発進!NIN

鍵谷端哉

読切(脚本)

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〇空きフロア
男性「はい・・・。断り切れなくて、借金を」

〇漫画家の仕事部屋
女性「ブラック会社だったんです。でも、わか ってても辞めれなくて・・・」

〇テレビスタジオ
キャスター「という海外の圧力に負け、日本は規制を緩和し、経済に大打撃が・・・」

〇女性の部屋
  テレビを見ている千早が驚愕の表情を浮かべている。
千早「いけない!このままじゃ日本が危ない!今こそ、立ち上がるときだー!」

〇教室
千早「というわけで、NINを発足したいと思います!」
霞「・・・ ・・・」
啓子「・・・ ・・・」
霞「でさ、帰りに寄っていかない?」
啓子「うん。いいよ」
千早「無視しないでっ!」
霞「・・・ で?何を立ち上げるって?」
千早「NINだよ」
啓子「なにかの、格闘団体?」
霞「へー、面白そうじゃん。たまにはちーも良 いこと考えるな」
千早「違うよ!」
啓子「それなら、どんな団体?」
千早「ふっふっふー!それはね、『ノーと、言 える、日本へ』。略して、N、I、N!」
霞「・・・ ・・・」
啓子「・・・ ・・・」
千早「リアクションが薄いっ!」
霞「うーん。まあ、言いたいことはわかるけど、名前を聞いただけじゃ、どんな活動をするのかピンと来ないなぁ」
千早「それはね!ずばり!ノーと言えるようにするんだよ!」
啓子「ノーと言える?」
千早「そう!今の日本は断れない人が多い! 断れない人は結局、利用されてボロボロにされて、人生が終わっちゃうの!」
霞「大げさだけど、正しいっちゃ正しいか」
千早「でしょ!でしょ!」
啓子「でも、ノーと言えるようにするって、ど うやってするの?」
千早「つまり、私たちがノーと言える先陣を切 るの!」
霞「あー、やっぱり私たちも入ってるのか」
千早「私たちがノーと言っているのを見れば、きっとみんなだって、ノーと言いやすくなるよ」
千早「それが全国に広がれば、きっと日本はノーと言える国になれる!」
啓子「意外と、草の根活動なんだね」
霞「ちーにしては珍しいな。いつも派手好きな のに」
千早「大きな野望も一歩から!令和の私はコツコツやってきます!」
霞「おおー、成長したな。背はちっとも伸びな いけど」
千早「放っておいて!ふふん。もうすぐ私は十七になるんだもんねー」
千早「そうしたら、かーちゃんだって抜いてみせるもん」
霞「その呼び方はやめれ」
霞「・・・ それになんで、十七になったら背が伸びると思い込んでるのか不明だけどな」
啓子「あー、去年も言ってたよね。高校に入ったらギュンと背が伸びるって」
霞「まあ、伸びたっちゃ、伸びたよな。一セン チ。一年で」
千早「うがー!うるさーい!それに話が逸れてるー!」
霞「ごめんごめん。・・・ で、ノーと言えるのを先陣切るんだっけ?」
千早「うん、そう」
霞「今日帰りにケイとマケドに寄るつもりなん だけど、ちーも行かないか?」
千早「わーい!いくー!」
霞「隣の斉藤さんの家で、子犬が産まれたんだ ってよ。今度、もふりに行こうぜ」
千早「うん!絶対いく!」
霞「三回回って、ワンって言ったらポテチやる から、やってみろ」
千早「くる、くる、くる、ワン!」
霞「・・・ ノーって言えてねーじゃねーか」
千早「ぎゃー!しまったぁ!この策士め!」
啓子「それじゃ、霞ちゃん、帰ろうっか」
千早「見捨てるの早いよ!」
霞「まったく。ちーは、どうしたいんだ?」
千早「まずは校内を回ってみよう」

〇学校の廊下
千早「ふふふーん」
男子生徒「あ、高坂さん、ちょっとこれ持つの手伝ってくれない?」
千早「嫌っ!」
女生徒「千早ちゃん、そっちに行くなら、ついでに部室の鍵を職員室に返してくれない?」
千早「無理!」
用務員「君たち、あんまり遅くまで学校に残ってちゃダメだぞ。用がないなら帰りなさい」
千早「ぶぶー!帰りませーん!」
霞「・・・ な、なあ、これって」
啓子「うん。単に我がまま言ってるだけだね」
千早「あっはっはっは!」
千早「これできっと、みんなも私に続いてノーって言いやすくなったよね」
霞「いや、そうは思えんけど・・・」
啓子「ねえ、ちーちゃん。こういうのは、断らないといけないときに断るのがいいって話だよね?」
啓子「全部が全部、拒否するのは違うと思うな」
千早「んー?どゆこと?」
霞「ほら、あれだよ。人間には退いたらいけな いときがあるだろ?」
霞「そんなときに逃げずに相手と戦って、自分 の意思を通すってやつだよ」
啓子「・・・ ちょっと違うかな」
千早「難しいなぁ」
啓子「えっと、つまりね。やりたくないことを 無理やり押し付けられることってあるでし ょ?」
啓子「例えば、掃除当番変わってとか、お昼ご 飯買ってこい、とか」
啓子「そういうのを、ちゃんと自分の意思を伝えて、断るって言うのがいいんじゃないかな」
千早「・・・ 自分がやりたくないこと」
鬼平「おい!高坂!」
霞「げっ!鬼平」
鬼平「お前、まだ春休みの宿題出してないだろ!いつになったら、出すんだ!」
千早「はうっ!あわわわわ・・・」
鬼平「いいか?今月中にはちゃんと終わらせて提出するんだ!いいな!」
千早「わ、わ、私!やりません!」
鬼平「あん?」
霞「ばっ!ちー、空気読めって!」
千早「私、宿題やりたくありません!だから、宿題やるのは断ります!」
鬼平「ほほう。なかなか面白いこと言ってくれるじゃねーか。よし、三人共、生活指導室まで一緒に来い」
霞「えっ!?私たちも!」
鬼平「当たり前だ!」
啓子「そんな・・・」

〇ゆるやかな坂道
霞「うう・・・ 。なんで、私までこってりしぼられないといけないんだよ」
啓子「先生、マジ切れだったね・・・」
千早「ふふふふーん!断るって清々しいね。これぞ、ノーと言える日本!」
霞「・・・ あいつのメンタルすげーな」
  犬がキューンと鳴きながらすり寄ってくる
千早「あ、わんちゃんだ!可愛い―」
啓子「ちーちゃんに、すごいすり寄ってくるね」
霞「ちー、お前、何か持ってるんじゃないのか?」
千早「あ、今日のお弁当に骨付きのお肉が入ってたから、その骨かな?」
千早「これをあげるから、もふもふさせてね」
霞「待て、ちー」
千早「なに?」
霞「この子は野良だ。うかつに骨をあげたら、 つきまとわれるぞ」
霞「見ろ、あそこに野良犬には餌をあげないで くださいってチラシがある」
千早「ええー!骨、あげちゃダメなの?でも、ほら、この子、すごい欲しがってるよ?」
啓子「ちーちゃん、ノーと言える日本だよ」
千早「うっ!」
霞「そうだ。ほら、放っておいていくぞ」
千早「う、うう・・・」
  キューンと鳴く犬
千早「NIN、解っ、散っ!」
  千早が子犬に骨をあげる。
霞「・・・ 今日、怒られたのなんだったんだろうな」
啓子「・・・ そうだね」
  終わり。

コメント

  • テーマが深い

  • 現代の日本人に是非読んで頂きたいですね。
    自分も含めてノーと言える人は減っているように思えます。
    寧ろノーと言いづらい世の中になっていますよね。
    一方通行のお願いは協力でも相談でもありませんしね…。

  • 日本の学校教育は良い面もたくさんありますが、一人の個性より、集団の中の一人としてどうあるべきかという教えが根底にあって、なかなか自分の意見を率直に言える若い人たちが少ないと思います。自分と違う考えを持つ人にもう少し寛大になれたらいいですね。

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