現実を生きよう(脚本)
〇古いアパートの一室
俺の名前は茂木望(もてぎ のぞむ)
ウェブ小説をコミカライズする仕事を請け負っている、漫画家もどきだ
主人公が異世界に転生してチート能力で無双して何やかんやで無自覚ハーレムを作る・・・
という一連のストーリーをひたすら漫画に描き起こしている
俺が本当に描きたいのは重厚な世界観の裏社会ものなのだが、駆け出しですらない人間が何を描いたところで客は付かない
今は、漫画家として少しでも実績を積む必要がある
その為に俺は、出版社の人に言われるがままに、コミカライズの仕事を引き受けている
茂木望(もてぎ のぞむ)(さあ、締め切りまであと少し。 頑張って仕上げるぞ)
茂木望(もてぎ のぞむ)「何だ?荷物の受け取り予定は無いはずだけど」
茂木望(もてぎ のぞむ)「平日の真っ昼間に独身男のアパートを訪ねてくるとは、どんな奴だ」
〇アパートの玄関前
茂木望(もてぎ のぞむ)「はい、どちら様・・・」
茂木望(もてぎ のぞむ)「えっ!?」
???「おお、望!!久しぶりだな。元気にしてたか?」
茂木望(もてぎ のぞむ)「あの、どちら様で?」
???「何だ、薄情な奴だな。親の顔を見忘れたのか?」
茂木望(もてぎ のぞむ)「いや、親の顔は覚えてますが、 アンタは誰ですか?」
茂木望(もてぎ のぞむ)「つーか、何なのその格好。コスプレ?」
???「バカ者!! これは女勇者モトミエールの最強装備・女神の聖衣だぞ!!」
茂木望(もてぎ のぞむ)「どうでも良いけど、コスプレなら他所でやって下さい。それじゃ」
???「待て待て! お前、魔王の攻撃を受けて腹を空かしている親を無碍に追い返すのか?」
???「幼い頃からこのおっぱいで育ててやったのに、恩を仇で返すのか?」
???「それでも息子か!?」
茂木望(もてぎ のぞむ)「はあ?そのおっぱいには別の意味でお世話になりたいけど」
茂木望(もてぎ のぞむ)「少なくとも俺は父子家庭で、物心ついた頃から母親は居ないんですよ」
???「その父親が俺だ」
茂木望(もてぎ のぞむ)「は?」
???「望よ、姿形は大分変わってしまっておるがな、俺は求(もとむ)だ。お前の父親だ」
茂木望(もてぎ のぞむ)「はああああ?」
茂木望(もてぎ のぞむ)「いやいや、冗談にすらならんわ」
〇黒
俺の親父は50代半ばで商社の平社員をやってる、小太りでうだつの上がらないおっさんだぞ
〇アパートの玄関前
茂木望(もてぎ のぞむ)「スタイルこそ素晴らしいが、そんな格好してる女のアンタが、俺の親父なわけないだろ」
???「見た目に惑わされるな!! 俺の中身はしっかりと茂木求なんだ」
???「あとお前、俺のことをそんな風に思ってたのか。父さんは悲しいぞ」
茂木望(もてぎ のぞむ)「いい加減にしないと警察呼びますよ」
???「なあ、望よ」
茂木望(もてぎ のぞむ)「はい? つーか、何で俺の名前を知ってるんだ?」
???「お前は幼い頃に海で溺れて死にかけた。 だから今でも水が怖い」
茂木望(もてぎ のぞむ)「え?ああ・・・」
???「小学生の頃、借金取りのヤクザに怯えてお漏らししたことがある」
茂木望(もてぎ のぞむ)「うっ・・・」
???「中学の時、右腕を抑えて邪神の力がどうたらと言っていた時期がある」
茂木望(もてぎ のぞむ)「やめて」
???「どうだ? これでも俺が父親だと認められないか?」
茂木望(もてぎ のぞむ)「うーん」
???「あ、言い忘れてたけど・・・ 俺、1ヶ月前に商社の仕事辞めたよ」
茂木望(もてぎ のぞむ)「え?何で?」
???「年下の上司に偉そうにされてムカついたから」
茂木望(もてぎ のぞむ)「なっ・・・!!」
茂木望(もてぎ のぞむ)(なんてことだ。認めざるを得ない)
茂木望(もてぎ のぞむ)(こんなクソみたいな理由で仕事を辞めてしまうような奴、俺の親父しかあり得ない)
???「ふふふ。ようやく、分かってくれたようだな。じゃあ、失礼するぞ」
茂木望(もてぎ のぞむ)「え?ちょっと・・・」
〇古いアパートの一室
茂木求(もてぎ もとむ)「ああ〜、久々のお米。やっぱり美味えなあ」
茂木望(もてぎ のぞむ)「で、何がどうなったら親父がこんな事になるんだ?」
茂木求(もてぎ もとむ)「何だ、せっかちなな奴だな。 もっと余裕を持って構えておかないとモテないぞ」
茂木望(もてぎ のぞむ)「うるせえ!状況を説明しろってんだよ」
茂木求(もてぎ もとむ)「仕方ねえなあ。まあ良い、教えてやろう」
〇古いアパートの一室
茂木求(もてぎ もとむ)「さっき、仕事を辞めたことは伝えたよな?」
茂木望(もてぎ のぞむ)「ああ」
〇古いアパートの部屋
それで、これからどうしよっかな〜って
自宅でゴロゴロしてたら
突然、変な模様が浮かび上がったんだ
ビックリしたかと思ったら光に包まれて、
〇城門の下(ログスポットあり)
気が付いたら異世界に居た
なんでも、異世界では魔王を倒す為に勇者を召喚したんだそうでな
それで、召喚されたのが俺だったってわけだ
何で女の姿になってたのかは俺にも分からんが
まあ、異世界転生だからな
そういうわけで戦士とか魔法使いとかを仲間にして魔王城に行ったんだ
〇古いアパートの一室
茂木求(もてぎ もとむ)「──おい!!人が真面目に話しているのに、 スマホいじったり鼻くそほじったり、何事か!!」
茂木望(もてぎ のぞむ)「あのさあ、アホらしすぎて話にならねえのよ」
茂木求(もてぎ もとむ)「バカ!!こっちは真剣なんだぞ!!」
〇闇の要塞
魔王城に攻め込み、魔王を倒すあと一歩のところまで行った
しかし、魔王の奴が強力な術をぶっ放してな
〇荒廃した教会
魔王城もろとも、俺たちパーティーは散り散りになってしまったんだ
〇古いアパートの一室
茂木求(もてぎ もとむ)「そうして、気付いたらこの世界に戻っていた」
茂木求(もてぎ もとむ)「前にいたアパートは追い出されちまったから、もう息子のお前を頼るしかなくてなあ」
茂木求(もてぎ もとむ)「吹き飛ばされた仲間たちはどうしているんだろうか・・・」
茂木求(もてぎ もとむ)「──て、寝るな!!こっちは真剣に仲間を心配してるんだぞ」
茂木望(もてぎ のぞむ)「アホらし。頭の病院にでも行ってこい」
茂木求(もてぎ もとむ)「冗談も大概にしとけよ」
茂木望(もてぎ のぞむ)「そりゃこっちのセリフだ」
茂木望(もてぎ のぞむ)「大体なあ、何で現実でうだつの上がらない人生やってる奴がいきなり都合よく異世界に転生して、」
茂木望(もてぎ のぞむ)「都合よく若くて綺麗な体を手に入れて、 都合よくチート能力で無双して、 都合よく周りが無能のバカだらけになって、」
茂木望(もてぎ のぞむ)「都合よく高スペックの異性に惚れられて、 都合よく奴隷ハーレムが作られて・・・ おかしいだろ、こんなの!!」
茂木求(もてぎ もとむ)「望・・・お前、まるで見てきたかのように 俺の異世界ライフを語るじゃないか」
茂木望(もてぎ のぞむ)「もう、うんざりなんだよ! いい加減にしてくれ!!」
茂木求(もてぎ もとむ)「お前なあ・・・そんなこと言ってるから、 いつまで経ってもうだつの上がらない漫画家もどきなんだぞ」
茂木求(もてぎ もとむ)「売れたいのなら流行に乗れ。そして現実を見ろ」
茂木望(もてぎ のぞむ)「うるせえ!!お前こそ現実を見ろ!!」
〇アパートの玄関前
思わず怒鳴ってしまった時、再び扉がノックされる音が響いた。誰か来たらしい。
茂木望(もてぎ のぞむ)「はい」
茂木望(もてぎ のぞむ)「あ、戸鳴さん」
戸鳴麻央(となり まお)「茂木さん、どうも」
思わぬ来客に俺は戸惑った。
最近隣の部屋に引っ越してきた戸鳴麻央(となり まお)さん。
実は俺は彼女の美しさに一目惚れしている。
何とか仲良くなるチャンスを窺っているのだが・・・
茂木望(もてぎ のぞむ)(変なコスプレ女(中身は親父)を 部屋の中に連れ込んでいる、なんて勘違いされるとマズい)
茂木望(もてぎ のぞむ)(何とかアイツの存在を知られないようにしないと!!)
戸鳴麻央(となり まお)「あの、さっきから大きな声とかが聞こえるんですけど、何かありましたか?」
茂木望(もてぎ のぞむ)「あ、いえいえ。何でも無いんです。 ちょっとテレビの音が大きかったですかね。 すみません」
茂木求(もてぎ もとむ)「おーい、望。ツナマヨおにぎりもう一個・・・」
茂木望(もてぎ のぞむ)「うわあああ、バカ!!何でこっちに来るんだよ!!引っ込め!!」
「ハッ!!」
戸鳴麻央(となり まお)「お前は女勇者モトミエール!!」
女勇者モトミエール「魔王トナリエッタ!! 貴様もこっちの世界に来ていたのか!!」
茂木望(もてぎ のぞむ)「え?え?」
女勇者モトミエール「今度こそケリを付けてやる!!」
魔王トナリエッタ「ふん、こんなところでやられてたまるか」
〇アパートの玄関前
茂木望(もてぎ のぞむ)「おーい」
茂木望(もてぎ のぞむ)「ちょっとー」
茂木望(もてぎ のぞむ)「もしもーし」
〇アパートの玄関前
魔王トナリエッタ「くっ・・・やはり、傷が癒えるまでは身を潜めておくべきか」
女勇者モトミエール「逃がすものか」
魔王トナリエッタ「動くな。動けば、こいつを殺すぞ」
茂木望(もてぎ のぞむ)「え?俺?」
女勇者モトミエール「くっ・・・!!卑怯者め」
魔王トナリエッタ「何とでも言え」
魔王トナリエッタ「我は暫し身を潜めるが、やがて完全復活する」
魔王トナリエッタ「その時こそ、お前ら全員を消炭にしてやるからな」
茂木望(もてぎ のぞむ)「あ、消えた」
〇CDの散乱した部屋
茂木求(もてぎ もとむ)「これで、俺の話が嘘ではないと分かってくれたか」
茂木望(もてぎ のぞむ)「いや、うーん」
茂木求(もてぎ もとむ)「まあ、突然のことで整理がつかないのも仕方ない」
茂木望(もてぎ のぞむ)「いや、整理がつかないのは めちゃくちゃにされたこの部屋よ」
茂木求(もてぎ もとむ)「だが、魔王を逃してしまった以上、 勇者として奴を追わねばならん」
茂木望(もてぎ のぞむ)「その前に、部屋の片付けを手伝って」
茂木求(もてぎ もとむ)「だが、まずは散り散りになった仲間を見つけなくてはな」
茂木望(もてぎ のぞむ)「人の話聞いて」
茂木求(もてぎ もとむ)「そういうわけだ。 戻ってきたばかりだが、再び旅に出る事にする」
茂木望(もてぎ のぞむ)「ああ、うん。 いいよ。もう行って」
茂木求(もてぎ もとむ)「うむ。見守っていてくれ」
こうして、二人の女(?)に自宅をめちゃくちゃにされた俺は
〇古いアパートの一室
漫画家になる夢を諦めて
真面目に就職活動をする事にした
茂木望(もてぎ のぞむ)「はあ・・・現実を生きよう。現実を」
〇本屋
茂木望(もてぎ のぞむ)「あ、どうも。 タプタプ出版の営業・茂木です」
茂木望(もてぎ のぞむ)「今月、『追放聖女、辺境の地で隣国の王子に溺愛されてで全知全能の神になる』の新刊が出ます!!」
茂木望(もてぎ のぞむ)「どうぞよろしくお願いします!!」
茂木望(もてぎ のぞむ)「はあ・・・次の流行は何だろな」
魔王トナリエッタも、元々は小太りのおっさんの転生後の姿だとしたら何がなにやらカオスですね。望が全てどうでも良くなって就職したのは怪我の功名(?)かも。でもお父さん、時々おむすびを食べに戻ってきそうですね。
反面教師というやつですかね笑
すごく面白くて続きが是非読みたいです!
魔王と勇者が今後どうなって行くか…、まぁ現実をよく見て生活していってほしいですね笑
もう笑ってしまいました。タイトル通りの愉快な展開から、戸鳴さんの登場でギアが1段階上がって圧倒されてしまいました。異世界転生モノの家族ってこんな感じなんでしょうねww