第5話 それでは、いつでもご連絡ください(脚本)
〇シックなカフェ
小林啓介「ぐあっ・・・!?」
後頭部に強い衝撃、激痛。
倒れそうになるのをこらえながら、俺は足音からから離れるようにして距離をとった。
小林啓介「誰だ・・・!」
振り返った先にいたのは・・・。
古屋辰郎「・・・・・・」
辰さんだった。
右手に大きな金づちを握っている。まさかあれで俺を・・・!
小林啓介「辰・・・さん・・・?」
古屋辰郎「さすがに1発じゃ死なねえか。 その占い師野郎と一緒に消えてもらわねえと困るんだがな」
残忍な笑みを浮かべながらそう言い放つ辰さんの顔には普段の朗らかで人のよさそうな面影はまるでない。
小林啓介(まさか、これが辰さんの本当の顔なのか? いや、それよりも・・・)
辰さんは宇利杉と一緒に消すつもりだったと言った。
ならば、突然、宇利杉が血を吐いた原因は・・・?
小林啓介「辰さん、まさかあんたが宇利杉を・・・」
古屋辰郎「ああ、そうだ。睡眠薬と一緒に毒を入れておいたんだよ、遅効性のな」
少しも悪びれずに話す辰さんに、ただでさえ痛い頭が、より一層の痛みを増す。
小林啓介「なんでだよ! なんで辰さんが宇利杉を殺す必要があるんだよ・・・!」
古屋辰郎「あ? そんなの決まってんだろ?」
古屋辰郎「そいつは俺が綾音ちゃんと女房を殺した犯人だってことを知ってるからだよ!」
小林啓介「・・・は?」
小林啓介「・・・辰さんが? 綾音さんと奥さんを・・・?」
古屋辰郎「俺はずっとカフェがやりたかった。なのに女房は反対しやがる」
古屋辰郎「『年を考えろ。そもそもそんな資金はない。借金は認めない』頑として俺の話なんざ聞きやしねえ」
古屋辰郎「だから事故に見せかけて女房をぶっ殺した」
古屋辰郎「そうすりゃ保険金もでるわ邪魔者もいなくなるわの一石二鳥になるからな」
小林啓介(・・・!? まさか、そんな・・・。奥さんに浮気されてもらった手切れ金っていうのは・・・ウソだったのか)
小林啓介「・・・綾音さんを殺したのはなぜだ?」
古屋辰郎「いつだったか、綾音ちゃんと飲んでたときに、酔っぱらってつい口を滑らしちまったことがあってな」
古屋辰郎「真実を知った綾音ちゃんがそれをネタに、お小遣いをねだってきてよ・・・」
古屋辰郎「段々、要求額も上がってくるわ、俺の金も減ってくるわで仕方なくやったんだよ」
小林啓介(綾音さんの副収入って・・・そういうことだったのかよ・・・)
幸せだったここでの日々が、急激に色あせていく。
辰さんも綾音さんもどこまでが本当でどこからがウソだったのだろう。
古屋辰郎「そこの占い師もバカな野郎だ。わざわざ俺の過去なんざ占わなければ死ぬこともなかったのにな」
小林啓介「アタッシュケースの個人情報うんぬんも、辰さんのウソなのか・・・?」
古屋辰郎「ああ。小林くんがそいつを疑っているみたいだったから、利用させてもらったぜ」
小林啓介「そんな・・・」
宇利杉は濡れ衣だったのだ。
そして俺のせいで死んでしまった。
古屋辰郎「さあ、おしゃべりもここで終わりだ」
辰さんがポケットから何かを取り出した。
青い柄のナイフ・・・綾音さんを殺したあのナイフだった。
小林啓介「! ま、待ってくれ辰さん、なんで俺ま・・・!」
古屋辰郎「さっき言っただろう。俺の罪を知ってるヤツは生かしちゃおけねえって」
古屋辰郎「悪いがここで死んでくれ、小林くん」
じりじりと辰さんが俺に迫ってくる。
逃げたいが、頭の打ちどころが想像以上に悪かったのか、体に力が入らず俺はその場にへたり込んでしまう。
小林啓介「ひっ・・・!?」
恥もへったくれもない。俺は四つん這いなって逃げた。
だが、入り口までたどり着くことはできず、とうとう壁際まで追い詰められてしまった。
小林啓介「やめてくれ辰さん! 俺は話さない! 辰さんの過去は絶対、誰にも話さないからやめてくれ!」
古屋辰郎「それはできねえな。なぜなら・・・」
古屋辰郎「占いで知ったんだよ。いつかお前が真実を暴いて、警察に俺の罪をばらすことをな!」
辰さんがナイフを振り上げる。
そして──
〇シックなカフェ
古屋辰郎「やっと動かなくなったか・・・」
古屋辰郎「あとは占い師の野郎がやったように見せかけないとな」
古屋辰郎「しかし、どうせ殺すんだったら前金払うんじゃなかったぜ」
宇利杉瓜夫「残念ですねぇ・・・」
古屋辰郎「・・・え? んなっ・・・!?」
宇利杉瓜夫「あなたの不幸を回避する手はずでしたが・・・」
古屋辰郎「て、てめえなんで生きてやがる・・・! 縄もいつはずしやがった!」
宇利杉瓜夫「これでは契約破棄とさせていただくほかはありません」
古屋辰郎「く、来るな・・・!」
古屋辰郎「来るな! 来るんじゃねえ!? やめろお!?」
宇利杉瓜夫「では、これで。失礼させていただきます」
古屋辰郎「く、来るな・・・! 来るなああああ! ぎゃあああああああ!?」
〇シックなカフェ
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まさかそういうことだったとは