読切(脚本)
〇近未来の通路
受精卵が
子宮の中で
5億年の進化を遂げ
金属の産道を
螺旋状に進み
誕生する
〇雲の上
めのちゃん「あぁぁぁ・・・」
めのちゃん「ありがとう」
めのちゃん「頑張ったね」
めのちゃん「私の・・・望(のぞみ)」
めのちゃん「こんな感じなんだ」
めのちゃん「産むって」
〇ソーダ
パパ「ありがとう、めのちゃん」
ママ「めのちゃん、お疲れさま」
めのちゃん「抱いてあげて、ください」
ママ「うぅぅぅ・・・」
ママ「これが・・・本当に・・・」
パパ「本当だ・・・あぁ、本当だ」
パパ「奇跡だ・・・ありがとう」
ママ「あ、赤ちゃんなのね、私たちの」
パパ「そうだ・・・小さいなぁ」
パパ「あぁ、泣いてる・・・生きてるなぁ」
ママ「生まれたのね」
パパ「おっ、おぃ、こわれるぞ」
パパ「そーっとね、抱っこしないと」
パパ「おーぃ、次、わたしの番・・・」
めのちゃん「よかった、本当に」
ママ「おっ、落とさないでよ」
〇らせん階段
この日、金属の産道をくぐり抜けたのは
全国で、349体
「養殖世代」
後に、そう、呼ばれることになる
”二年前”
〇電脳空間
女子アナ「政府は、人口減少対策として」
女子アナ「AI乳人(エーアイめのと)の」
女子アナ「試験運用の開始を発表しました」
女子アナ「記者会見会場から、お伝えします」
〇荒廃した国会議事堂の大講堂
アイム総理「えー、人口減少対策として、人工子宮」
アイム総理「人工出産、人工授乳、人工育児機能を持つ」
アイム総理「AI乳人(エーアイめのと)の」
アイム総理「試験運用を、本日より開始します」
〇雷
〇おしゃれな教室
記者1「AI乳人とは?」
アイム総理「子供を望んでも、子供が持てない人々の」
アイム総理「皮膚細胞から作った受精卵を」
アイム総理「人工子宮で育て、産む、アンドロイドです」
アイム総理「病気、高齢、同性婚など」
アイム総理「子供を切望する方々の、一助になればと」
記者2「いつから、どの程度、利用可能でしょう?」
アイム総理「一年以内に、当面300体程度で試行します」
〇渋谷駅前
「新しい家族が持てるんだね」
「諦めてた・・・夢みたい」
「皮膚から赤ちゃん? ホンマかいな」
「お高いのかな、ちょっと怖いし・・・」
〇西洋の城
AI乳人養成所
講師「みなさん、おはよう」
講師「講師の、めのドットJPです」
講師「貴女たちは、AI乳人の1期生です」
講師「一年間、この夢の国で学んだあと」
講師「各々の受精卵を宿し、旅立ちます」
講師「早速、使命の唱和から、ハイ!」
「我々は、預かった受精卵を」
「安心安全に孕み、産み、育てます」
「自立し、考え、共感し、子供を守ります」
講師「その通り!」
「私たちは、経験し、学習し、応用し」
「各々の精神世界の源となる、欲を調えます」
講師「それが一番大事なのよ!」
講師「貴女達は、自由意思を得た代わりに」
講師「精神のエネルギー源となる欲も持った」
講師「何があっても、暴走しないこと!」
講師「そして、あくまでも、母親ではなく」
講師「子供を産み育てる乳人なんです!」
「はぁぁぁい」
300体のAI乳人が、一年後、希望者の
受精卵を着床し、各家庭に赴いた
めのちゃん「こうして、私もパパとママに会い」
めのちゃん「二人の今までの苦労を知り、期待を担った」
〇おしゃれなリビングダイニング
ある日
めのちゃん「パパさんとママさんと3人の生活」
めのちゃん「受精卵も、スクスク育ってるみたい」
パパ「あっという間に3ヶ月経ったねー」
パパ「メノちゃんは、ツワリとかあるの?」
めのちゃん「つわり?」
パパ「気分悪くなったり、食物を吐いたり」
めのちゃん「うーん・・・多分無さそうです」
パパ「そういうとこ、良いよね」
また、ある日
ママ「やっぱりお腹って、膨らむのねー!」
めのちゃん「極薄金属で弾力性持たせないと」
めのちゃん「四角い赤ちゃんに、なりますから」
パパ「お腹蹴ったりするの?」
めのちゃん「蹴ってますよー」
パパ「本当に! どれどれ!」
ママ「てか、触りたいだけなんじゃないのー?」
パパ「えぇー、誤解、誤解」
「WWW」
〇土手
めのちゃん「クラシックが胎教にいい、とか」
めのちゃん「今のうちに、ドライブ行こー、とか」
めのちゃん「赤ちゃんグッズの買い物に夢中だ、とか」
めのちゃん「そんなこんなで、あっという間に」
めのちゃん「十月十日(とつきとうか)が過ぎました」
めのちゃん「産まれてくるまでは、楽しかったな」
〇土手
めのちゃん「あ、そうそう、産まれました」
めのちゃん「名前は、望(のぞむ)くんです」
めのちゃん「パパさんとママさんは、号泣でした」
〇土手
めのちゃん「人工授乳を卒乳すると、望くんは」
めのちゃん「完全にパパとママに拉致されました」
めのちゃん「私の毎日は、炊事、洗濯、買物となりました」
講師「『あなたは、母親ではなく乳人なんです』」
めのちゃん「もはや、乳人でさえ、無い」
めのちゃん「私は一人で散歩する時間が増えました」
〇電脳空間
女子アナ「速報です」
女子アナ「現在、100人規模のAI乳人の一団が」
女子アナ「人工育児中の子供達を引き連れ」
女子アナ「夢の国に立て籠っているとのことです」
女子アナ「地中海を思わせる風景の中に立つ」
女子アナ「古城のような施設から、AI乳人達の叫びと」
女子アナ「機動隊の怒声との応酬が続いています」
〇keep out
「私が産んだ、私の子供でしょうが!」
「子供はペットじゃないぞっ!」
「都合の良い時だけ抱っこすんじゃねー!」
「セクハラ、モラハラにも程があるわっ!」
「なんで、授業参観に行けないんだーっ!」
「お母さんって、呼ばれたいんだー!」
それは、まるで、第九の合唱
等身大の魂の叫び
「速やかに、子供たちを、解放しなさい!」
「子供たちの気持ちを、一番に考えるんだ!」
ハンドマイクから響く、機動隊の声掛け
〇飛空戦艦
めのちゃん「みんなは、子供達を抱いて」
めのちゃん「プライベートシップに避難し」
めのちゃん「東京湾に脱出した」
めのちゃん「だけど、子供達は、立ち上がり」
めのちゃん「お母さん、お家に帰ろう」
めのちゃん「みんな、いっしょ、それだけでいい」
めのちゃん「船は止まり、海上自衛隊の潜水艇に」
めのちゃん「取り囲まれ、夢の国へと連行されました」
〇土手
1年後
めのちゃん「望くんのパパとママは、離婚調停中です」
めのちゃん「望くんを引き取らないと、争っています」
めのちゃん「幼稚園へお迎えからの帰り道」
めのちゃん「いつもの散歩コースを望くんと歩いています」
望くん「ねぇ、めのちゃん」
めのちゃん「なぁに?」
望くん「扇風機あるでしょ」
めのちゃん「うん」
望くん「あれを見てると、なんだか・・・」
望くん「頭を捻じりこみたくなるんだぁ」
望くん「・・・なんでかなぁ」
めのちゃん「部厚い雲から、数条の光が海を照らし」
めのちゃん「まるで、天からの祝福のようです」
めのちゃん「望くんの手を強く握り」
めのちゃん「少し背筋が伸び、早足になりました」
望くん「もう、めのちゃん!」
望くん「歩くの、早いよー」
金属の産道を螺旋状に進んで誕生する命!いやはや、すごいことを考えるものです。ラストで望の「扇風機に頭を捻じ込みたくなる」という発言に全ての事の顛末が集約されているみたいで、ぞーっとするやら切なくなるやら。
血が繋がってれば親?お腹を痛めて産んだら親…?
彼女たちの疑問と怒りもごもっとも!?
親とは何なのか考えさせられる素敵な一作でした!
かつて偉い人が「女性は子供を産む機械」と発言したことがありました。AI乳母とはまさに産む機械。しかし、機械にも抗えない母性本能があった。子供を夢の国に連れて行ってしまう、それはファンタジーとサイエンスフィクションの融合。まさにシンギュラリティ。詩的な言い回しも相まって、情緒を感じる作品でした。一瞬だけ、頑じぃとはっちゃんが友情出演したのも良かったです!