エピソード1(脚本)
〇モヤモヤ
壊れた時空の狭間で、二人の男が向かい合っている。
一人は煌びやかな甲冑を着込み、肉厚の剣を持った人間の最高傑作。
もう一人は、相対する男とは全く異なる肌を持った魔族の王。
勇者「なぁ、魔王 この戦い、もう終わりにしないか?」
始まりは、そんな言葉からだった。
魔王「終わりにする、だと? 貴様、それが本当に出来ると思っているのか?」
勇者「思ってる というか、もう無理だろ?」
勇者は魔王に向けていた剣の切っ先を下ろす。
勇者「人間も、魔族も、もう限界だ これ以上続けたら、間違いなく共倒れになる」
魔王「・・・・・・」
勇者「なら、ここで終わりにするべきだ」
魔王「ありえん」
魔王は首を横に振る。
魔王「ここまで育ってしまった憎しみは、もはや止められない それに、お前だって我が憎いだろう?」
勇者「当然憎いさ けど、だからこそ、これは俺達の代で終わらせないといけない」
勇者は魔王に手を差し出す。
勇者「一緒に来い、魔王 共に世界を旅して、積み重ねた罪を償おう」
魔王「────」
差し出された勇者の手を、魔王が取る。
魔王「勘違いするなよ、人間 これはお前の提案が最善だと、私が判断した結果だ」
魔王「お前と私は敵同士、それは変わらん」
勇者「ああ、分かってるよ ありがとうな、魔王様」
こうして数百年続いた大戦は、和平という形で終結を迎えた。
〇寂れた村
和平から、十年後。
少女A「いつもありがとうございます、旅人さん!」
旅人A「どういたしまして」
旅人B「・・・・・・」
少女A「ちょっと待っててくださいね 今、村長から報酬を頂いてきますから」
少女は村の中央に向かって走っていった。
旅人A「どうだ、まだ喋る気にはならないか?」
旅人B「当然だ 無駄な会話を人間とできる程、我の憎しみは浅くない」
旅人A「認識阻害の魔法をかけてるんだし、話せば良いのに 人間を知るいい機会だぞ?」
旅人B「黙ってろ そもそも我は、お前とも──」
瞬間。
二人は同時に、ある方向に視線を向けた。
旅人A「気付いたか?」
旅人B「当然、村の反対側だ」
旅人A「よし、それじゃあ」
旅人B「行くぞ」
次の瞬間、二人の姿は掻き消え。
そこにはもう、誰もいなかった。
〇寂れた村
ソレは、突然現れた。
???「有象無象が」
ソレが現れた瞬間、世界から色が消えた。
???「こんな脆い種族に、我々は──!!」
ソレの手に、膨大な魔力が集まる。
???「消えろ! 矮小な人間達よ!」
収縮された極小の地獄。
それを人型の怪物は、何の躊躇いも無く村に向けて放り投げた!
村人は、少しも反応出来ない。
ただ、明確な死がやって来るのを見ているだけ。
???「おいおい、それはいきなりすぎるだろ」
???「・・・・・・」
けれど、彼らの命が消し飛ぶことは無く。
いきなり二人の人間が現れたかと思えば、地獄はどこかに消えていた。
???「何だ、貴様らは」
旅人A「四大将軍、アーヴァルか 十二年ぶりだな、元気にしていたか?」
アーヴァル「何だ、貴様 我は、貴様のような存在など──」
アーヴァル「待て まさか、貴様はッ!」
旅人A「ああ、そうだよ」
旅人の体が、光に包まれる。
そうして中から現れたのは。
勇者「お前の敵だよ、アーヴァル」
十年前、和平を結んだ後。
魔王と共に世界から姿を消した、勇者だった。
アーヴァル「貴様ぁぁ!!」
アーヴァルが怒りに身を任せ、勇者に突進する。
けれどその体が、振り上げた爪が、勇者に届く事は無かった。
旅人B「アーヴァル 常に冷静な心を持てと、我は教えたはずだが?」
アーヴァル「!? そ、その声は、まさか」
アーヴァルがよろける。
怪物を見ながら、男が指を鳴らした。
同時に、男に掛けられていた魔法が解ける。
魔王「久しぶりだな、我が臣下よ」
アーヴァル「ま、魔王様?」
魔王「そして、さようならだ」
魔王に向けて手を伸ばしたアーヴァルの体に、一本の線が入る。
アーヴァル「あ、れ?」
ずるりと音を立てて、怪物の体が二つに分かれた。
魔王「終わったか」
勇者「ああ、終わったよ」
勇者は振り抜いた剣につく血を払い、鞘に納める。
勇者「これで、残すは十人だ」
魔王「そうか あと十人も、か」
魔王は目を瞑り、勇者は騎士の祈りを捧げる。
二人は世界に色が戻りきるまで、祈りを続けていた。
〇寂れた村
勇者「それじゃあ、次の地点に行くか」
魔王「ああ」
二人は、村に背を向ける。
そして歩き出そうと、足を踏み出した時──
???「ちょ、ちょっと待って!」
一人の少女が、袋を持って現れた。
少女A「あ、あの、これ」
少女A「今回の、報酬です」
震える手が握る袋からは、じゃらりと金属の音がした。
勇者「ありがとう でも、それは受け取れないな」
少女A「えっ? なんで、どうして」
勇者「うーんと 迷惑料だから、っていえば分かる?」
少女A「?」
魔王「分からないのか? 我々はこの村を、ダシにしたと言っているんだ」
少女A「!?」
魔王「この村が巻き込まれるのは、最初から決まっていたんだよ」
少女A「う、うそだ なら始めから、私達の事は──」
魔王「死ぬのなら、必要な犠牲だと割り切っている」
勇者「勿論、絶対守るって決めてたけどね」
重い沈黙が、辺りを満たす。
少女A「──いって」
破ったのは、少女の叫びだった。
少女A「出ていけ! 今すぐこの村から出ていけ!」
魔王「言われなくても出ていく もうここに用はないからな」
そうして二人は、今度こそ村を後にした。
〇草原の道
これが、彼らの選んだ道だった。
平和の為になら、全てを犠牲にする。
それが同胞でも、罪のない命でも。
勇者「きっと俺達は、ボロ布みたく死ぬんだろうな」
魔王「当然だ それが罪に塗れた我々に許される、たった一つの死に様なのだから」
身を偽った彼らの旅は、まだ続く。
平和の障害となる存在を、全て消し去るその時まで。
魔王と勇者のコンビって無敵ですよね!
二人で世界を守ろうとしてるところがいいです。
でも、完全に善ではなく、世界を乱すものは断ち切るあたりがかっこいいですね。
相反する二人が世界の平和のために一緒に行動するところは想像もしませんでした。勇者と魔王の二人は常に孤独ですね。人間に理解されずに生きて行くのが辛い。
短いストーリーの中に、きれいにお話しが展開されていてとても読みやすかったです。タイトルに「後始末」とどんなストーリー!?と興味を惹かれました。