〇東京全景
　　時代が変われば、常識も変わる。

〇土産物屋
　　長らく覇権を誇った『たい焼き』は
　　猫肉球型の『にゃんだ焼き』席巻により
　　過去のものとなっていた───

〇おしゃれなリビングダイニング
　　にゃ～んだにゃんだのにゃんだ焼き♪
喜多金 大焼（たいしょう）「にゃんだ焼きCMはいつ見ても可愛いなぁ」
喜多金 広一（こういち）「ほら寿美さん、にゃんだ型のホットサンド！」
喜多金 寿美（すみ）「ありがとう」
喜多金 広一（こういち）「どう？可愛いでしょ」
喜多金 寿美（すみ）「ああ。ホットサンドも広一も可愛いよ」
喜多金 広一（こういち）「えっ」
喜多金 寿美（すみ）「いつもありがとう」
喜多金 寿美（すみ）「今日も頑張ろうな」
喜多金 広一（こういち）「はい、寿美さん・・・」
喜多金 寿美（すみ）「うちは小さな鋳造工場だけど、バンバンにゃんだ型作ってもっと大きくするよ！」
喜多金 大焼（たいしょう）「よっ、母さん」
喜多金 大焼（たいしょう）「喜多金鋳造所の５代目社長、日本一！」
喜多金 流杏（るあん）「おはよう下僕」
喜多金 大焼（たいしょう）「流杏、おはよう！ コーヒーと紅茶、どっちがいい？」
喜多金 流杏（るあん）「コーヒー」
喜多金 大焼（たいしょう）「今日は朝から大学？」
喜多金 流杏（るあん）「ああ。兄貴は職安？」
喜多金 大焼（たいしょう）「俺は倉庫整理を頼まれてて」
喜多金 流杏（るあん）「家業を手伝って小遣い稼ぎするより、さっさと継げば？」
喜多金 流杏（るあん）「社会経験とか言って全然経験できてないし」
喜多金 大焼（たいしょう）「このニート期間も貴重な経験だよ」
喜多金 流杏（るあん）「ふぅん、じゃあ頑張れ」
喜多金 大焼（たいしょう）「ハイ！ありがとうございます！」
喜多金 大焼（たいしょう）「流杏は今日も素敵な女王様だな・・・」
喜多金 広一（こういち）「大焼、お前ほんとに妹の下僕でいいのか？」
喜多金 大焼（たいしょう）「父さんだって母さんの下僕じゃん」
喜多金 広一（こういち）「違うぞ。俺は愛されてる」
喜多金 大焼（たいしょう）「俺が愛されてないみたいな言い方やめろよ！」

〇花火倉庫
喜多金 大焼（たいしょう）「なんだこれ？」
喜多金 大焼（たいしょう）「昔の「たい焼き」の型か。 古くせえ形」
喜多金 大焼（たいしょう）「やっぱりにゃんだ型がおしゃれで可愛いよな」
喜多金 大焼（たいしょう）「にゃ～んだにゃんだのにゃんだ焼き♪」
？？？「許さぬ・・・」
喜多金 大焼（たいしょう）「え？」
喜多金 大焼（たいしょう）「なんだぁぁあ!?!?」
喜多金 寿美（すみ）「どうした、大焼！」
喜多金 広一（こういち）「大丈夫か!?」
？？？「我はたい焼き型に宿りしタイヤキ神・・・」
タイヤキ神「我らを侮る人類に報復を！」

〇おしゃれな大学
谷久木 由羽（ゆう）「喜多金流杏！」
喜多金 流杏（るあん）「ん？」
喜多金 流杏（るあん）「えーと、谷・・・」
谷久木 由羽（ゆう）「谷久木よ。谷久木由羽！」
谷久木 由羽（ゆう）「あんた、また人の男を取ったわね！」
喜多金 流杏（るあん）「取ってない」
谷久木 由羽（ゆう）「嘘！わたしが告白する男は皆、あんたが好きっていうのよ！」
喜多金 流杏（るあん）「いや、知らねぇし」
谷久木 由羽（ゆう）「あなた、うちの下請け工場の娘らしいじゃない」
谷久木 由羽（ゆう）「このにゃんだ焼き大手チェーン『にくきゅう本舗』の社長令嬢を妬んでるんでしょう？」
喜多金 流杏（るあん）「え。にくきゅう本舗の？知らなかった、ごめん」
谷久木 由羽（ゆう）「なっ・・・！」
喜多金 流杏（るあん）「名前は覚えたよ。谷久木、バイバイ」
谷久木 由羽（ゆう）「うう、許さない・・・」

〇おしゃれなリビングダイニング
喜多金 流杏（るあん）「ただいまー」
喜多金 流杏（るあん）「誰もいないの？」
　　流杏のおやつだよ！
喜多金 流杏（るあん）「・・・なにこれ」
喜多金 流杏（るあん）「新しい型の試作品？ にしては、古くさい形」
　　ぱくっ
喜多金 流杏（るあん）「これ、にゃんだ焼きよりおいしくないか？」
喜多金 流杏（るあん）「角や凹凸が多いからか、表面がサクッとして」
喜多金大焼（たいしょう）「キモチイイ～っっ」
喜多金 流杏（るあん）「兄貴の気色悪い雄叫びが聞こえた気がしたけど、空耳？」
喜多金 流杏（るあん）「まあいいか・・・」
喜多金 流杏（るあん）「ごちそうさま」
喜多金大焼（たいしょう）「リフレッシュ☆GO ON！」
　　すげー！本当に復活した！
　　あ、ごめん
喜多金 大焼（たいしょう）「俺だよ、俺」
喜多金 流杏（るあん）「兄貴!?!?」
喜多金 大焼（たいしょう）「流杏、食ってくれてありがとう！」
喜多金 流杏（るあん）「は？」
喜多金 大焼（たいしょう）「ほら、母さんたちも！大丈夫、食われるの、なんと気持ち良かったよ！」
喜多金 流杏（るあん）「これは、一体・・・」
喜多金 大焼（たいしょう）「俺たち、」
「たい焼きになっちゃったんだ！」
喜多金 流杏（るあん）「ハァア!?!?」
喜多金 広一（こういち）「でも大丈夫」
喜多金 寿美（すみ）「賞味期限内なら、こうして人型になれる！」
喜多金 流杏（るあん）「いや、大丈夫じゃねぇだろ。 なんなのたい焼きって！」
喜多金 大焼（たいしょう）「昔にゃんだ焼きは魚の形だったんだ。それがたい焼き」
喜多金 大焼（たいしょう）「それでさ、俺たちが元に戻るには、たい焼きMOVEポイント一億必要なんだって！」
喜多金 大焼（たいしょう）「だからTapMOVIEにアカウント作ろうと」
喜多金 流杏（るあん）「ちょっと待て、落ち着いて説明しろー！」

〇おしゃれなリビングダイニング
喜多金 流杏（るあん）「つまり、古い型に宿ったタイヤキ神の呪いで、３人ともたい焼きにされてしまったと」
「うん」
喜多金 流杏（るあん）「その呪いを解くには、たい焼きで心を動かすと貯まるポイントが一億必要だと」
「うん」
喜多金 流杏（るあん）「その手段として考えたのが、動画サイト『TapMOVIE』でのたい焼き啓蒙動画」
「うん」
喜多金 流杏（るあん）「・・・それ、このイカれた状況を動画にすれば、あっという間にバズるんじゃね？」
喜多金 大焼（たいしょう）「あ、なるほど！」
？？？「それはならん」
喜多金 流杏（るあん）「出たな元凶。てめぇふざけんなよ・・・」
タイヤキ神「なんだその態度は。お前もたい焼きにすんぞ」

〇炎
喜多金 流杏（るあん）「あ"ぁ？」

〇おしゃれなリビングダイニング
タイヤキ神「イエ、スミマセン」
喜多金 流杏（るあん）「うちの家族を元に戻せ」
タイヤキ神「それはムリデス」
喜多金 流杏（るあん）「何故だ」
タイヤキ神「呪いが発動済みだからデス」
喜多金 流杏（るあん）「この状況を動画にできない理由は」
タイヤキ神「家族外にたい焼きの正体がバレたらポイントリセットされる条件になっておりマス」
喜多金 流杏（るあん）「それ、お前が考えたのか」
タイヤキ神「でもあの、だって」

〇雷
喜多金 流杏（るあん）「『だって』はいらない。 要点を簡潔に答えろ」

〇おしゃれなリビングダイニング
タイヤキ神「本気でたい焼き復権して欲しいからデス」
タイヤキ神「超常現象の物珍しさでは一過性のブームで終わりマス」
喜多金 流杏（るあん）「なるほど」
喜多金 流杏（るあん）「タイヤキ神」
タイヤキ神「ハイ」
喜多金 流杏（るあん）「たい焼きのデザインを見て、私は古くさいと思った。しかし食べてわかった」
喜多金 流杏（るあん）「丸い部分、鋭利な部分、凹凸など、形による食感の変化。私は・・・」

〇幻想2
喜多金 流杏（るあん）「にゃんだ焼きより、たい焼きがおいしいと思う」

〇おしゃれなリビングダイニング
タイヤキ神「・・・！」
喜多金 広一（こういち）「父さんはにゃんだ焼きの方が可愛くて好き」
喜多金 大焼（たいしょう）「父さんは黙ってて！」
喜多金 流杏（るあん）「たい焼き、天下を取れるといいな」
タイヤキ神「あ、あ・・・」
タイヤキ神「貴女こそ、たい焼きの女神デス！」
喜多金 流杏（るあん）「いや、変な称号いらない」
喜多金 流杏（るあん）「私は流杏」
タイヤキ神「流杏様・・・」
喜多金 大焼（たいしょう）「タイヤキ神、話わかるやつだな！ 俺の妹様、最高だろ！」
タイヤキ神「ハイ！」
喜多金 流杏（るあん）「じゃ、タイヤキ神も動画手伝えよ」
タイヤキ神「えっ」
喜多金 流杏（るあん）「たい焼き復権させたいなら、お前も汗水流すべきだろ？」
タイヤキ神「いや、でも、我は一応神なので」
喜多金 流杏（るあん）「『でも』はいらない。 理由を簡潔に」
タイヤキ神「神の威厳としてそれはどうかなーと」
喜多金 流杏（るあん）「却下。手伝え」
タイヤキ神「ハイ」

〇華やかな裏庭
　　淋しげで空虚な瞳
　　蠱惑的な厚みのある唇
　　丸い頭と対照的に尖った尻尾
サメオ「何もかもが」
サメオ「美しい」
サメオ「この気持ちは・・・」
サメオ「相手はただの甘味なのに」
　　あなたは？
サメオ「我はサメオ そなたは？」
　　私はたい焼きのたい焼き子
サメオ「たい焼き子」
サメオ「素敵な名前だ」
　　心を通わせる二人を
　　逃れ得ぬ運命が襲う

〇黒
　　賞味期限

〇華やかな裏庭
サメオ「ダメだ！そなたを食べるなど」
　　サメオさん、大丈夫
　　生まれ変わって何度でも会いにくるわ
　　だからお願い
　　食べて
サメオ「たい焼き子ぉ！」

〇おしゃれなリビングダイニング
喜多金 大焼（たいしょう）「我が脚本ながら切ないぜ！」
タイヤキ神「しかしなぜ貴様が相手なのだ」
タイヤキ神「せめて流杏さんの声で吹き替えろ！」
喜多金 流杏（るあん）「これはこれで面白いんじゃないの」
喜多金 大焼（たいしょう）「で、たい焼きMOVEポイントは？」
　　+１
喜多金 大焼（たいしょう）「嘘！こんなに感動的なのに」
喜多金 流杏（るあん）「+１のコメント来てる」
　　サメオさん素敵！たい焼き食べてみたいです
タイヤキ神「え」
喜多金 流杏（るあん）「よし」
　　喜多金鋳造所でサメオに会えます
　　試食と焼き型購入も可能です
喜多金 大焼（たいしょう）「流石流杏、商売に繋げるか！」
タイヤキ神「ところで、貴様らなぜにゃんだ焼きの型を作っておるのだ」
喜多金 寿美（すみ）「だって注文あるし、生活あるし」
喜多金 広一（こういち）「俺はにゃんだ焼きの方が好き」
タイヤキ神「緊張感もリスペクトもなさすぎる」
喜多金 大焼（たいしょう）「まあまあ、長丁場になりそうだし、気負わず行こうよ」
タイヤキ神「もうやだ、この家族」
喜多金 流杏（るあん）「兄貴、そろそろ頃合いだろ」
喜多金 大焼（たいしょう）「ああ、そうだな」
　　よろしくお願いしまーす
喜多金 流杏（るあん）「これ、食べずに放置するとどうなるんだ？」
タイヤキ神「人型を保てなくなり、完全腐敗か焼却を待つことになりマス」
　　やめて、それはやめて～！
　　絶対食べて！
喜多金 流杏（るあん）「食べてやるから黙ってろよ」
　　ああっ・・・
喜多金 寿美（すみ）「これって共食いも可能かしら？」
喜多金 流杏（るあん）「あ、いけそう」
喜多金 寿美（すみ）「じゃあ、広一」
喜多金 広一（こういち）「は、はい」
　　ファッ・・・
タイヤキ神「我は何を見せられておるのか」
タイヤキ神「神の威厳とは・・・」
　　リフレッシュ☆GO ON！
喜多金 大焼（たいしょう）「タイヤキ神」
喜多金 大焼（たいしょう）「長い間倉庫に放置されて、淋しかったんだろ？これからは俺たちがいるよ」
喜多金 大焼（たいしょう）「ニート同士、仲良くしようぜ！」
タイヤキ神「大焼・・・」
喜多金 大焼（たいしょう）「タイヤキ神・・・」
タイヤキ神「神はニートではなーい！」
喜多金 大焼（たいしょう）「わぁー！」

〇怪しい研究所
谷久木 由羽（ゆう）「・・・」
喜多金 大焼（たいしょう）「うちに何か？」
谷久木 由羽（ゆう）（な、何？）
谷久木 由羽（ゆう）（この男から漂う、甘くて芳ばしい空気）
谷久木 由羽（ゆう）（ちょっと素敵かも）
喜多金 流杏（るあん）「谷久木？」
谷久木 由羽（ゆう）「喜多金流杏！」
喜多金 大焼（たいしょう）「あ、流杏の友達か」
谷久木 由羽（ゆう）「やっぱりここ、あんたの家なのね」
喜多金 流杏（るあん）「もしかして、谷久木が+１？」
谷久木 由羽（ゆう）「+１？」
喜多金 流杏（るあん）「とりあえず、試食しなよ」
喜多金 大焼（たいしょう）「あのたい焼き、誰？」
喜多金 流杏（るあん）「母さん」
谷久木 由羽（ゆう）「お、おいしい！」
喜多金 流杏（るあん）「でしょ？」
喜多金 流杏（るあん）「サメオ呼んでくるね」
谷久木 由羽（ゆう）「えっ、あの」
タイヤキ神「我に会いたいというのは貴様か」
谷久木 由羽（ゆう）「キャー！」
谷久木 由羽（ゆう）「カッコいい」
タイヤキ神「そ、そうか？」
谷久木 由羽（ゆう）「流杏とはどういうご関係ですか？」
タイヤキ神「え？それは」
喜多金 大焼（たいしょう）「俺とそいつは、流杏の下僕仲間だよ」
谷久木 由羽（ゆう）「下・・・僕？」
タイヤキ神「貴様！神を下僕などと」
喜多金 大焼（たいしょう）「違うの？」
タイヤキ神「いや、その、確かに」
タイヤキ神「流杏さんは仕えたいほど最高の御仁だが」
谷久木 由羽（ゆう）「ま」
谷久木 由羽（ゆう）「またしても・・・」
谷久木 由羽（ゆう）「喜多金流杏んんんん！」
谷久木 由羽（ゆう）「絶対に許さない」
谷久木 由羽（ゆう）「覚えてろよ！」
喜多金 大焼（たいしょう）「ああっ！」
喜多金 流杏（るあん）「お前らアホなの？」
喜多金 流杏（るあん）「でも、あの様子ならまた来るよ」
喜多金 流杏（るあん）「兄貴とタイヤキ神は自由に動画作ってな」
喜多金 流杏（るあん）「リアクション対応は私がやる」
喜多金 流杏（るあん）「ポイント獲得、加速させて行くよ！」
「おー！」
喜多金 寿美（すみ）「たい焼き型の受注にも備えるか」
喜多金 広一（こういち）「父さんはにゃんだ焼きが好き」
喜多金 大焼（たいしょう）「どっちも盛り上げて行くぜ！」
喜多金 大焼（たいしょう）「ネクスト☆GO ON！」