修学旅行の夜といえば

伊瀬ハヤテ

修学旅行の夜といえば(脚本)

修学旅行の夜といえば

伊瀬ハヤテ

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〇広い畳部屋
ケンヤ「アヤト、そろそろ教えろよ」
アヤト「秘密だって言ってるだろ」
  みんなが寝静まった深夜の大広間。
  布団の中で身を縮めているとケンヤがもぞもぞとやってくる。
  夜の修学旅行といえば恋バナだ。
  ついさっきまで「誰が好きか」という秘密を公開告白していたが俺の番になったところで見回りの先生がやってきてお開きになった。
ケンヤ「だったら、オレの秘密教えるからアヤトも言えよ」
アヤト「やだよ、そんなこと言って今まで犬派だって言ってたけど実は猫派でした!みたいなクソしょうもないこと言うんだろ」
ケンヤ「そ、それは・・・」
アヤト「とにかく、俺はケンヤのことなんかお見通しなんだよ」
ケンヤ「じゃあアヤトも知らない俺の秘密を言えば、アヤトも秘密を教えるってことでいいな」
アヤト「しつこいな」
  ケンヤは今までにない深刻そうな顔になり、ふーっと息を吸う。
ケンヤ「実は俺・・・・・・あーやっぱりちょっと待って。心の準備が」
アヤト「無理すんな」
ケンヤ「無理してない! いいか、引くなよ」
アヤト「引かねーよ」
ケンヤ「俺、実は魔法少女なんだ。半年前から妖精と契約して夜な夜な魔獣と戦っている」
アヤト「・・・・・・」
ケンヤ「はい、じゃあアヤトの秘密を」
アヤト「待て待て待て待て」
ケンヤ「なに? どうせ証拠見せろとか言うんだろ。アヤトはそう言う疑り深いところあるよな。はい、チェンジエンゲージ」
  ケンヤが布団に潜ると、一瞬布団の隙間から光が漏れる
  するとピンクの帽子をかぶったケンヤが出てきて俺の目の前にごとりと重そうな杖と宝石のついた指輪を置いた。
ケンヤ「これがシャイニークリスタルロッド、変身アイテム。あとこれが炎を操るルビーリングでこっちが水を操るサファイアリング」
ケンヤ「それでこれがダイヤリング。これで殴ると痛い」
アヤト「ただのメリケンサックじゃねえか」
ケンヤ「はい。これが俺の秘密。じゃあお前の秘密を」
アヤト「知ってた」
ケンヤ「は?」
アヤト「ケンヤが魔法少女だって知ってたし」
ケンヤ「マジかよ。じゃあ他の秘密かぁ」
アヤト「まだあるのかよ」
ケンヤ「え?」
アヤト「いやなにも」
ケンヤ「じゃあ俺がなんどもこの時間をタイムループしてるってことは」
アヤト「・・・知ってる」
ケンヤ「マジかー。バレないようにしてたつもりなんだけどな」
アヤト「それって、魔法少女と関係は?」
ケンヤ「完全に別件。たまたま同じ一年を繰り替えることに気がついて。俺はもう高校二年生を六回やってる。って、本当は知らないんじゃ」
アヤト「知ってる。ただの確認だよ」
ケンヤ「そっかー。じゃあ俺が異星人ってことも知ってるよな」
アヤト「も、もちろん」
ケンヤ「ふるさとの星が悪い宇宙人に破壊されて、赤ん坊だった俺は脱出ポットに入れられて地球にたどり着いたんだけどそれも」
アヤト「知ってる」
ケンヤ「くそー。じゃあ俺が秘密戦隊のゴールド戦士ってことも」
アヤト「知ってる」
ケンヤ「町角でぶつかった女子高生と中身が入れ替わってたことも」
アヤト「知ってる」
ケンヤ「実は小5までおねしょしてたことも」
アヤト「弱い」
ケンヤ「弱い?!」
アヤト「おねしょってすげー秘密なのに前述の奴らがすごすぎて霞んでる」
ケンヤ「ちくしょー本当にお前は俺のことなんでも知ってるんだな」
  はぁーあ、とため息をつくケンヤ。
  そんなケンヤを見ていると胸の奥がぎゅっと苦しくなって、俺はつい本音を漏らしてしまう。
アヤト「知らないよ」
ケンヤ「え?」
アヤト「お前のこと、本当はなにも知らない。知りたくもない」
ケンヤ「どうしたんだよ急に」
アヤト「だって知っちゃえば、知ろうすれば、もう元の関係には戻れなくなるから」
  はぁ、言ってしまった。こうなってしまえばもう隠せない。
ケンヤ「・・・アヤトの秘密って」
アヤト「それは・・・暗黒宇宙人、デスサタンの生まれ変わりだってことだよ!」
ケンヤ「お前がデスサタンだったのか!」
アヤト「そうだ! 俺がお前の故郷の星を破壊し、魔獣を街に放ち、秘密戦隊と戦う悪の親玉であり、お前とぶつかった女子高生だったのだ」
ケンヤ「そんな、俺の秘密は全てお前に仕組まれていたことだったなんて。それじゃあ小学五年生までおねしょしていたことも・・・」
アヤト「それは知らん」
アヤト「そしてこの世界はアニメだ!」
ケンヤ「アニメだと?!」
アヤト「夕方六時放送の子供向けアニメ、今は第六シーズン放映中だ!」
ケンヤ「だから俺はタイムループしていたのか」
アヤト「どうだ参ったか!」
ケンヤ「くそっ! しかし!こんなことでくじける俺ではない!」
  気づけば互いに立ち上がり、距離をジリジリと詰めながら睨み合っていると襖が開き、廊下の明かりが大広間に差し込む。
「うるさいぞー。何時だと思ってるんだ早く寝ろ」
「すみません・・・」
  見回りの先生に頭を下げ、俺たちはすごすごと布団に戻る。
アヤト「ケンヤの嘘に付き合ってたら白熱してしまった」
ケンヤ「怒られてやんの」
アヤト「ケンヤもだろ。てかどうしたんだよさっきの魔法アイテム」
ケンヤ「お土産屋で買った」
アヤト「お前バカだろ」
  俺たちは息を殺して笑い合う。
  あぁ、今俺、すげー幸せだ
ケンヤ「それで結局、秘密は?」
アヤト「しつこい」
アヤト「(いつか言うから待ってろ)」
  そう心の中で呟いて俺は布団に潜った。
  秘密は楽しくて、苦しい。
  秘密にすることができなくなるその日まで、ケンヤに対する秘めた思いは留めておく。
  修学旅行の特別な夜は更けていく。

コメント

  • 二人のやり取りに少し恋心を感じてしまいました!
    それはそれでキュンなのですが!
    修学旅行の夜って特別ですよね…って彼らはループしてるんですよね!?
    終わらない修学旅行って、ちょっとミステリーです。

  • 秘密が面白いですね。あり得ない秘密を次から次へと喋っているところが面白い。しかも、その秘密を全て知っているとツッコミを入れるところが漫才だね。

  • タイトルから色々な事が想像できたけど、いい意味期待を裏切ってくれました。とても快活な会話が心地よく、でも少しセンチメンタルで。次回に続くですね!

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