ミコちゃんと自販機の神様(脚本)
〇神社の本殿
父ちゃん「ミコ、ごめんな~! 今日は一緒にいられないんだ」
ミコ「年始は忙しいですからな」
ミコ「ミコはひとりで大丈夫」
ミコ「ムリだけは禁物ですぞ?」
父ちゃん((できた娘だ))
父ちゃん((できすぎてるような気も・・・))
〇神社の出店
屋台のおっちゃん「ミコちゃん! また背が伸びたなァ!」
ミコ「おかげさまで」
屋台のおっちゃん(7歳だっけか?)
ミコ「はい、小学1年生ですぞ」
屋台のおっちゃん「えらいしっかりしてるなァ!」
屋台のおっちゃん「うちのどら息子にも爪の垢を煎じて 飲ませてやりてェくれェだぜ!」
ミコ「恐縮ですな」
屋台のおっちゃん((7歳だよな?))
屋台のおっちゃん「そうだ! 大阪焼き食ってくかい?」
屋台のおっちゃん「大好きだったよなァ?」
ミコ「そうそう! おっちゃんの大阪焼きが大の好物でして!」
ミコ「いつもすみませんなぁ」
屋台のおっちゃん((本当に、小学生?))
〇神社の石段
ミコ「もぐもぐ」
???「ミコちゃん、食べ歩きは危ないよ?」
ミコ「あ、コマさん」
ミコ「半分食べます?」
コマ「遠慮しとくよ」
コマ「おじさん、薄味派だから」
ミコ「やれやれ、これだから犬っころは」
ミコ「大阪焼きの味わいもわからないとは 嘆かわしい」
コマ「いやだから、犬じゃなくてコマ犬 『霊獣(れいじゅう)』なのよ?」
ミコ「ミコ、わかんな~い♪」
コマ「子供のブキを知っている子供・・・ 恐ろしや」
ミコ「ごっくん」
ミコ「さてと」
ミコ「コマさん、今日はヒマだから特別に相手をしてあげますぞ」
コマ「どこか行くのかい?」
ミコ「しょっぱいもの食べたから甘いものが 食べたい気分ですぞ!」
コマ「お金は?」
ミコ「ふっふっふっ・・・!」
ミコ「この日のためにとっておいたのだよ!」
コマ「おお! 10円あれば好きなもの買い放題だねェ!」
ミコ「よし! いざ行かん!」
コマ「ゴヴェッ!」
ミコ「さあ行けー! 馬車馬のごとくー!」
コマ「あいたたた! おじさん、もう年なのよ・・・!」
ミコ「だらしないですなぁ」
ミコ「日頃の運動が足りてない証拠ですぞ?」
コマ「うう・・・ちょいとがんばりますか」
〇神社の石段
父ちゃん「ミコ?」
父ちゃん「また独り言か」
父ちゃん((寂しい思いをさせちまってるんだな))
父ちゃん((今度初売りにでも連れて行ってやるか))
父ちゃん「はは。 ミコったら、宙に浮いて・・・」
父ちゃん「ううう、浮いてるぅ!?」
〇ボロい駄菓子屋
ミコ「ついたー!」
コマ「もうダメ・・・」
ミコ「体力がありませんなぁ」
コマ「おじさん、もうウン百歳だし」
ミコ「まだまだ若いですぞ!」
コマ「7歳児が言います・・・!?」
駄菓子屋のばあちゃん「いらっしゃい」
ミコ「こんにちは~!」
ミコ「これで買えるだけください」
駄菓子屋のばあちゃん「ないよ」
ミコ「え!?」
ミコ「お姉さん」
駄菓子屋のばあちゃん「あらやだ」
駄菓子屋のばあちゃん「お年玉あげる」
ミコ「やった~!」
コマ「やだこの子、こわい」
〇通学路
ミコ「ぺろぺろ」
ミコ「まさか『やみい棒』すら買えないなんて」
ミコ「世の中、世知辛いですなぁ」
コマ「まさか10円の価値がこんなにも下がっていただなんて」
コマ「おじさんショックよ」
「はぁ~」
ミコ「あ、自販機だ!」
コマ「なになに? お金ないでしょお?」
コマ「ちょっとォ! 何してんのォ!?」
ミコ「ありませんなぁ」
コマ「やめなさいやめなさい!」
コマ「お釣りを漁るんじゃありません!」
コマ「なんて浅ましい!」
ミコ「そんな言う?」
コマ「さい銭ドロボウをごまんと見てきましたから」
コマ「手も足も出せない辛さ、わかるかい?」
ミコ「ミコ、わかんな~い♪」
コマ「少しはわかろうとしなさい」
ミコ「おさい銭とお釣りの取り忘れは別物では?」
???「同じぞよ!」
ミコ「誰だッ!?」
???「ひっ!」
コマ「驚かせなさんな」
〇ソーダ
ベンゾー「我は自動販売機の神様、ベンゾーである!」
〇通学路
ミコ「ビンゾー?」
ベンゾー「『ビン』ではない! 『ベン』ぞよ!」
ベンゾー「誰が『ベン』ぞよ!」
((楽しそうだな))
ベンゾー「驚いたぞよか、人の子よ?」
ミコ「自販機か~」
ミコ「あんま歴史ありませんな」
ベンゾー「ぞよ!?」
コマ「よしなさい」
コマ「ベンゾー様、ショック受けてるじゃないの」
ミコ「失礼」
ミコ「イマドキって感じですな」
ベンゾー「なんたる侮辱!」
ベンゾー「我なくしてジュースを買えると 思うなぞよ!」
ミコ「コンビニあるし」
ベンゾー「ぐっ!」
ミコ「スーパーあるし」
ベンゾー「ぐっぐっ!」
ミコ「てか自販機高いし」
ベンゾー「ぞよよ〜!」
コマ「あらら、泣かせちゃったよ」
〇通学路
ベンゾー「卑しき子なればと思っておったが いよいよ我慢ならんぞよ!」
ベンゾー「人の子よ! 小銭を投じ、我を求めるぞよ!」
ミコ「ほいっ!」
ベンゾー「なっ!?」
ミコ「10円ですぞ?」
ミコ「喜びたまえ」
コマ「ビンゾー様呆けちゃってるじゃないの」
ベンゾー「ハッ!」
ベンゾー「我は『ベンゾー』ぞよ!」
コマ「あ、すみません、つい」
ベンゾー「『つい』!?」
ミコ「10円なんてはした金、ミコには不要ゆえ」
コマ「10円しか持ってないのに」
ミコ「でも、必要とあらばベンゾーさんに 差し上げるのもやぶさかではありませんぞ」
コマ「ムリしなさんな~!」
ベンゾー「ミコ殿・・・!」
ミコ「何があったか聞かせてもらえますかな?」
ベンゾー「ミコ様ぁ~!」
コマ「お株が急上昇だねェ〜!」
ミコ「黙りなさい、卑しき犬っころよ」
コマ「だからおじさんは霊獣だって」
コマ「卑しくないよ!?」
〇街中の道路
ベンゾー「ここ最近、自動販売機の台数が減ってきているぞよ」
ベンゾー「売り上げも減ってきて、我へのさい銭も・・・」
ミコ「おさい銭とは?」
ベンゾー「お釣りの取り忘れぞよ」
ミコ「おどれぇ!」
ベンゾー「痛いぞよ! 何ぞよ!?」
コマ「八つ当たりはよしなさい」
コマ「ミコちゃんのものでもないでしょお?」
ミコ「ガルル・・・!」
コマ「どおどお。 ミコちゃんのほうがよっぽど犬っぽいよ」
コマ「お釣りの取り忘れはお巡りさんに届けようね」
〇通学路
ベンゾー「ゆえに我は求める」
コマ「自動販売機の復権ですか?」
ベンゾー「コンビニの死滅ぞよ!」
コマ「なんてことを!」
ベンゾー「スーパーの死滅ぞよ!」
コマ「恨みの根が深い! 深すぎる!」
ミコ「ムリですな」
コマ「もうちょい婉曲的に・・・」
ミコ「ベンゾーさんは自分のことしか考えていないのですな」
ミコ「コンビニもスーパーも、なくなったら 父ちゃんが困る」
ミコ「それは・・・ミコもイヤですぞ」
コマ「ベンゾー様、人には人の暮らしがあります」
コマ「我々は人の信仰によって生まれたのですから」
コマ「人の暮らしが良くなるのは喜ばしいことでは?」
コマ「そりゃ威信が失われることは悲しいことですけど」
コマ「消えてしまうかもって怖くなるかもしれませんけど」
コマ「ん~、私もどうすればいいのかわかりませんけど」
ミコ「まったく、役に立ちませんな」
コマ「相変わらずお厳しい」
ミコ「ミコに名案がありますぞ!」
コマ「名案!?」
ベンゾー「ぞよ!?」
〇通学路
道行くサラリーマン「早く戻らないと部長に叱られる!」
道行くサラリーマン「あいてててっ! 脇腹つるぅ!」
ミコ「お兄さん」
道行くサラリーマン「ん?」
ミコ「1本いっときます?」
道行くサラリーマン「そうか! これがあれば!」
道行くサラリーマン「ぐびびびび」
道行くサラリーマン「も・え・て・き・たー!!」
道行くサラリーマン「うおおおっ!!」
ミコ「うまくいきましたな」
ベンゾー「ぐびびびび! 思惑どおりぞよ!」
コマ「いいのかなァ? これ、ほんとにいいのかなァ?」
ミコ「文句があるなら代案を言いたまえ」
コマ「え~?」
コマ「例えば、ミコちゃん家に自動販売機を設置するとか」
ベンゾー「おおっ!」
ミコ「却下」
コマ「今、個人的な感情入らなかった? 気のせい?」
ミコ「ミコ、わかんな~い♪」
コマ「ああ、そお」
〇空
〇通学路
ベンゾー「結局、最初のひとりだけだったぞよ」
コマ「そういう日もありますよ」
ミコ「このままじゃあいけませんな」
ベンゾー「ミコ殿・・・」
ベンゾー「ありがとうぞよ」
ベンゾー「でも、もういいぞよ」
ベンゾー「滅びるは運命」
ベンゾー「ならば、せめてその時まで使命を全うするぞよ」
コマ「ベンゾー様・・・」
ベンゾー「今日は楽しかったぞよ」
ベンゾー「また来てくれると・・・我も嬉しいぞよ」
ミコ「明日も来ますぞ」
ベンゾー「ぞよ?」
ミコ「ミコが毎日、ベンゾーさんからジュースを買いますぞ」
ベンゾー「ぞよよ!?」
コマ「いやでも、ミコちゃんお金ないでしょお?」
ミコ「父ちゃんから借りますぞ」
ミコ「出世払いで」
コマ「いやいや! 1本150円くらいするんでしょお?」
コマ「毎日買ってたらすぐに破産しちゃうよ!」
ベンゾー「ミコ殿はそれほど貧困ぞよ・・・!?」
ミコ「父ちゃんの稼ぎはそんなに良くないけど」
ミコ「2人が気にすることじゃありませんぞ」
ミコ「ミコは毎日友人に会いに来るだけ」
ミコ「大層なことじゃありませんぞ!」
ベンゾー「友、とな・・・」
コマ「・・・・・・」
ベンゾー「・・・我は神ぞよ 友などという低俗な関係にはならぬぞよ」
ベンゾー「ただ」
ベンゾー「我が眷属として仕えることなら認めるぞよ!」
ミコ「じゃあバイバーイ!」
ベンゾー「ウソッ! ウソぞよッ!」
ベンゾー「友になってほしいぞよッ!!」
ベンゾー「お願いぞよッ! 土下座! 土下座するぞよッ!」
ベンゾー「お願いするぞよ~!」
コマ「ビンゾー様・・・」
ベンゾー「ベンゾーぞよ!」
コマ「あ、すいません」
ミコ「頭を上げたまえ」
ミコ「今日からミコたちは友ですぞ」
ベンゾー「ぞよ」
ミコ「ところでベンゾーさん、ノドが渇きましたな」
ミコ「ちらっちらっ」
ベンゾー「お金を入れてほしいぞよ」
ミコ「チッ」
コマ「育ちが悪いよ、育ちが」
〇空
ベンゾー「親しき中にも礼儀ありぞよ」
コマ「仕組みの問題では?」
〇神社の本殿
ミコ「父ちゃん?」
父ちゃん「あ、ああ、ミコ」
父ちゃん「おかえり」
ミコ「ただいま」
ミコ「父ちゃん、お願いがあるぞ」
父ちゃん「何だ?」
ミコ「150円×365日×10年分のお金が欲しいぞ」
父ちゃん「え? 何それ? 引っかけ問題?」
父ちゃん「ん〜」
父ちゃん「・・・もう少し大きくなったらな」
コマ((逃げた))
父ちゃん「何か欲しいものでもあったか?」
ミコ「友人にくれてやるぞよ」
父ちゃん「『ぞよ』!?」
コマ((移った~!))
父ちゃん「寒いだろう? 中に入ろう」
コマ((逃げた))
ミコ「うん」
ミコ「コマさんも行きますぞ?」
コマ「おじさんはいいよ」
ミコ「おだまりですぞ」
コマ「は~い」
コマ「ぎょえっ!!」
ミコ「隙ありですぞ~!」
コマ「もう、腰が・・・」
父ちゃん「ふふふ。 ミコったら、また宙に浮いて・・・」
父ちゃん「ううう、浮いてるぅ!?」
ミコちゃんは人生何周目なんだろうか。おじさんの霊獣コマとの掛け合いが最高ですね。ビンゾーじゃなくてベンゾーさんの「ぞよよ〜っ」て今度使ってみようかな。
ベンゾー氏、強く生きろ…
コマとどのように知り合ったかが気になるところですね。7歳なのに長い付き合いのバディ感が出てるので笑
ミコちゃんはなかなか機転の聞く女の子ですね。それをコマ犬が見破りながらも彼女を立てているところがまたいいですね。10円というと、今では消費税の一部という感覚しかない大人です・・・。