全力で叫べ蛍!

結城 直人

読切(脚本)

全力で叫べ蛍!

結城 直人

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〇大きな木のある校舎

〇教室
木内(現国教師)「鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす」
木内(現国教師)「これは日中鳴き叫ぶ蝉よりも、静かに光り輝く蛍の方が、その心に深い想いを宿しているという意味合いがあり―」
生ノ島蛍(・・・笑わせる)
木内(現国教師)「っと、もう昼か早いな」

〇まっすぐの廊下

〇フェンスに囲われた屋上

〇渡り廊下
生ノ島蛍(・・・)

〇体育館の裏
  体育館(裏)
生ノ島蛍(うるっせぇなぁ)
  蛍の視線の先で仰向けの蝉が身体をくねらせさせ踠がいている
生ノ島蛍「ゆっくり休めよ」
生ノ島蛍「さんざ叫んだろ?」
生ノ島蛍「わからないな」
生ノ島蛍「でも私は」
生ノ島蛍「私は君が羨ましい」
  蝉は蛍の言葉を最後に動きを止めた
  私はこの日から不登校になった

〇男の子の一人部屋
生ノ島蛍「・・・」
「蛍ちゃんご飯降りてらっしゃい」
生ノ島蛍「・・・」
「学校行かなくていいから、ご飯はちゃんと食べて」
生ノ島蛍(・・・嘘つけよ)

〇見晴らしのいい公園
生ノ島蛍(はぁ)
生ノ島蛍「?」
遠野希「よいしょ、うんしょ」
遠野希「ふぅ、あっつ」
遠野希「あっ、こんにちわ」
生ノ島蛍「何してるん? お墓?」
遠野希「そう!蝉のお墓作ってるの」
生ノ島蛍「・・・」
生ノ島蛍「頑張って」
遠野希「待って!」
生ノ島蛍「何?」
遠野希「一緒に作らない?お墓」
生ノ島蛍「はは・・・お断り」
遠野希「可哀想だと思わないの?」
生ノ島蛍「可哀想?」
遠野希「蝉は七日間しか生きられないんだよ?」
生ノ島蛍「違うね、みんな七日ってわけじゃない、数週間くらい生きる蝉だっている」
遠野希「へーそうなんだ、でも人間よりすぐ死んじゃうじゃん」
生ノ島蛍「頭おかしいじゃないの?」
遠野希「・・・そう、頭おかしいんだ」
生ノ島蛍「はぁ?」
遠野希「私は人間なのに、蝉と同じなんだって」
生ノ島蛍「やっぱり変あんた、さよなら」
遠野希「・・・」
遠野希「続けなきゃ」

〇男の子の一人部屋
生ノ島蛍(なんでこうなんだ)
生ノ島蛍(絶望的なコミュ症、いやになる)

〇教室
館川(担任教師)「3年なんて短い一瞬の期間だからな、卒業までに各自しっかりプランを立ててー」
水原花音「先生!チャイム!ご飯!」
館川(担任教師)「わかったよ、じゃあ終わろう」
三田寺ゆうか「花音ナイス!長いんだよなぁあいつ」
青木龍之介「今日寒くね?もう4月なのに」
水原花音「保険の町田、外食長いし暖房拝借しちゃう?」
三田寺ゆうか「生ノ島さんも行かない?」
生ノ島蛍「え?」
青木龍之介「そういやおまえ、いつも誰と飯食ってんの?」
生ノ島蛍「・・・えっと」
水原花音「行こうよ!保健室バリぬくだよ!」
生ノ島蛍「勝手に入るのはよくないから」
「・・・」
生ノ島蛍「大丈夫、誰にも言わないから」
青木龍之介「誰かと仲良くしてるの見た事ないんだよな」
水原花音「入学式の時に玲子が話しかけたらしいんだけど、なんかとっつき悪かったって」
三田寺ゆうか「寂しくないのかなぁ」
青木龍之介「まぁいいじゃん、一人静かにいたいんだろ」

〇図書館
生ノ島蛍(またやっちまった!準備してたのに! くそ! くそっ!)
生ノ島蛍(心の言葉が出せない)
生ノ島蛍(なんで止める!? なんで言ってくれない!?)

〇見晴らしのいい公園
生ノ島蛍「お墓、こんなに沢山」
遠野希「まだまだ足りないんだ」
生ノ島蛍「びっくりした!気配消さないでもらえる!?」
遠野希「ごめん、でももうすぐ全部消えるから」
生ノ島蛍「・・・」
生ノ島蛍「その制服、緑ヶ丘高の生徒だよね? 学校行ってるの?この前も平日だったけど」
遠野希「入学式だけ行ったんだ、あとはずっとびょー」
生ノ島蛍「・・・」
遠野希「ねぇ?学校楽しい?」
生ノ島蛍「・・・だるいよ」
遠野希「だるい?」
生ノ島蛍「長いんだよ、苦痛なんだよ、私にとっちゃ刑務所と変わらないわ」
遠野希「刑務所入った事あるの??」
生ノ島蛍「もういい」
生ノ島蛍「・・・ねぇ、あんたさ」
遠野希「?」
生ノ島蛍「もしかして近々死ぬ?」
遠野希「・・・」
遠野希「うん、そうだよ」
生ノ島蛍「聞かなきゃよかったよ」
遠野希「ふふ、ねぇお墓一緒につくろ!」
生ノ島蛍「キリがないでしょ? 一体今何匹死んでて、これから何匹死んでいくと思ってんの」
遠野希「でも人はお墓できるよ」
生ノ島蛍「な、何?」
遠野希「誰かが作ってあげるからお墓できるんでしょ?」
生ノ島蛍「・・・」
生ノ島蛍「どうせ死ぬのに!そんな事してなんの意味があるっつってんだよ!」
遠野希「あはは!やっぱはっきり言うんだ!」
生ノ島蛍「はぁ!?」
遠野希「嬉しいな」
生ノ島蛍「嬉しい?」
遠野希「みんな心に置いたままなんだ、色々思って、深く考えて、でも全然言わないんだ」
遠野希「そしたら私も何も言えない」
遠野希「もっと叫びたいのに」
遠野希「一日中」
遠野希「怖いって」
遠野希「短すぎるって」
遠野希「全力で」
遠野希「この子たちみたいに叫びたいのに」
遠野希「なんて言うとりますけどね」
生ノ島蛍「・・・私も同じ」
遠野希「?」
生ノ島蛍「心を言う事が怖いんだよ、誰もがさ」
生ノ島蛍「自分が傷つくかもしれないから」
生ノ島蛍「鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす」
遠野希「え?」
生ノ島蛍「嫌いなんだよ、あのことわざ」
生ノ島蛍「蝉がダメみたいな言い方しやがってよ」
生ノ島蛍「蝉の方がかっこいいじゃねぇか」
生ノ島蛍「短いのがわかってから全力で叫んでんだよ!」
生ノ島蛍「私は蛍なんてごめんだ! 私は蝉になりたい!」
生ノ島蛍「私は・・・あんたになりたい」
遠野希「・・・」
遠野希「蛍も二週間くらいしか生きられないんだ」
生ノ島蛍「なっ、何???」
遠野希「だから蛍でいいじゃん!」
生ノ島蛍「だから私は・・・」
遠野希「全力で叫ぶ蛍でいいじゃん!」
生ノ島蛍「・・・」
生ノ島蛍「わかったよ・・・その代わり」
生ノ島蛍「おまえもちゃんと蝉やれよな」
遠野希「え」
生ノ島蛍「叫んでこなかったんだろ?」
生ノ島蛍「ほら」
生ノ島蛍「やれつってんだろ!」
遠野希「・・・怖いよ」
生ノ島蛍「蝉だっつてんだろ!!」
遠野希「辛いよ! 死にたくないよ!」
遠野希「壊れそうだよ! 助けてよ!」
遠野希「短すぎるよ! もっと長く! だるいって思うくらい!」
遠野希「生きたかっ・・うぐっ」
  希を不器用に抱きしめる蛍
遠野希「×▽!!Ωγ!!!」
  蛍の胸の中の叫びを
  蝉たちの協奏曲が打ち消していく

〇大きな木のある校舎

〇教室
木内(現国教師)「諸行無常の響きあり」
木内(現国教師)「この諸行無常とは、この世のすべての事象はたえず変化してゆき同じまま留まらない事をいう」
木内(現国教師)「君達はまだ若いが人生はどこで終わりを迎えるかわからない、だから悔いの無い様全力で生きるように」
水原花音「飯飯!生きる為に飯!」
三田寺ゆうか「どこか涼しいとこで食べようよ」
青木龍之介「でも町田にばれてっから保健室使えないぜ」
生ノ島蛍「・・・あ」
生ノ島蛍「あのさ!」
青木龍之介「うわ!びっくりした!声でか!」
生ノ島蛍「体育館の裏・・・涼しいとこあるけど」
水原花音「まじ?そこ行こう!」
三田寺ゆうか「賛成!連れてって生ノ島さん」
生ノ島蛍「お、おけぃ・・・」

〇見晴らしのいい公園
生ノ島蛍「ふぅ、あっつ」
  蛍の周りには幾つもの蝉のお墓が作られている
  仰向けの蝉が蛍をじっと見つめている
  踠がくのをやめ、足掻がくのをやめ、静かに最後を待っている
生ノ島蛍「何やってんだおまえ」
「・・・」
生ノ島蛍「―けべよ」

〇見晴らしのいい公園

〇見晴らしのいい公園
生ノ島蛍「ほらっ」
生ノ島蛍「叫べ!!!」
  おわり

コメント

  • 周りの人が気を遣って何も言わないから自分も本心を吐き出すことができないという希の告白が切なかったです。二人の出会いによって、遺された蛍なりに蛍でも全力で叫んで生きてやろうという気概が少し生まれたようでよかった。たとえ短い人生でも何も遺さず誰にも影響を与えず死んでいく人はいないんだなあ、としみじみ感じました。

  • 2人が束の間でも心を通わせることができ、お互いに心の叫びを声に出して表現する様が、まさに【人】という漢字を思い浮かばせます。人は人によって人間らしくなれるんだと感じました。

  • 僅かな間ですが、蛍と蝉と、お互いで励ましているように見えました。
    短いからこそ、わかることもあり、長いからこそ、わかることもある、人生って不思議なものです。

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