泣かない蝉

真庭

エピソード1(脚本)

泣かない蝉

真庭

今すぐ読む

泣かない蝉
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇フェンスに囲われた屋上
  ──気が付けば、屋上に立っていた。
  もう何年も見つめ続けた景色を、
  フェンス越しに俯瞰する。
  ──隣に誰かがいるのは判っていたけれど、
  気付いていることすら察知させては
  いけないとも解っていた。
  だから、
???「──」
  何が聞こえても、
  服越しでもそうと判るほど
  冷たい手がわたしに触れても、
  ただ、フェンスの向こうを
  見つめ続けた。

〇中庭
  何の気なしに、中庭を見下ろした。
  この病院は大きいから、
  屋上から見た中庭は遠い。
  だけど──
  何故か、中庭にいるのが、誰かが判る。
ソラ(カナタちゃんにユリカちゃん・・・ ハルトくん、ミナトくん・・・ アユミお姉さん、ナチお兄さん・・・)
  追いかけっこでもしているのだろう
  彼らは、みんな、それぞれの理由で
  入院していた人たちだ。
患者の女の子「ソラちゃーん」
患者の女の子「一緒に遊ぼ?」
患者の男の子「ソラ姉ちゃん!」
患者の男の子「今、みんなで鬼ごっこしてんだ!」
患者の男の子「ソラ姉ちゃんも来いよ!」
患者の男の子「・・・そーちゃん・・・」
患者の男の子「・・・そーちゃんも・・・一緒に、遊ぼ・・・」
  屋上から見ていたことに気付いた
  子たちが、全身を使ってわたしを
  遊びに誘う。
ソラ(──みんな、気付いてないんだ)
  特に理由はない。
  ただ、直感的に解ってしまう。
  隣にいる誰かと同じで、
  彼らの声にも、応えてはならない。
  彼らがいると気付いていることも、
  察知させてはならない。

〇フェンスに囲われた屋上
  何も見てないふりをして、踵を返す。
???「ソラちゃん」
???「ソラ姉ちゃん」
???「そーちゃん」
  わたしを呼ぶ幼い声に、ノイズが混じる。
  それでも何も知らないふりをして
  ドアノブに手をかけた時──
???「──どうして、何も気付いていないふりをするの?」
  背後から耳元で囁く声がした。
  それでも聞こえないふりをして、
  ドアを開ければ──

次のエピソード:エピソード2

コメント

  • ソラが常に死と隣り合わせで、死から手招きされている夢を見る描写には胸が痛みます。病院の中が人生の全てで、その箱庭の世界でもより良く生きようとするソラ。それを支えるリュウとショウ。三人の関係性も興味深いです。

  • ソラちゃんは重病を患いながらも、精神がきっと強く心の優しい女の子なんだろうなあと感じました。彼女の両親への恩というだけではなく、彼等はもっと深い愛で支え続けているのでしょうね。

  • なんだか怖い話でもあり深い話でもありますね。
    人間の命というものは儚いもので、自分と関係のない人が亡くなったとしても、それを知らなければ何も知らない…。
    その場所、その時に何が起こったかなんて…。

成分キーワード

ページTOPへ