カラフル・スクランブル

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#1 透明少女はピンクに夢見る(脚本)

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〇白いバスルーム
  無色透明のリップクリーム。
  鏡の前でそれを塗るたび、
  唇が淡いピンクに染まる姿を想像してた。
  本当は、ピンクのリップが
  塗りたかったから。
  だけどそれが叶うことはない。
  だって『僕』は──
  女であることを、隠しているから。
水瀬真一「あーあー」
水瀬真一(・・・変な声)
水瀬真一「あーあー・・・」
水瀬真一「あ──」
水瀬真一「ごほっ・・・げほっ・・・ ごほごほっ」
水瀬真一「・・・はぁ」
  喉仏をそっとなぞると、
  昨日よりも出ている気がした。


〇おしゃれなリビングダイニング
  11月15日、今日の天気です。
  東京の天気は晴れ。日中の気温は12℃程度までしか上がらず──
父親「母さん。冬物の上着、用意しておいてくれ」
母親「もう用意してあるわよ。 朝ごはんができたら持ってくるわね」
父親「あぁ、頼む。 ・・・あと、お茶まだか?」
母親「ごめんなさい、すぐに出しますね」
水瀬真一「・・・おはよう」
水瀬真一「ごほごほっ」
母親「おはよう真一。まだ喉は痛む?」
父親「何日も続いてるし、やっぱり声変わりだろうな」
水瀬真一「うん・・・」
母親「高校生になってもなかなか始まらないから、心配してたのよ」
母親「良かったわねぇ」
水瀬真一「・・・・・・」
水瀬真一(良かったなんて、思えないよ)
水瀬真一(どんどん『男』になっていくのに・・・)
母親「あら、どうしたの?」
水瀬真一「え、いや・・・ ちょっと声が出しにくいのが嫌だなーって」
  ──今日紹介したのは、注目のアーティスト、iroha(イロハ)さんでした!
  それでは最後にひと言どうぞ!

〇白
iroha「今日のライブ、みんな来てね〜!」

〇おしゃれなリビングダイニング
水瀬真一「・・・iroha」
母親「この人、もしかして男の人?」
父親「こんな声で女の訳がないだろう」
母親「性同一性障害の人なんて、 朝の番組に出して大丈夫なの?」
母親「・・・気分が悪いわ」
父親「嫌ならチャンネルを変えろ」
父親「気にするだけ無駄だ。 どうせ俺たちには関係ない奴なんだから」
水瀬真一「・・・・・・」
水瀬真一「・・・そうだ!」
水瀬真一「『俺』・・・日直だから早く学校行かなきゃ!」
  そんなの、もちろん嘘だった。
  この場から、逃げ出さずにはいられなかった。
母親「ちょっと真一、朝ごはんは──」
水瀬真一「いってきます!」

〇黒
  ──逃げ場なんて、どこにもないけれど。

〇電車の座席
水瀬真一(iroha、だっけ)
水瀬真一(なんとなく名前は聞いたことあったけど、あんな見た目だったんだ)
水瀬真一(・・・あった。公式アカウント)
  今日は宮下公園のフリーライブイベント!
  私の出番は15時から。
  よかったら遊びに来てね;)♡
水瀬真一(渋谷かぁ。 人の多い場所って苦手だなぁ・・・)

〇大きな木のある校舎

〇教室
教師「──じゃあ、さくっと説明していくから。次のページ開いて」
  『みんなで考えるLGBTQ』
教師「まず最初のLがレズビアン、 Gはゲイで・・・」
水瀬真一「・・・はぁ」
男子生徒A「お前、実は俺のこと好きだったりして」
男子生徒B「やめろよ、気持ちわりーな!」
教師「そこ、うるさいぞー。静かにしろ」
水瀬真一(・・・だから学校なんて嫌いなんだ)
教師「じゃあ、次」
教師「Tはトランスジェンダー」
教師「性自認が出生時に割り当てられた性別とは異なる人で──」
女子生徒A「あーなるほど。 ゲイじゃなくてこっちか」
男子生徒A「やだぁ、バレちゃった〜」
女子生徒A「なにその声。 キモいんだけど、あははっ」
水瀬真一(こんな授業聞いたところで・・・ どうせ何も変わらない)
教師「だから、性自認って言うのは・・・」
水瀬真一「──すみません」
教師「水瀬、どうした?」
水瀬真一「・・・気持ち悪いので、早退します」

〇渋谷のスクランブル交差点
  家にも学校にも、居心地の良い場所はない。
  どこへ行こうか考えた時に、真っ先に思い付いたのがirohaのライブだった。
  初めて降りた渋谷駅。
  改札を抜けてすぐ、目に入った
  スクランブル交差点に
  ──僕は衝撃を受けた。
水瀬真一(こんなに色んな人が居るなんて・・・!)
水瀬真一(目がチカチカしてくる・・・)
水瀬真一(──わぁ、あの人すごいな)
水瀬真一(・・・気にならないのかな。 周りの人の視線とか)
水瀬真一「・・・・・・」
  行き交う人々を眺めてみても、
  僕にその答えはわからなかった。
  だけど──
水瀬真一(あんな風に、好きな格好で歩けたら・・・)
水瀬真一(なんて。僕には無理だ)
水瀬真一(生まれ変わりでもしない限り)
  絵の具のパレットみたいな交差点から、
  遠ざかるようにその場を離れた。

〇大きな公園のステージ
観客A「iroha―!!」
観客B「こっちにも手振ってー!」
水瀬真一(しまった、もう始まってる!)
水瀬真一「すみません、通ります。 すみません・・・」
水瀬真一「──!」

〇大きな公園のステージ
水瀬真一(顔小さっ!)
水瀬真一(テレビで見るよりもずっと綺麗・・・!)
iroha「ciao♡!irohaだよー!」
iroha「みんな、今日は来てくれてありがとー!」
iroha「アタシのジェンダーについて、 色々と言う人もいるけど・・・」

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コメント

  • イロハと出会った主人公がどのように進んでいくのか、この先が気になります✨ 透明少女の文字は見た瞬間ににやにやしてしまいました😊!

  • デリケートなテーマですが、純粋に面白かったです😊
    ちょうどうちの息子たちと同じ年で、LGBTQについても日々授業で取り扱っているようなので身近でした。
    1駅ノベルコンテストの時にもも感じましたが、ビスコさんの作品は文章が多いのにとても読みやすいです😊

  • 無色透明に近い自分が、周りに塗りつぶされていきそうな日常の感覚。そして渋谷というカラフルな街に触れて、変わろうとする主人公。きっかけを得た自分をどんな色に光らせていくのか。行く先が楽しみです👏

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