秘書室の13人

アビス

エピソード4(脚本)

秘書室の13人

アビス

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〇オフィスの廊下
部長「さーて、今日も平和におわ──」
部長「──なんだありゃ」
部長「柴崎・・・?」
部長「おーい柴崎」
柴崎アカネ「・・・」
部長「柴崎」
柴崎アカネ「・・・」
部長「しーばーざーき!」
柴崎アカネ「ぶ、部長!?」
柴崎アカネ「お久しぶりです どうしたんですか、こんなところで?」
部長「それはこっちのセリフだ」
部長「そんな顔でフラフラと 何してんだ?」
柴崎アカネ「・・・仕事がまだ終わってなくて」
部長「凄い顔してるぞ ゾンビだってもう少し生き生きしてる」
柴崎アカネ「はは・・・ ゾンビはもう死んでるじゃないですか」
部長「今、なんの仕事してるんだ? 今日はもう終わりそうなのか?」
柴崎アカネ「今日はこれから明日の午前中の会議までに 5つの資料まとめて──」
柴崎アカネ「午後のプレゼンの為に資料を3ヶ国語に翻訳して──」
柴崎アカネ「その後午前中の会議の議事録作成と今後の展開についての意見書を──」
柴崎アカネ「あ、その間にお茶汲みや秘書室の掃除──」
部長「もういいもういい!」
部長「午前中の会議の資料 何が必要だか見せてみろ」
部長「──」
部長「これなら俺が昔作ったやつを流用すれば なんとかなるな」
部長「ちょっと休憩室でコーヒーでも飲みながら待ってろ あ、コーヒーは自分で買えよ」
柴崎アカネ「部長・・・」
  30分後
部長「ほら、これ 質は多少落ちるが問題ねーだろ」
柴崎アカネ「ありがとうございます・・・」
柴崎アカネ「これで午後のプレゼンの資料に取り掛かれま──」
部長「柴崎!」
柴崎アカネ「ど、どうしたんですか?」
部長「ふー・・・」
部長「しゃーねぇな こういう手はあんまり使いたくねーんだが──」
部長「あ、もしもし私です はい、実は柴崎の件で──」
部長「はい、引き継ぎをひとつ忘れており 明日の早朝までに必要な──」
部長「はい、はい・・・ 明日、柴崎が用意するはずだったモノより大きな案件かと思われます」
部長「はい、全て私のミスです 申し訳ありません、以後気をつけます」
部長「──っと、これでよし お前の明日の予定、ひとまず空けたわ」
柴崎アカネ「な、なんでそんな・・・」
部長「お前なぁ 自分では気が付いてないかもしれないが すごい顔してたぞ」
部長「今はまともに仕事が出来るとも思えん お前は昔からそうだ」
柴崎アカネ「・・・」
部長「これからちょっと付き合え──」

〇立ち飲み屋
部長「で、何があった?」
柴崎アカネ「はい、実は────」

〇オフィスのフロア
長沼ヤヨイ「柴崎さんはぁ ヤヨイの秘書ということなのでぇー」
長沼ヤヨイ「ヤヨイの仕事のサポートをして欲しいの」
柴崎アカネ「分かりました それで、何をすればいいですか?」
長沼ヤヨイ「それじゃあねぇ ヤヨイの今抱えてる案件全てを把握してぇ」
柴崎アカネ「全部、ですか?」
長沼ヤヨイ「それから、全ての案件のこれまでの経緯と関係する会社の情報のリサーチ」
長沼ヤヨイ「それにそれにー」
長沼ヤヨイ「今後の展開を複数のパターンに分けて詳細な予測を立ててもらってぇ──」
柴崎アカネ「そ、そんなにですか?」
長沼ヤヨイ「まだまだあるよー?」
長沼ヤヨイ「もう、めんどくさいなぁ」
長沼ヤヨイ「つまりぃ」
長沼ヤヨイ「ヤヨイの仕事をぜーんぶやってほしいの!」
長沼ヤヨイ「直接お客様とやり取りする場面ではヤヨイが出ていくから、そのじゅんびをぜーんぶ」
長沼ヤヨイ「お」
長沼ヤヨイ「ね」
長沼ヤヨイ「が」
長沼ヤヨイ「い」
長沼ヤヨイ「ね♡」

〇立ち飲み屋
柴崎アカネ「──と言うワケなんです」
部長「そりゃまた・・・」
部長「ただ、ハラスメント案件じゃねーのかって気もするが」
柴崎アカネ「飛田先輩に相談してみたんですけど」
柴崎アカネ「序列が下の者は上の者に従わなければならないというルールがあるみたいで」
柴崎アカネ「仕事が多いというだけではハラスメントにはあたらないそうです」
柴崎アカネ「私が長沼さんの秘書なのも ルール上は問題ないようです」
部長「なるほどな」
部長「それなら ひとつ分からないことがあるんだが」
部長「その長沼ってのはそもそも 今柴崎がやってる仕事を一人でやってたんだろ?」
部長「要領さえ掴めば柴崎がそこまで苦労する仕事量でもないんじゃねーのか?」
柴崎アカネ「それが、彼女一人の時はここまで資料を──」
柴崎アカネ「というか ほとんど資料用意したりする姿を見たことありません」
部長「どうなってんだ」
柴崎アカネ「それで私 長沼さんのことを調べてみたんです」
部長「ほう」
柴崎アカネ「彼女は今の私の目指すべき位置にいる人ですし なにより、彼女の攻略法が分からないかなって」
部長「それで 何か分かったのか?」
柴崎アカネ「彼女が入社してから秘書室に入るまで それに、秘書としてどんな仕事をしてどんな成績を収めてきたのか」
柴崎アカネ「忙しい合間を縫って調べられることは全て調べました」
部長「そんな事してるから余計に忙しくなってたんじゃ」
柴崎アカネ「これはもう、私の性分ですから それに、徹底的なリサーチって」
柴崎アカネ「部長が教えてくれたことですよ?」
柴崎アカネ「でも、彼女 全くと言うほど何も出てこないんです」
部長「と言うと?」
柴崎アカネ「長沼ヤヨイ 総務部として入社 以降三年ごとに部署を移動し」
柴崎アカネ「14年前に秘書室に配属 以降現在に至るまで秘書室の10番として在籍し、毎日定時で退社」
柴崎アカネ「入社以来、彼女は特に目立った成績を上げてはいません」
部長「なら、仕事の出来は普通かそれ以下ってことか」
柴崎アカネ「いえ、それもそういうワケでもなさそうで──」
柴崎アカネ「目立った成績は収めていませんが 逆に、大きな失敗やクレームもありません」
柴崎アカネ「誰しもミスや失敗のひとつやふたつあるのに」
部長「お前はひとつふたつじゃ足りなかったけどな」
柴崎アカネ「それは言わないでくださいよー」
柴崎アカネ「長沼さんについて調べれば 彼女の得意なことや苦手なことがわかると思ってました」
柴崎アカネ「でも、それがなにひとつ出てこなかったんです」
部長「・・・妙だな」
柴崎アカネ「何がです?」
部長「人間は誰しもミスくらいする お前だって、それに俺だってな」
柴崎アカネ「・・・」
部長「だが、中には俺たちが想像できないくらい優秀なやつもいるにはいる そんなやつはミスなく仕事をこなし」
部長「ガンガン成果を上げあっという間に手の届かないくらい出世してどっか行っちまう」
柴崎アカネ「確かにそうですね」
部長「だがその長沼ってのは どっちもない」
部長「おかしいとは思わないか?」
柴崎アカネ「言われてみれば──」
部長「なぁ柴崎 仕事でミスがないってのは、どういう時だと思う?」
柴崎アカネ「そうですね──」
柴崎アカネ「簡単な仕事の時・・・ですかね」
部長「俺もそう思う」
部長「複雑な因数分解なら計算ミスもするが 九九を間違う大人はいないだろ」
柴崎アカネ「──もしかして!」
  ──ガサガサ
部長「いきなりカバンから何を?」
柴崎アカネ「部長の言葉でちょっと気になって──」
柴崎アカネ「こっちが長沼さんの入社してから今までの退社時間なんですけど──」
部長「そんなもんまで調べてんのか」
柴崎アカネ「例外なく定時で退社してます」
柴崎アカネ「そしてこれが秘書室に入ってからの成績ですが──」
柴崎アカネ「毎年、キッチリ序列が9番の人の成績を追い越さないような成績を取り続けています」
柴崎アカネ「もう、10年以上ずっと──」
柴崎アカネ「部長・・・これって」
部長「あー・・・」
部長「あんま考えたくはねーが」
部長「長沼ってのは──」
柴崎アカネ「長沼さんは──」
「極度のサボり屋──?」
柴崎アカネ「そう考えると辻褄が会う気がします」
柴崎アカネ「彼女にとって仕事はカンタン」
柴崎アカネ「だけど出世欲もない」
柴崎アカネ「お茶さんはやりたくないけどある程度の仕事を任される立場の中での最下位に居続ければ」
柴崎アカネ「楽な仕事をし続けられる」
部長「となると、今柴崎にやってる事ってのは──」
柴崎アカネ「新人潰し・・・ですね」
柴崎アカネ「自分より成績を上げそうな人間が現れたら序列がひとつ下がってしまう」
柴崎アカネ「11番になるとお茶さんをやらされる それは長沼さんとしては避けたい」
柴崎アカネ「だから自分の立場を脅かしそうな人には仕事を大量に与えて潰す」
部長「厄介だな・・・」
部長「あくまでもルールに則り新人を潰していくってワケか・・・」
柴崎アカネ「うーん・・・」
柴崎アカネ「・・・」
部長「どうした」
柴崎アカネ「いえ、長沼さんがサボり屋って分かっただけでも進展があったなぁって」
部長「そんな厄介なヤツって分かったのにお前は・・・」
柴崎アカネ「部長!」
部長「ん?」
柴崎アカネ「部長がもし長沼さんの立場なら、何をされたら困ります?」
部長「・・・なんで俺に聞く」
柴崎アカネ「だって、部長もよくサボってるじゃないですか」
部長「うるせぇよ 俺のはサボりじゃない 英気を養ってるだけだ」
柴崎アカネ「あはは、それなら英気を養ってる時に何されたらそれが出来なくなりますか?」
部長「そうだな・・・って」
部長「もしかしてお前、もうお前の中では答え 出てるんじゃねーか?」
柴崎アカネ「──はい 部長を働かせる方法も、部長の下で学びましたから」
部長「ったく 元とは言え部下のセリフじゃねーな」
柴崎アカネ「私に巻き込まれて、部長もさんざんひーひー言ってたこと ありましたよね?」
部長「まさかまた”アレ”をやんのか? 今度は秘書室で」
柴崎アカネ「そのまさかです 長沼さんには本領を発揮してもらう時が来たようですね」

〇立ち飲み屋
柴崎アカネ「長沼ヤヨイ────」
柴崎アカネ「私が潰れるのが先か あなたが潰れるのが先か──」
柴崎アカネ「────勝負よ!」

コメント

  • 一気読みでした、面白かったです😊着実にレベルを上げて敵を倒していく、ゲームのようなドキドキ感がありますね✨キャラクターに個性があって魅力的!長沼攻略法が楽しみです!

  • おお、これで打ち止めですか。残念。
    楽しかったです。引きのタイミングもいいですね。しかし部長、凄まじくいいやつですね。元の部署に戻った方がいいですね。自分なら戻ります。フィクションの主人公なら戻しませんけど…。
    次も楽しみです。

  • うーん、生々しさ全開ですね!いろんな職場でヤヨイさんのようなタイプの人と出会ってきましたが、結構攻略に困った経験ばかりですw アカネさんの取った方法が気になります!

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