エピソード3(脚本)
〇オフィスのフロア
飛田先輩との一件で私はやっと壁さんを卒業することが出来た
ワケなんだけど──
飛田キユ「柴崎、第三会議室にお茶! 早く!」
柴崎アカネ「は、はい!」
私の序列は13番のまま
それは変わらない
つまり、私の仕事は”お茶さん”
柴崎アカネ「今すぐ用意します!」
〇オフィスの廊下
柴崎アカネ「はー・・・これでよし っと」
布田ユウコ「どう? お茶さんの仕事は慣れた?」
柴崎アカネ「あ、布っち おつかれさま」
柴崎アカネ「意外と忙しくて驚いてるかな お茶汲みだけじゃなくって 秘書室の雑務全般もこなさなきゃならなくって結構大変」
柴崎アカネ「それに、お茶を出す時に聞こえてくる話の大きさにもビックリだよ」
布田ユウコ「うんうん 私なんかが聞いていいのかなーって思うと緊張しちゃうよ」
私たち秘書室の秘書たちが対応する案件は、どれも四葉の中でもトップクラスの大きな規模のビジネスだ
数億
数十億
そんな金額が当たり前のように飛び交う
それらを、時に社長に代わり
私たち秘書が対応する
四葉の心臓部
私はお茶を出しながら会議の内容に聞き耳を立てていた
いずれは自分がああして会議で立ち回る必要があるからだ
それに──
このままずっと序列最下位
13番のままではいられない
序列を上げる糸口を探るために──
そういう日々を過ごすうち
気がついたことがある
柴崎アカネ「そう言えばさ」
柴崎アカネ「他の秘書さんたちの会議に お茶を出す中で気がついたんだけど」
柴崎アカネ「長沼さんってどんな人?」
布田ユウコ「・・・長沼・・・さん?」
柴崎アカネ(明らかに同様してる どうしたんだろ)
柴崎アカネ「うん、長沼ヤヨイさん」
柴崎アカネ「他の秘書さんたちは大きな商談をビシッと決めたり、複雑なプレゼンを堂々とこなしたりしてる姿を目にするけど」
柴崎アカネ「長沼さんだけはそういう姿を見たことなくて なんて言うか──」
柴崎アカネ「普通の女子大生みたいな? そんなノリなんだよね」
柴崎アカネ「だからどんな人なんだろって思って」
布田ユウコ「えと・・・ 長沼さんは秘書室勤務が私たち秘書の中で1番長くて もう10年以上いるらしいの」
柴崎アカネ「10年!? 見た目や話し方、あんなに若そうなのに?」
布田ユウコ「序列はずっと10番 私がここに来てから、上の方の人達は仕事の成績とかで序列が結構変わるんだけど」
布田ユウコ「長沼さんダケはずっと10番のまま 10年以上ずっと定位置らいしの」
柴崎アカネ「って事は、仕事はそれほど出来ない人なのかな・・・なんて、誰かに聞かれたら怒られちゃうね」
布田ユウコ「それが──」
「そんなところでなにサボってんの!?」
柴崎アカネ「飛田先輩」
柴崎アカネ「驚かさないで下さいよ」
柴崎アカネ「今、布っちに長沼さんについてちょっと──」
飛田キユ「長沼か・・・」
飛田キユ「柴崎、これは私からの忠告」
飛田キユ「この前の件もあるしお礼にひとつ教えておいてあげる」
飛田キユ「長沼ヤヨイには近付くな」
柴崎アカネ「え、それってどういう──」
飛田キユ「私の言ったこと忘れないように いいわね」
柴崎アカネ「は、はい・・・」
飛田キユ「ほら、あなたたち 2番会議室にお茶出しはすんだの?」
布田ユウコ「あ・・・ま、まだでした 今すぐ行きます 行こっ、アカネ」
柴崎アカネ「う、うん・・・」
柴崎アカネ「それじゃ、失礼します」
飛田キユ「ふー・・・」
飛田キユ「まったく、柴崎のやつ 妙に勘が鋭いというかなんというか」
飛田キユ「ただ・・・」
飛田キユ「柴崎から近付くことは無くても、向こうの方から──」
飛田キユ「な、なんで私が柴崎の心配してるのよ! もう!」
〇超高層ビル
その日の退社時
柴崎アカネ「今日も一日終わったー! 帰ってなにし──」
「しーばざーきさぁん」
長沼ヤヨイ「やほやほー いま帰りぃ?」
柴崎アカネ「あ・・・ 長沼・・・さん」
長沼ヤヨイ「もー 長沼さん、なんて呼び方やめてよぉ ヤヨイって呼んでもいいんだからね」
柴崎アカネ「い、いえ 仕事の先輩ですしそんなワケには」
長沼ヤヨイ「お堅いんだからぁアカネちゃんは」
長沼ヤヨイ「ね、ね いま帰り?」
長沼ヤヨイ「よかったらちょっとお話して行かない?」
柴崎アカネ「話・・・ですか?」
長沼ヤヨイ「うん! 私、アカネちゃんとお話してみたいなーってずっと思ってたの!」
〇オフィスの廊下
飛田キユ「長沼ヤヨイには近付くな」
〇超高層ビル
柴崎アカネ(アレは一体どういう意味だったんだろう)
長沼ヤヨイ「ねぇねぇいいでしょー?」
柴崎アカネ(飛田先輩はああ言ってたけど 長沼さんに興味があったのは事実──)
柴崎アカネ(それに、長沼さんの序列は10番)
柴崎アカネ(12番は布っちで、11番の人はずっと休んでいるらしい という事は)
柴崎アカネ(私が今目指すべき場所はこの──)
柴崎アカネ「いいですよ? どこか落ち着いて話せる所に行きましょうか」
長沼ヤヨイ「やったぁー それじゃ、ご飯でも食べながらお話しよっ!」
〇シックなバー
烏山チトセ「────以上が、各部門の報告となります」
四葉真一「ありがとう、いつも助かってるよ」
四葉真一「プロジェクトも全て順調に進んでる」
四葉真一「烏山くんのおかげだ」
烏山チトセ「いえ、全ては優秀な秘書室の秘書達のおかげです 私は何もしておりません」
四葉真一「それで、他に変わったことはなにかあるかい?」
烏山チトセ「他に・・・ですか?」
四葉真一「あぁ、キミが優秀と言った秘書達のこととかね」
四葉真一「最近、新しい子が入っただろ 彼女はどうしてる?」
烏山チトセ「・・・柴崎の事ですか」
烏山チトセ「彼女はほかの秘書たち同様 序列13番目として秘書室入りしました」
烏山チトセ「その後、どうやったかは分かりませんが 飛田を手懐けたようです」
四葉真一「・・・あの飛田くんを」
烏山チトセ「ですが、序列はまだ最下位 13番のままです」
烏山チトセ「現在は、他の秘書たちの手が回らないまお茶汲みや雑務を担当しています」
烏山チトセ「11番の子が長期で休んでいますし ちょうど良かったのかもしれません」
四葉真一「ふむ──」
烏山チトセ「なにか?」
四葉真一「いや、面白いなと思ってね」
烏山チトセ「どのようなところがでしょう」
四葉真一「今いる秘書たちは みんな、仕事の手腕で他を上回り序列を上げ その結果として仕事を手に入れていった」
四葉真一「キミもそうだっただろ? 烏山くん」
烏山チトセ「えぇ、そうでしたね」
四葉真一「これは言わば生存競争」
四葉真一「この社会の・・・いや 生物としての根本的なルールだ」
四葉真一「強いものはより強く 弱いものは去らねばならない」
四葉真一「その精神が四葉をここまで大きくした」
四葉真一「──もっとも、壁さんなんて言う悪趣味な方法は僕が発案したものでは無いけどね」
烏山チトセ「女が集まればいろいろありますから」
四葉真一「だが、彼女は最下位のまま自分に立ち位置を確保し仕事を手に入れた」
四葉真一「実に興味深い」
烏山チトセ「・・・そうかもしれませんね」
四葉真一「このまま彼女には秘書室の良い刺激になってもらいたい ・・・それに」
四葉真一「もし順調に育ってくれれば ”例の計画”の候補になりうる存在になるかもしれない」
烏山チトセ「・・・」
四葉真一「いずれにせよ頼もしい人材が来てくれて嬉しいよ」
烏山チトセ「そう・・・ですね」
烏山チトセ(でも、そろそろ彼女が動く頃 いえ──おそらくはもう)
〇ファミリーレストランの店内
長沼ヤヨイ「私ねー ずっとアカネちゃんとお話したいと思ってたの」
柴崎アカネ「ありがとうございます 私も、もっと秘書のみなさんのこと知りたいなって思ってました」
柴崎アカネ「もちろん長沼さんのことも」
長沼ヤヨイ「よかったぁー」
長沼ヤヨイ「私たちって気が合うのかもしれないね!ね!」
柴崎アカネ「そ、そうですね」
長沼ヤヨイ「そんなアカネちゃんにひとつお願いがあるの」
柴崎アカネ「お願い・・・ですか?」
長沼ヤヨイ「そんなに驚かないでぇ お願いっていってももちろん仕事の事よ」
柴崎アカネ「仕事のこと・・・」
柴崎アカネ「正直、今はお茶汲みや雑用ばかりで 少し退屈してたんです」
これは、本当の事だった
秘書室の雑務は多岐に渡り忙しい
・・・だが
他の秘書さんたちのように他社相手に商談したり
大きなプレゼンをしたりすることは無く
仕事に手応えを感じられない日々が続いていた
柴崎アカネ「いいですよ 私に出来ることなら」
だから、私か今言った
「私に出来ることなら」
この言葉に嘘はない
序列を上げる糸口を掴みたい
そんな気持ちだった
柴崎アカネ「それで、どんなことですか?」
だけど──
飛田先輩の言葉をもう少しよく考えておくべきだった
長沼ヤヨイ「えっとねー」
長沼ヤヨイ「アカネちゃんにはー私の──」
長沼ヤヨイ「秘書になって欲しいの!」
柴崎アカネ「秘書・・・? それって既に私は秘書として秘書室にいるワケで」
長沼ヤヨイ「飲み込みが悪いなー 社長秘書じゃなく、私の」
長沼ヤヨイ「長沼ヤヨイの秘書になって欲しいの」
長沼ヤヨイ「さっきやるっていったよね」
柴崎アカネ「え・・・えぇ 言いましたが・・・」
長沼ヤヨイ「わーいわーい アカネちゃんは明日から・・・」
長沼ヤヨイ「ううん、今から」
長沼ヤヨイ「長沼ヤヨイの秘書さんだからね!」
10番でこれか、手ごわい。女子バトルの雰囲気が完璧すぎますね。
次のターゲットは得体の知れない長沼ヤヨイさん、すでにヤバ気な空気が漂ってますね!
女性集団特有の空気感が作中に溢れていて引き込まれます!