読切(脚本)
〇教室
暁(世の中は理論で動いている)
暁(何気なく転がるボールにだって、物理法則という理論でなりたっている。それはこの人間の生活でも同じだ)
暁「5Aの2乗です」
教師「正解だ」
教師「ったく。お前は数学と物理だけは凄いな。もっと他の教科も頑張れば、もっと上の大学だって狙えるんじゃないか?」
暁「上の大学に行くことは、俺にとっての最適解じゃありません」
教師「はあ・・・?」
〇開けた交差点
遥香「ねえ、暁。今度の土曜日に、買い物付き合ってよ」
暁「無理だ」
遥香「えー。なんでよ?」
暁「土曜は18時までゲームをする予定だ」
遥香「ゲームなんていつでもいいじゃん」
暁「土曜にイベントの消化をするんだ。その日が、一番効率がいい」
遥香「暁は相変わらず、効率厨だね」
暁「違う。最適解なだけだ」
遥香「はいはい。わかりましたよーだ」
暁「・・・ 遥香」
遥香「なによ?」
暁「日曜なら、一日、付き合ってやる」
遥香「・・・ ホント!?じゃあ、日曜日で!」
〇アパレルショップ
遥香「ねえ、暁、これ、どっちがいいと思う?」
暁「その大きさのコップなら、あそこの店で、もっと安く手に入る」
遥香「えー。値段じゃないよー」
暁「ん?コップに値段以外の価値があるのか?液体を入れられれば、要件は満たせている」
遥香「もう!デザインも大事でしょ、デザインも」
暁「そうか?家計のことを考えれば、安さを重視するのが当然だ」
遥香「限られたお小遣いだからこそ、少し高くても、気に入ったものを使いたいの!」
暁「・・・ よくわからんな」
遥香「ったく、相変わらず効率厨なんだから」
暁「違う。最適解だ」
遥香「はいはい」
〇大きな木のある校舎
教師「うおおお!先生はお前らの担任になってよかったぞ!卒業、おめでとう!」
〇開けた交差点
遥香「あははは。先生、最後まで暑苦しかったねー」
暁「あそこまで感情を高ぶらせられる理由が理解できん。たかが、卒業式だろ」
遥香「・・・ 3年間、あっと言う間だったね」
暁「時間の概念はすべての人間が同じだ」
遥香「もう!そういうことじゃないってば!色々、思い出とかないの?」
暁「あるぞ。だが、それと時間の概念がどう関係あるんだ?」
遥香「はあ・・・。暁に聞いた私がバカだった」
暁「・・・ だが」
遥香「ん?」
暁「この3年間は楽しかった」
遥香「もうー!それを最初に言いなさいよ!少しは雰囲気を大事にしてよね!」
暁「雰囲気?論理的ではないものに興味はない」
遥香「はあ・・・ 。相変わらず、効率厨なんだから」
暁「違う。最適解だ」
遥香「あっそう。暁が空気読まないなら、私も読まないからね」
暁「勝手にしろ」
遥香「ねえ、暁。結婚を前提に付き合ってよ」
暁「・・・ は?」
遥香「だーかーら!付き合ってって言ったの!」
暁「な、なぜ、このタイミングなんだ?もっと、こう、あるだろ。色々と」
遥香「暁が、その台詞言う?」
暁「・・・・・・」
遥香「・・・ で?どうなの?」
暁「・・・ 本気、なのか?」
遥香「冗談で言うほど、空気読めてないわけじゃないから」
暁「・・・ では、俺も本気で答える」
遥香「う、うん・・・」
暁「俺はお前の最適解じゃない」
遥香「え?どういうこと?」
暁「・・・ お前の家は、多額の借金がある」
遥香「・・・ そうだよね。借金を背負うのは嫌だよね」
暁「そうじゃない」
遥香「・・・ ・・・」
暁「俺が進学するのは2流大学だ。卒業しても、一般の平均値の給料しか稼げないだろう」
遥香「・・・・・・」
暁「だが、遥香。お前は器量がいい。性格も人を惹きつけるものがある。つまり、モテるということだ」
遥香「・・・ それがなによ?」
暁「つまり、俺なんかと結婚するよりも、もっと所得の高い、いわゆる富裕層と結婚した方がいいってことだ」
遥香「はあ・・・ 。結婚に関しても、効率厨かぁ」
暁「違う。最適解だ」
遥香「そんなことよりも、暁の気持ちが知りたいの!私のこと好きなの?嫌いなの?」
暁「その二択なら、好きだ」
遥香「なら!」
暁「しっかりしろ!お前の人生なんだぞ!一時の感情でものを決めるな!お前にとって、最適解を選べ!」
遥香「・・・ わかった。最適解を選ぶよ」
暁「ああ。それでいい」
〇黒
――15年後──
〇古いアパート
暁「はあ・・・。今日も残業、疲れたな」
〇アパートのダイニング
暁「・・・ ただいま」
暁「ふう・・・」
〇アパートのダイニング
暁「うわっ!」
遥香「暁― !」
暁「遥香、今日は遅くなるから、寝てろって言っただろ」
遥香「聞いてよー!今月で借金、返し終わったー!」
暁「ホントか?」
遥香「うん!暁、ご苦労様でした。 ・・・ ありがとうね」
暁「俺一人の力じゃない。遥香だって、働いてたし、俺を支えてくれてただろ」
暁「お前の方がよっぽど苦労したんじゃないか?」
遥香「うん・・・。でもね、私が頑張れたのは暁のおかげ」
暁「・・・ そうか」
遥香「私ね、幸せだよ」
暁「・・・ そうか」
遥香「暁は?」
暁「もちろん、幸せだ」
遥香「・・・ ね?言った通りでしょ?」
暁「何がだ?」
遥香「これが私の最適解」
暁「・・・ そうだな」
終わり。
なんだろう、すごく堅物な感じがするのにカッコよく見えるのは何故だろう。
クラスに一人はいましたよね。数学だけめちゃくちゃ頭いい人!