二人の恋人、二人の関係(脚本)
〇繁華な通り
これは都内某所、流れを作るくらいには人が溢れていて、至る所から話し声が聞こえる。
そんな中を二人の男女が仲睦まじく歩いていた。
原田鞠子「祐介さん。休みの日だったと言うのに、わざわざ会社まで迎えにきてくれてありがとうございます」
相田祐介「いえいえ。せっかくの休日だったけど、暇だったからね。それに、暇だと患者さんのことばかり考えてしまうし」
原田鞠子「それはなんと、患者想いなんですね」
相田祐介「仕事熱心なだけだよ。それに、優しさでいったら鞠子だって負けてないよ」
原田鞠子「あら・・・。ふふっ。また口説き文句ですか?」
相田祐介「引かないでくれよ。年上にカッコつけさせてくれ」
原田鞠子「そんなこと言わなくても、私はあなたに惚れていますよ」
相田祐介「照れるよ・・・。俺はもう40代だぞ」
原田鞠子「あら、恋愛に年齢は関係ありますか?」
相田祐介「ハハッ。君は不思議な人だ。秘密に覆われているように君のことを理解できない。だからこそ、魅力的なのだけど」
原田鞠子「理解されなくても構いません。一緒にいてくれれば」
平和的な時間。幸福な時間。
それらは人の心を癒す。
でも、退屈にもする。
原田鞠子「祐介さん」
相田祐介「ん・・・。どうした?」
原田鞠子「少し・・・。寄りたいところがあります」
原田鞠子「一緒に行きませんか?」
彼女は呟くように、官能的な声で彼を誘惑した。
彼は賢い。
彼女のことをいち早く察することができた。
相田祐介「・・・うん。良いよ」
二人は歩いた。
さっきまでの平和な空気とは少し違う、色っぽさを残しながら。
どちらも無言のまま
〇空き地
歩いて、30分ほど・・・。
彼は悶々としながらも彼女の後ろを歩く。
彼女はルートを完璧に把握してるように迷うことなく前を歩く。
やがて、到着したのか、彼女は足を止めた。早歩き気味だった彼女に追いつくのは必死で、彼は少し息が上がっていた。
やってきたのはホテル・・・ではなく、場所も分からない空き家だった。
先程とは違い、周りを見渡しても、人の姿が確認できないほどの閑静な住宅街だった。
相田祐介「ハァ・・・ハァ。ここはどこだ?」
目的地が謎の場所で、流石に困惑を隠せないでいる。
原田鞠子「ここは空き家ですよ。誰も購入していない無人の土地」
相田祐介「なんでこんなところに・・・」
すると、彼女は妖艶な笑みを浮かべた。
原田鞠子「なぜって、祐介さんとは一度、話しておきたいことがあったのです」
相田祐介「話しておきたいこと?」
原田鞠子「はい。実は・・・」
原田鞠子「私の両親は、二人とも既に亡くなっているんです」
原田鞠子「父親は、私が物心ついた頃にはすでに・・・」
原田鞠子「そして、母親は、私が中学校を卒業する前に病室で・・・」
相田祐介「そうか・・・それは残念でならない」
相田祐介「でも、どうして急に話したくなったんだ?」
原田鞠子「区切りのためです」
原田鞠子「両親と私の」
彼は彼女の意図がはっきりとは見えなかった。だが、秀才であるが故に、理由を自分なりに想像して納得した。
相田祐介(これで、彼女の心が軽くなるなら)
〇空き地
彼女の母は早期に亡くなった父の分も一生懸命に働いた。
そのため、働く時間ばかりが増え、ある日突然、倒れてしまった
だが、軽い病気だった。何事もなかったが、時々、定期検査のために病院へ赴いた。
仕事は続けていた。
だが、その日は唐突にやってきた
彼女の卒業式を間近に控えた晴れの日。彼女の母は会社で倒れ、病院へと送られた。
原田鞠子「そのまま入院した後・・・帰らぬ人になりました」
相田祐介「そうか・・・」
原田鞠子「でも、疑問は残ってるんです」
相田祐介「疑問?」
原田鞠子「はい。母は秘密にしてたのかもですが、時々不思議なことをしていたんです」
相田祐介「不思議なこと・・・?」
原田鞠子「些細なことは、病院の通院でバスを利用したことです」
相田祐介「バス・・・?」
原田鞠子「はい。違和感ないでしょう。でも、大きな揺れで悪化するのを知っていた母が頻繁に揺れが発生するバスを選びました」
原田鞠子「きっと、電車は急停車の際の揺れを警戒したのでしょう」
原田鞠子「可能性の低い、電車の急停車よりも、連続する揺れのバスを選びました」
原田鞠子「他には、薬を飲む時、水ではなくお茶を使いました」
原田鞠子「これも、苦味から逃れるため」
原田鞠子「他には、冷水でシャワーを浴びていました」
原田鞠子「母の後に入ると、いつもシャワーが最低温度だったからです。わざと、あったかい水にしたのを冷やす人はいませんよ」
原田鞠子「これも、冬場で外と中の温度による発作を少しでも和らげるで納得できたのでしょう」
原田鞠子「他にもたくさんありましたが、省きます」
原田鞠子「どれも些細なものです。薬の効果を弱めたり、少し体調を悪化させたり」
原田鞠子「でも、積み重ねたら大きくなります」
原田鞠子「でも、普通の人がこんなバカげた情報なんて信じませんよね」
原田鞠子「けど、母は信じました。それくらい信頼に足る人物からの助言だったのでしょう」
原田鞠子「・・・あなたでしょう。先生」
相田祐介「・・・」
原田鞠子「気が付きませんでした?私も秘密にしてました。苗字が変わっているでしょう?」
原田鞠子「結婚しているんですよ。私は」
原田鞠子「井上鞠子・・・。あなたが担当した井上佳子の娘でございます」
原田鞠子「ふふっ。よろしくです」
彼は無言だった。それもそのはず、墓場まで持ってく秘密を知ってる人が現れたのだから
彼女は微笑んだ。彼の目を見て、ずっと
その後、彼女と彼の関係は誰にもわからない
二人だけの秘密にされたのだから
『先生、あなたでしょう?』という彼女の言葉が唐突でかつ効果的でした。タイトルからは想像できないストーリー展開に読後の余韻が強いです。
読み終えた後も色々考えてしまう、そんなお話しでした。短いお話しの中でとても上手にお話しが展開されていて一気に読み終えました。
大人な二人の恋愛ものかと思って読み進めましたが違いました。
なぜ彼は過去にそんなことをしたのか…気になります。
この後の展開もですが、ここに至るまでも読みたいなと思わせてくれる作品でした。