浅い空白(脚本)
〇ダイニング
ある日の朝。村田優一は新聞紙を読みながら、テレビのニュースをBGM代わりに聞いていた。
村田恵「はい。お味噌汁。 温かいうちに食べてちょうだい」
村田優一「ありがとう。 美味しいよ」
村田恵「せっかく作ったのに一口だけなんて、どこかお腹の調子でも悪いの?」
村田優一「いや。歳のせいかあんまりお腹が減らないんだ」
村田恵「そう。わかった」
恵は優一の前にあるお皿を下げて、台所に向かう。
村田優一「(台所にいる恵に向けて)すまないね。 夕食には必ず食べるよ。 ・・・今日の天気は何だい?」
「今日の天気は晴れです。降水確率は20%。最高気温18℃、最低気温11℃となっております」とスピーカーから流れる。
村田優一「便利な時代になったもんだよな。こっちの鶴の一声で知りたい情報が湯水の如くわかるなんてさ」
村田恵「機械に頼ってばかりだと、すぐ耄碌しますよ」
村田優一「世の中は常に流れているんだ。私たちが変わらないでどうするんだ」
お掃除ロボットが床を掃除して、食洗機が皿を洗い、冷蔵庫が今日の献立の提案メニューを表示している。
村田優一「使わない人間が言うセリフだろ。全く」
村田恵「私は家事全般を任せられているんですから、楽する権利はあります」
村田優一「若い頃には想像つかないような便利な生活に感謝しないとな」
村田恵「その話。あと何回聞けば良いんですか?」
村田優一「何回でも言うぞ」
村田恵「はいはい。そろそろ会合の時間じゃないの?」
村田優一「そうだった。 ネクタイはどこだったっけ?」
村田恵「洗面台に置いておきましたよ」
村田優一「ありがとう」
村田恵「レタスがきれていたんだっけ。私も出かけないと」
〇白いバスルーム
村田優一「ネクタイ結ぶのいつ以来だ?」
村田恵「リタイアしてからしばらく経つんですから、忘れちゃったんですね」
恵は優一のために、ネクタイを結ぶ。
村田優一「済まない」
村田恵「新婚の頃を思い出せたから、良かったです」
村田優一「そうか。 今度2人で昔よく行っていたレストランにディナーでも食べに行こうか?」
村田恵「まあ。 ネクタイを結んだだけなのに・・・ 今日は雨でも降るのかしら?」
村田優一「うるさい。 もう行く」
村田恵「いってらっしゃい」
〇おしゃれな玄関
村田優一「夕飯までには帰るから」
優一は玄関のドアに手をかける。
〇一軒家の玄関扉
村田優一「今日は天気が良いな」
サイレンが鳴る。
村田優一「なんだ一体?」
介護職員ロボ「村田優一さん。 家にお戻りください。 本日は外出日ではないですよ。 本日2度目の警告です」
村田優一「まさか。そんなことないはずだ」
介護職員ロボ「満腹度が限界値です。 2度の朝食はお控えください。 会合はこれからもありません」
村田恵「あなた。まだ出かけていなかったの? レタスきれたから買いに行こうかなと思っていたの。 このロボットは何?」
介護職員ロボ「村田恵さん。 買い物は自動配送されます。 お二人は速やかにお部屋にお戻りください」
〇ダイニング
テレビのニュースが流れる。
「痴呆症患者が1千万人突破」
優一が痴呆になった日付の新聞紙がテーブルに置かれている。
何気ない日常と思って読んでましたが、最後のロボットのところでびっくりしました。
でもたしかに、全部ロボット任せだと認知症になりやすそうだなぁと思いました。
なるほど…確かに機械に頼りすぎてるとボケるとかってよく聞きますが…。
お腹の減らない理由もそういうことだったんですね…。
年とともに、おなか減らなくなるのかぁなんてのんきに読んでましたが、最後のロボット参上で理解できました。2回めの外出、2回めの朝食、そういうことだったんですね。もし高齢の親が離れて暮らしていたら、私は子どもとして近くにいられなかったら、こういうロボットを安心感のために手配したくなりますね。