誰が為の愛

米子

五話 救いの対象(脚本)

誰が為の愛

米子

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〇空
「見つけた」

〇低層ビルの屋上
女「・・・私に、何か?」
ミタカ「・・・ふっ」
ミタカ「あはは」
ミタカ「しらじらしいなぁ」
ミタカ「ずっと見てたくせに」
ミタカ「ここから」
ミタカ「これで」
ミタカ「ねえ?」
女「・・・・・・」
ミタカ「まぁいいや」
ミタカ「あの部屋にいた男の人なら」
ミタカ「今頃病院だよ」
女「っ・・・容体は?」
ミタカ「──残念だけど」
ミタカ「救急車を待ってる間に・・・」
ミタカ「見つけるのが、少し、遅かった」
女「・・・そんな」
女「嘘、ウソよ」
女「うっ」
ミタカ「・・・・・・」
ミタカ「嘘だよ」
女「──え?」
ミタカ「嘘、命に問題ない」
ミタカ「容態が落ち着けば 部屋で何があったかも話せるはずだよ」
女「・・・・・・」
ミタカ「あのクッキー、製造元に確認したら」
ミタカ「アーモンド混入の可能性は ゼロに近いって」
ミタカ「トレーサビリティ?っていうのかな」
ミタカ「製造工程の管理もしっかりされていて」
ミタカ「部屋にあった物も どんな状況でいつ製造されたか」
ミタカ「頼めばすぐに調べてくれるはず」
ミタカ「一体、どうやってアーモンドが入ったのか」
ミタカ「・・・気になるよね」
女「・・・あなた、何なの?」
女「警察?」
ミタカ「え!?」
ミタカ「やだな、違うよ」
ミタカ「勘違いしないで 通報する気なんてまったくないから」
ミタカ「ただ、興味本位で見に来ただけ」
ミタカ「人を殺そうとする奴って どんな感じなのかと思って」
女「・・・・・・」
ミタカ「あの部屋、途中段階だったんだよね?」

〇豪華なリビングダイニング
  本当は、ここから
  クッキーを食べたのを確認したら
  あなたが誰よりも先に部屋に行って
  クッキーの缶を入替えて
  スマホと注射器を戻して
  慌てたふりで
  通報するはずだったんじゃない?

〇低層ビルの屋上
ミタカ「事実が違ったとしても こっちには関係ないんだけどさ」
ミタカ「あなたにとっては 間の悪い事しちゃったね」
女「・・・ふぅ」
女「1000万で、どう?」
ミタカ「はぁ?」
女「すぐには難しいけど、必ず払う」
女「私に協力しない?」
女「悪いようにはしない 証言だけ口裏を合わせてくれればいいの」
ミタカ「何言ってんの?」
女「だってこのままじゃダメじゃない!!」
女「このままじゃ、私がやったって」
女「ばれちゃう・・・」
女「なんでもいい──そうだ!」
女「あなたは私の知り合いで 夫のアレルギーの事知らなくて」
女「悪気なく私に中身の違うクッキーを渡した とか、そんな話にするのはどう?」
ミタカ「いやいや」
ミタカ「勝手に話進められても困るな」
ミタカ「いくらお金積まれても、協力は無理だよ」
ミタカ「こっちも今は 変に目立ちたくない状況だから」
女「あぁぁ、もう、くそっ!!!!!」
女「っ・・・」
ミタカ「あの人」
ミタカ「あなたの夫だったんだね」
ミタカ「なんでこんな事を?」
女「なんで?」
女「・・・なんでだろ?」
ミタカ「え」

〇結婚式場の前
  私、あの人の事
  間違いなく愛してた

〇豪華なリビングダイニング
  夢だったマンションを買って
  子供にも恵まれて
  もう欲しい物なんてない、って思うほど

〇低層ビルの屋上
女「満たされてた、はず、なのに」

〇豪華なリビングダイニング
女「ほら、いい子ね?」
女(ミルクもおむつも違う 抱っこも違う、あと何?)
結菜「ママー! お腹すいた」
女「うん、ちょっと待ってて」
「ママ! ねーえー」
女「ああぁ、もう」
結菜「ママ!」
女「待ってって言ってるでしょ!?」
結菜「うっ」
女「あ・・・」
結菜「うっ、だって、うぅ」
女「ごめんね、結菜」
女「今準備するから お菓子、食べてて?」
女「ごめんね?」
女(どうしてこんな言い方しかできないの)
女(洗濯もやらなきゃ 明日のゴミもまとめてない)
女(もう8時・・・私1日何やってたの?)
女(あぁ・・・)
女(うるさい)

〇豪華なリビングダイニング
女「はぁ」
「ただいま」
女「おかえり」
女「今、やっと2人が寝たところ」
女の夫「そっか」
女の夫「弁当のゴミ こんなとこ置いたままだと汚すよ」
女「あ、ごめんね」
女の夫「疲れてそうだな、大丈夫か?」
女「うん・・・」
女「結菜のときと違って 香菜はなかなか泣き止まなくって」
女「けっこう、大変」
「姉妹でも違うんもんだな」
女の夫「弁当これ? もらうよ」
女「うん」
女の夫「まぁ、ずっと家も疲れるよな」
女の夫「俺も今日すっげー、疲れた」
女の夫「出勤するなりクレーム対応で 資料全然作れないし。ひどいよなー」
女「そうだったの」
女「遅くまで、お疲れ様」
女の夫「美奈、メシは?」
女「私は、まだいいや 片付け終わったら食べる」
女の夫「・・・やっぱりさぁ」
女の夫「二人目早かったかもな」
女「え?」
女の夫「手一杯じゃん」
女の夫「だから言ったんだよ、俺」
女の夫「大変なのは分かるけど」
女の夫「もう少し余裕ないと 結菜がかわいそうだよ」
女「そう・・・だね」
女「ごめん 自分でも段取り悪いの分かってる」

〇豪華なリビングダイニング
女「ふぅ」

〇綺麗な一戸建て

〇豪華なリビングダイニング
  満たされていたはずなのに
  どうしても足りないものに目が行く
女「・・・うっ」
  一人じゃないはずなのに
  こんなに孤独を感じるなんて
  思わなかった
女「ううっ」
女「スマホ、置き忘れてる」
  それは
  見ようとしたわけじゃなかった
  奥さん
  そんな感じだと家でも疲れるね
女「え」
女「え、えっ、何これ?」
  さびしいよー
  早く会いたいよー
女「嘘」
女「はぁっ──あ、れ」
女「苦し」
女「息がっ」
  だからびっくりしてー

〇テレビスタジオ
芸能人「彼、私のアレルギーの事知らなくてー」
芸能人「くるみのケーキ焼いてきて」
芸能人「記念日に?」
芸能人「断りにくくってやばくて」

〇豪華なリビングダイニング
  あははは
女「・・・・・・」

〇低層ビルの屋上
女「今日はね」
女「上の娘に我慢させてるからって話で」
女「下の娘を母に預けて3人で出かけたの」
女「帰って、あの人が昼寝してる時 娘と2人家を出た」
女「お腹すけば、勝手に食べるだろうと思って」
女「スマホも注射も キッチンに置いたのよ?」
女「でも、家事なんかしない人には」
女「見つからなかったみたいね」
女「・・・日々の中に」
女「”妻”と”母”はいたけど」
女「”私”がいなくて、苦しかった」
女「あなたも」
女「いずれ分かるかもね」
女「結婚して、親になって──」
ミタカ「・・・ない」
ミタカ「分からないっ!!」
ミタカ「あなたの気持ちなんて」
ミタカ「一生、分かんないよ」
女「そう」
女「あーあ」
女「皆が普通にできてる生活が」
女「なんで私だけ出来なかったんだろ」
ミタカ「え?」
女「悔しいなぁ」
ミタカ「あのさ」
ミタカ「育児疲れで ノイローゼ気味なんじゃない?」
ミタカ「旦那、殺したわけじゃないんだし」
ミタカ「事情を話せばきっと」
ミタカ「あなたを擁護する声も、あるよ」
女「ふっ、やだ」
女「夫からだわ」
ミタカ「早く出たら? 怪しまれるよ」
ミタカ「じゃあ、もう行くから」
女「待って!!」
女「近くの川沿いの公園、分かる?」
ミタカ「え、ああ」
女「私の娘がそこにいるの」
女「悪いんだけど、マンションの前まで 送ってくれない?」
ミタカ「なんでそんな事」
女「私は」
女「戻れないから」

〇空

〇川沿いの公園
「結菜ちゃん?」
結菜「ママ?」
「ううん」
ミタカ「ごめんね、違うんだ」
ミタカ「でも”私”」
ミタカ「ママから結菜ちゃんを 送るように頼まれたの」
結菜「えっ?」
結菜「うーん・・・」
結菜「あいことば!」
ミタカ「えっ、あ」
ミタカ「ゆな、かな、みな?」
結菜「・・・・・・」
結菜「ほんとにママからたのまれたんだ」
ミタカ「信じてくれた?」
結菜「うん!」
ミタカ「じゃあ、一緒に帰ろう」

〇川に架かる橋
ミタカ「さっきの合言葉」
ミタカ「ママと決めたの?」
結菜「そう」
結菜「いつもつかうよ」
ミタカ「そっか」
ミタカ「大事にされてるんだね」
結菜「ママ、お出かけ?」
ミタカ「うん」
ミタカ「ちょっと、遅くなるみたい」

〇マンションのエントランス
「おばあちゃーん」
結菜の祖母「結菜!」
結菜の祖母「よかった!」
結菜の祖母「あなたが公園から戻るって ママから急に電話があって、心配で」
結菜「平気だよ」
結菜の祖母「ママとパパはどこに行っちゃったの?」
結菜「わかんない」
  ピッ
結菜の祖母「もしもし、美奈?」
結菜の祖母「今結菜には会えたけど あんた一体どこに」
結菜の祖母「──ちょっと、泣いてるの?」
結菜の祖母「何? ごめんって、美奈!??」
結菜の祖母「美奈?」

〇低層ビルの屋上

〇黒

〇マンション前の大通り
サヤカ「!?」
サヤカ「あ〜~!」
ミタカ「あれ、まだいたんだ」
サヤカ「あんたが待ってろって言ったんでしょ!?」
ミタカ「そうだっけ?」
サヤカ「それより、大変だったの」
サヤカ「会ったのよ! 有坂に!!」
ミタカ「うわ、まじ? どこで?」
サヤカ「事情聴取されてたら、通りかかって」
サヤカ「・・・助けて、もらった」
ミタカ「へぇー、意外」
ミタカ「あいつ、1人だったの?」
サヤカ「え、うん」
ミタカ「そう」
ミタカ「ま、それなら目的達成で何よりだね」
ミタカ「帰ろうか」

〇川沿いの公園
サヤカ「はぁぁ、疲れた」
ミタカ「無茶な事するから」
ミタカ「壁を登るなんてアホな発想 よく出たよね」
サヤカ「・・・昔」
サヤカ「直人がボルダリングはまってて」
サヤカ「一緒に楽しみたくて、教室通ったの」
サヤカ「だから、咄嗟に」
ミタカ「へぇ」
ミタカ「また得意の失恋未練話か」
サヤカ「違うわよ!!」
サヤカ「でも、よかった」
ミタカ「ん」
サヤカ「あの人が助かって」
ミタカ「・・・そうだね」

〇駅前広場
ミタカ「また連絡するよ」
サヤカ「あんた電車じゃないの?」
ミタカ「うん」
サヤカ「そう」
サヤカ「じゃあ、また」

〇電車の座席
サヤカ(”じゃあ、また”って、何だその挨拶)
サヤカ(私、殺人犯と何やってんだろ・・・)
サヤカ(いや、だめ!)
サヤカ(深く考えるのはやめるって 決めたはず)
サヤカ(直人と過ごしてきた時間)
サヤカ(全部、無駄だったって思ったけど)
サヤカ(こんな形で役に立つなんて)
サヤカ(別れた日から、ずっと嫌な事ばかりで)
サヤカ(生きた心地がしなかったけど)
サヤカ(今日は・・・)
サヤカ(少しだけ自分が誇らしい)
サヤカ(こんな私でも、誰かを救うことができる)
サヤカ(大丈夫)
サヤカ(私、まだ大丈夫)
サヤカ(はぁ・・・なんか、久しぶりに眠たい)
サヤカ(あの人を救えて)
サヤカ(よかった・・・)

〇空

〇川に架かる橋

〇ビルの裏通り
警察官「下がってくださーい!」
警察官「そこ、カメラは駄目だっ」
  何? え、飛び降り?
  うわぁ、女の人かな。グロ
  わ、やべえー、顔わかんないじゃん
ミタカ「・・・・・・」
ミタカ「・・・っ」

〇川沿いの公園

〇白いアパート
警察官「下がってください!」
警察官「ほら下がって」
ミタカ「はあっ、はあっ」
ミタカ「・・・嘘だ」
  早く、止血!
  車でます、下がってくださーい!!

〇川沿いの公園
ミタカ「・・・嫌なもの見たな」
ミタカ「・・・・・・」

次のエピソード:六話 新たな役割

コメント

  • 隣人事件の顛末の傍らで、ミタカさんとサヤカさんのパーソナルが垣間見えるシーンは、思わず見入ってしまいました。世間的にも「正しく」誠実なサヤカさんに魅力を感じる一方で、ミタカさんの心の奥底がチラリチラリと見えて引き付けられます。これってチラリズム!?(違)

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