〇広い更衣室（仕切り無し）
ルポライター「夢見が丘連続婦女暴行事件──」
ルポライター「20年前から18年前にかけて、断続的に続いたこの事件について」
ルポライター「ちょっとお話を伺いたいんですがねぇ？」
　　なっ──!?
町の人「な、なぜそんなもんを調べる」
町の人「もう終わった事件じゃろが！」
ルポライター「この事件に奇妙な点が多いからですよ」
ルポライター「約２年半に渡って続いたこの事件」
ルポライター「被害者の居住はこの町周辺の各地でバラけているが、それ以外に共通点が多い」
ルポライター「まず、被害者は全員16歳以下の身寄りのない女児」
ルポライター「共通して、自分の住居付近を歩いている時に何者かに襲われ意識を失い」
ルポライター「意識を取り戻した時には、この町の外れの山中に放置されていたと供述している」
ルポライター「その間の記憶はなく、犯人の姿を見た者はいない」
ルポライター「記憶がない上にこれといった外傷もないため、性的暴行の発覚は遅れるケースが多く」
ルポライター「違和感を覚えて自主的に検査を受けて発覚したケースから、妊娠が発覚して被害に気付いたケースまで様々」
ルポライター「その特異性から、山の神に見初められた神隠しだ、などと言う者もあったとか」
ルポライター「──どうです？こんな妙な事件なかなかないでしょうが」
町の人「だから何だというんじゃ！もう終わった事件じゃ！」
ルポライター「終わった？」
ルポライター「確かに18年前を最後に、現在まで被害は出ていない」
ルポライター「だが、犯人は未だに捕まっていないんですぜ？住民のあなた方は、不安じゃないんですか？」
町の人「そ、それは──」
町の人「みんな、もう忘れたいんですよ！私達の町に汚名を着せられて、さんざん引っ掻き回されて──」
町の人「そうじゃ！もう話すべき事はとっくに警察に話しとる！今さら言う事などないわ！」
町の人「そうじゃ！だいたい、とっくに時効が成立しとる！もう終わった事件じゃ！」
ルポライター「だが、怪我を追っていた場合は強制性交等致傷罪となり、時効が伸びますぜ」
町の人「あんた、さっき自分で外傷はなかったと言ったじゃろうが！」
ルポライター「外傷はなくとも、ＰＴＳＤなどの精神疾患を発症していた場合は致傷罪が成立する」
町の人「仮にそうだとしても、その場合も時効は15年でもう成立しとるんじゃ！」
ルポライター「へぇ？──やけに詳しいんですねぇ」
ルポライター「法律関係の方ですか？いや──」
ルポライター「あなた元は電気屋で、今は年金暮らしでしたっけね？──猿渡 伸夫さん」
猿渡 伸夫(さわたり のぶお)「なっ──!?わしらの事まで調べとるのか!?」
ルポライター「それにあんた方の言い様は、まるで犯人の肩を持ってるみたいに聞こえますぜ」
猿渡 伸夫(さわたり のぶお)「バ、バカな──あんたみたいに面白半分の連中が来なくなると思って、時効を調べただけじゃ」
猿渡 伸夫(さわたり のぶお)「もう終わった話をいつまでも嗅ぎ回られて、迷惑なんじゃ！」
ルポライター「なるほどなるほど──お気持ちはよくわかりますよ」
ルポライター「だが、終わった事件とは思いませんな」
ルポライター「性的暴行が認められた被害者７名の他に、18年前にこの町で若い女性の行方不明者が出ている」
ルポライター「もしもこの行方不明者が殺されていた場合、時効は成立していませんな」
猿渡 伸夫(さわたり のぶお)「──話す事は無いと言っとるんじゃ！帰れ！帰ってくれ！」
ルポライター「フフン、まあ今日のところは帰るとしますかね」
ルポライター「謝礼は払いますんで、喋りたくなったらいつでも名刺の番号にお電話くださいよ」
ルポライター「ま、さすがに50万は払えませんがね！」
猿渡 伸夫(さわたり のぶお)「き、聞いてたのか──！」
ルポライター「じゃ、また近いうちお目にかかりますぜ、皆さん」

〇アパートの中庭
ルポライター「フン、狸どもめ」
ルポライター「ほとんど報道もされていないうえ、事件の性質が違うため」
ルポライター「連続婦女暴行事件との関連性は薄いとみられている行方不明事件」
ルポライター「それであの反応という事は、やはり何かある──」

〇白
　　コウくん──

〇アパートの中庭
ルポライター「由実姉ちゃん──」
ルポライター「待っててくれ、必ず見つけてやる──！」

〇シックな玄関
片瀬 英司(かたせ えいじ)「ご、50万──!?」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「無茶苦茶だ！だいたい家を買ったばかりでそんな余裕があるわけないだろう」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「今は君も働いてないのに──」
片瀬 舞(かたせ まい)「やっぱり、私が仕事を辞めなければ──」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「──」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「またそうやって僕を責めるのか？」
片瀬 舞(かたせ まい)「え？そ、そんな、責めてなんて──」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「僕は職場が変わったばかりででやる事が山積みで忙しいんだ」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「そっちにかけられる時間はないんだよ、わかるだろ？」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「そっちの問題は君が話をつけてきてくれ」
片瀬 舞(かたせ まい)「で、でも──！」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「明日も早いんだ、もう寝る」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「後は任せた」
片瀬 舞(かたせ まい)「──」
片瀬 舞(かたせ まい)「ど、どうすればいいの──」

〇住宅街
ルポライター「よぉ、大沢先生のとこの坊っちゃん」
大沢 憲一(おおさわ けんいち)「は、はい？ どなたです？」
ルポライター「ちょっと君の耳に入れておきたい話があってね」
ルポライター「実は──」

〇名門の学校
　　京成大学

〇散らかった研究室
駒場 広志(こまば ひろし)「それで今日の歓迎会だが──」
宍戸 平蔵(ししど へいぞう)「お邪魔するよ」
駒場 広志(こまば ひろし)「これはこれは、学長自らお越しで」
宍戸 平蔵(ししど へいぞう)「片瀬君、よく当学の研究室に来てくれた」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「はい、お招きいただき光栄です」
宍戸 平蔵(ししど へいぞう)「今後の君の『活躍』に期待しているよ」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「──はい」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「ご期待に沿えるよう、尽力いたします──」

〇アパートの中庭
片瀬 舞(かたせ まい)「もうどうすればいいのかわからない──」
片瀬 舞(かたせ まい)「またあんな風に、町の人達から責め立てられるのは怖い」
片瀬 舞(かたせ まい)「でも、とにかくお願いして町の一員として認めてもらわなきゃ」
片瀬 舞(かたせ まい)「もう私達はここで生きていくしかないんだから──」

〇広い更衣室（仕切り無し）
片瀬 舞(かたせ まい)「こ、こんばんは──」
猿渡 伸夫(さわたり のぶお)「フン、来たか」
猿渡 伸夫(さわたり のぶお)「金の工面はできたんじゃろうな？」
片瀬 舞(かたせ まい)「やっぱり、私達にはとても無理です・・・」
片瀬 舞(かたせ まい)「その代わり、町のお役に立てるように精一杯努力しますので」
片瀬 舞(かたせ まい)「どうか、町の一員として認めていただけないでしょうか」
猿渡 伸夫(さわたり のぶお)「ハッ！開き直りかい」
猿渡 伸夫(さわたり のぶお)「言ったじゃろ、こっちはあんたを歓迎する義理はないんじゃ」
猿渡 伸夫(さわたり のぶお)「ワシらの作ってきた町会にただ乗りしようなんて虫がよすぎるんじゃよ！」
片瀬 舞(かたせ まい)「ではどうしても──？」
猿渡 伸夫(さわたり のぶお)「ダメじゃ！金を出せないなら町の一員とは認められん！」
片瀬 舞(かたせ まい)「──」
「待ってください！」
片瀬 舞(かたせ まい)「あっ!?あなたは──」
大沢 憲一(おおさわ けんいち)「おかしいですよ、皆さん！」
猿渡 伸夫(さわたり のぶお)「お、大沢先生の坊っちゃん──！」
大沢 憲一(おおさわ けんいち)「父に聞いたら、今まで入会金なんてほとんど取ってなかったそうじゃないですか！」
大沢 憲一(おおさわ けんいち)「会費だって、本来そんなに高いものじゃないでしょう!?」
大沢 憲一(おおさわ けんいち)「なんでこんないじめみたいな事をするんですか！」
猿渡 伸夫(さわたり のぶお)「い、いえ、決してそんなつもりでは──」