九尾さん九分離(脚本)
〇渋谷駅前
人であろうがなかろうが、美人は得をする
外見にしろ、性格やしぐさにしろ、美人であればあるほどいい
しかし、忙しい現代社会では美人を磨く暇がない
だから、私は私のやり方で美人を磨くことにした
〇古いアパートの一室
九尾さん(本物)「・・・」
九尾さん(本物)「分離の術!!」
水晶玉の前で印を結ぶと、私の尻尾が分かれ──
それぞれ人の姿になった
容姿は違うが、全員が私だ
九尾さん(本物)「えー、準備はいいかしら? 皆なりたい美人を思い描けてる?」
私達は頷き合った
九尾さん(本物)「それじゃあ、各々の美人道をある程度究めるのよ? 1ヵ月後、またこの部屋で!!」
「『『『『『『『『おー!』』』』』』』』」
〇空
1ヵ月後──
〇古いアパートの一室
九尾さん(本物)「帰ってこない」
九尾さん②「まあ、わたしって気まぐれなところがありますからね」
九尾さん③「その通り。期待するのが間違ってるのよ」
九尾さん②「眉間にしわが寄ってますよ? ほら、オムライスでも食べて機嫌直しましょう?」
美味しそうなオムライスが出てきた。
②はしっかり料理の道を極めていたらしい
九尾さん③「気になっていたのだけど、なんであなただけ姿が変わらないの?」
九尾さん(本物)「分離の術を使う前の姿ってことでわかるでしょ③? 私がスタンダードな私・・・つまり本物ってわかりやすくしてるの」
九尾さん③「本物って・・・納得いかないわ。 だって、私あなたよりも家事とかできるわよ? 掃除だって」
九尾さん③「ざっとこんなもんよ!」
九尾さん②「わー、ピカピカです~!」
③かなり優秀ね。ちりひとつ落ちてない・・・
九尾さん③「ってことで、私が本物の私ってことでいいんじゃない?」
九尾さん②「あ、そ、そういうことならわたしもお料理できるので! わたしが本物でも問題ないのでは?」
九尾さん(本物)「なに言ってんの! 本物はこの私よ!」
私は裾の袂から水晶玉を取り出した
九尾さん②「そ、それは! 分離の術の水晶玉!」
九尾さん(本物)「私に戻りなさい②!」
九尾さん②「まだお料理したかったです~」
九尾さん(本物)「あんたも・・・」
九尾さん③「ま、まって! わかった、あなたが本物!」
九尾さん(本物)「・・・とか言って私を亡き者にしようとしてるんでしょ?」
九尾さん③「自分を殺したりしないわよ!」
九尾さん(本物)「ほんとに?」
九尾さん③「そうだ、残りの私を連れ戻す手伝いをするわ! だからもう少しこの世界にいさせて? ね?」
九尾さん(本物)「いいわ。行きましょう」
九尾さん③「ほ・・・」
〇繁華な通り
九尾さん④「探しに来るとか、マジウケるんですけど~。あーし、好きなことして生きるって決めたから~そこんとこシクヨロ!」
九尾さん③「立派なギャルになってるし。 でも若干古っ・・・」
九尾さん(本物)「若者文化を取り入れたのね流石私」
九尾さん③「それ完璧美人に必要ある?」
九尾さん(本物)「若くあろうとする心は必要でしょ!」
九尾さん③「怒りすぎ・・・」
九尾さん(本物)「こほん」
九尾さん(本物)「研究熱心なのね、素晴らしいわ④。でもそろそろ体内の妖力が尽きかけているでしょ? 私に戻らない?」
九尾さん④「あのー、田舎臭いんで~? 近寄らないでくれますぅ?」
九尾さん(本物)「あ?」
九尾さん④「ひぇっ!?」
九尾さん(本物)「さて、次行きましょうか?」
九尾さん③「そ、そうね」
〇トレーニングルーム
九尾さん⑤「筋トレはいいぞ! パワーは全てを解決する!」
近くの妖力を辿ってジムに入ると、バーベルを軽々と持ち上げている⑤がいた
九尾さん③「完璧な美人にパワーって必要?」
九尾さん(本物)「健全なる精神は健全なる肉体に宿るものよ。そして、強い女性は魅力的に見えるものだわ」
九尾さん③「それはわかるけど──」
九尾さん(本物)「さ、説得するわよ」
九尾さん③「え? 問答無用で吸収しないの??」
九尾さん(本物)「なんでそんなひどいことするのよ」
九尾さん③「だって、さっきまで」
九尾さん(本物)「あ、あれはついカッとなってやっちゃったの! 好きで実力行使してるわけじゃないんだから!」
九尾さん③「あ~・・・私ってそういうとこあるわね。 うん」
九尾さん(本物)「さあ、説得開始よ! ⑤! 私に戻りなさい!」
九尾さん⑤「ん?」
九尾さん⑤「誰かと思えば私達じゃないか! 久しぶりだな」
九尾さん⑤「会って早々戻れだって? 嫌だね」
九尾さん(本物)「ちょっと! 約束と違──」
九尾さん③「なんで嫌なの?」
九尾さん⑤「気付いたのさ。私に戻ったらこの筋肉が消えてしまうとね。美しい筋肉、強さの象徴! パワー!!」
九尾さん(本物)「は?」
九尾さん③「・・・何言ってるかわかんないけど私達は完璧美人を目指すために分離したのよね??」
九尾さん(本物)「そ、そうよ! 完璧美人になりたくないの!?」
九尾さん⑤「完璧美人?」
九尾さん⑤「私は筋肉の為に生きると決めたのだ! どうしてもというのなら実力行使でこい!! 私を従わせてみろ!」
九尾さん③「うっ!」
九尾さん(本物)「③!!」
九尾さん⑤「貧弱者が! この程度で私を従わせることなど──」
九尾さん⑤「あ」
九尾さん⑤「私を倒しても第二第三の私が──」
九尾さん(本物)「これからそいつらにも会いに行くのよ。 戻れ」
九尾さん⑤「あぁぁ~~・・・!」
九尾さん(本物)「まったく」
九尾さん③「えっと・・・」
九尾さん(本物)「あ、あんたの仇討ちじゃないんだからね!! 次、行くわよ!」
〇綺麗な図書館
九尾さん⑥「私はこの世の全ての叡智を知りたい! 美人とかどうでもいい!!」
〇歩道橋
九尾さん⑦「おばあさん、にもつもつよ? だいじょうぶ?」
おばあさん「助かったよ」
九尾さん⑦「ばいばーい」
〇ライブハウスのステージ
九尾さん⑧「盛り上がってるかぁ!?」
〇古めかしい和室
九尾さん⑨「けっこうなお手前で」
〇古いアパートの一室
九尾さん(本物)「これで良かったのかしら」
九尾さん③「私達はちゃんとあなたに還元されてるんだから自信持ってよ。 完璧美人になるんでしょ?」
確かに、今まで吸収した私達の知識や体験は私の中にあった。私は人間社会で有利に生きていけるだろう
九尾さん(本物)「そうだけど」
九尾さん③「じゃあ暗い顔しないの」
九尾さん(本物)「なにしてるの?」
九尾さん③「さ、これで満足よ」
九尾さん③「私が消えてもちゃんと掃除とかしてね?」
九尾さん(本物)「わ、わかってるわよ」
九尾さん(本物)「・・・戻りなさい私」
九尾さん(本物)「・・・」
九尾さん(本物)「静かね」
私は畳の上に寝転んだ
「なんだろう私、完璧美人になったはずなのに──」
私は水晶玉の前でもう一度印を結ぶ
九尾さん(本物)「分離の術!!」
私の尻尾が分かれて、それぞれ人の姿になった
九尾さん③「どうして呼んだの?」
皆の代表で、③が訊いてくる
九尾さん(本物)「そ、それは」
九尾さん(本物)「提案なんだけど・・・これからは皆で姉妹としてやっていかない?」
自分の中にいるいろんな自分を具現化した物語。多重人格ともまた一味違って面白かったです。「みんな違ってみんないい」という結論に至る「本物」が可愛いくて愛おしいですね。
個性豊かですよ
豊か過ぎるんですよ
これが特化型キャラということか
可愛らしいキャラクターをフル活用した素晴らしい着想の作品ですね。どのキャラもみんな生き生きとしていて、とっても可愛いです!