー ジ」
掛橋太志「は、はい。すみません」
飯田先生「転校してきたばかりで、気が散るのはわかるけど。授業はちゃーんと、聞きましょうね?」
掛橋太志「はい」
  大人に怒られるのは久しぶりだ
掛橋太志(教科書開くのが遅れただけで、そんなに怒るのかよ・・・)
飯田先生「なんか言った?」
掛橋太志「い、いえっ!何も!」
  心の声が聞かれたことが不思議に思ったが、それ以上怒られたくないので、黙って教科書を開く。
飯田先生「それじゃあ、掛橋君に読んでもらおうかしら」
掛橋太志「はい。え〜 『彼女は長い髪を枕に敷いて、輪郭りんかくの柔やわらかな・・・柔らかな・・・』」
葛西美津子「うりざねがお」
掛橋太志「『う・・・瓜実顔をその中に横たえている』」
飯田先生「はい。じゃあ次の人!」
葛西美津子「この漢字、難しいよね」
掛橋太志「助かった、ありがとう」
葛西美津子「ふふ、どういたしまして」
  彼女は隣の席の葛西さん。
  社会人にもなって、年下の女の子に漢字を教えてもらう日が来るとは。
葛西美津子「ところで掛橋君。放課後、暇?」
掛橋太志「あ、あぁ。 暇っちゃ暇だけど」
葛西美津子「よかったら、一緒に帰らない? 実は掛橋君に話したいことがあって」
掛橋太志「え・・・あぁ、もち、勿論だ!」
掛橋太志(一緒に帰る・・・? 話したいこと・・・? このシチュエーション、まさか・・・)

〇川に架かる橋
葛西美津子「ごめんね、急に」
掛橋太志「い、いやいや。別に、何も用事ないし」
葛西美津子「・・・」
掛橋太志「・・・」
  一体、彼女は今何を考えているんだ。
  くそっ、こういう時何を話せばいい!?
  間が怖すぎるっ
掛橋太志「そ、そういえば今日は天気が良いね」
葛西美津子「うん」
掛橋太志「じ、実は、雨の日って株価が下がるらしいよ。統計的に見ても天気と株価は強い相関関係があるみたいで・・・」
葛西美津子「?」
掛橋太志「しまった! いつもの癖で鉄板の営業トークが!!」
葛西美津子「雨の日は副交感神経が刺激されるから、気持ちが受け身になって、リスクある選択を選びづらくなるってこと?」
掛橋太志「あ、えっと、その通りです」
掛橋太志(あっさりと理解されてしまった・・・)
葛西美津子「あの」
掛橋太志「は、はい!」
葛西美津子「掛橋君に大事な話があって」
掛橋太志「う、うん」
  ドクンっ・・・ドクンっ・・・。
  心臓が波打つ音が聞こえる。
葛西美津子「掛橋君」
掛橋太志「はいっ!」
葛西美津子「何か隠してること、あるでしょう?」
  途端、心臓が止まったように感じた。
掛橋太志「えっと・・・ど、どういう意味?」
葛西美津子「私にはわかるよ」
葛西美津子「私以外の人には誰も気づいていないし」
葛西美津子「多分先生も知らない」
掛橋太志「ど、どうしてそう思ったの?」
葛西美津子「掛橋君、全然流行りの話題とかついていけてないし」
掛橋太志「そんなことで・・・」
葛西美津子「それに」
  徐に制服の上着を脱ぎ始める葛西。
掛橋太志「ちょ、な、何を!? こんな公衆の面前で!?」
葛西美津子「私も同じだから」
  彼女の胸元にぶら下がっていたのは、随分と見慣れたものだった。
掛橋太志「・・・しゃ、社員証?」
葛西美津子「申し遅れました」
  そういって彼女は、脱いだブレザーから何かを取り出し、私に手渡した。
葛西美津子「ウール株式会社の葛西と申します」
掛橋太志「え」
掛橋太志「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
  聞こえたのは、俺の淡い恋心が、崩れ去る音。
  そして、高校を舞台にしたライバル企業との闘いが、幕を開けたのである。

コメント

  • まさかの展開…
    ライバル企業の敵?だったのか…
    でもここから始まるラブストーリー、そして手と手を取り合う元ライバル会社…想像が膨らみます笑

  • 大人になってから高校生に戻るって、なかなか出来ない体験ですよ!
    楽しそうな体験だなぁと思いましたが、主人公にとってはそうもいかないみたいで。
    会話とかすごく楽しめました!

  • こんなシチュエーションありそうでなかったですね!すごく面白くて是非続きを書いてほしいです。市場調査に乗り出すというところまではわかりますが実際に高校生になってしまったりライバル企業社員と出くわしたり。どこかで本当にそんなコトが行われている気がしてきました!

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