~この日、君と会えるのなら。~

もんすたー

この日、君と会えるのなら(脚本)

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〇教室の教壇
  季節をまたいで、またこの日がやって来る。
  8月15日。
  
  午後7時15分。
  とある街から少し離れたある廃校の4階の角にある教室。
  そこは、電気など通ってはいないが、街から放たれる煌びやかな光が差し込んでくる。
  今日は花火大会
  あらゆる建物の窓に反射され、一個の花火が何個にも見える。
  なんともこの光景が幻想的なのだ。
  この日、この一瞬だけ、彼女の為に、この秘密の教室は存在するのだ。
  花火が上がるまであと15分。
  ここに来る前に、屋台で買ったりんご飴やらたこ焼き、かき氷などを少し埃の被った机に置き、彼女が来るのを待っていた。
――「待った?」
  教室の古びた扉が開いたと思うと、彼女は姿を現した。
  絹の様に白く、サラサラとした髪はさっぱりと首元で切られており、前髪を辿っていくと、
  心を読まれそうなくらいに透き通った青い目が私の顔へと視線を向けていた。
~~~「待ちくたびれたよ」
  私は微笑を浮かべながらりんご飴を食べた。
  彼女は、私の隣に椅子を運ぶと、何も言わず、机に置いていたたこ焼きを手に取りハフハフと息を吐きながら食べ始めた。
~~~「なにかお礼はないの?」
  椅子の背もたれに肘をつきながら言うと、
――「ありがとう」
  と、彼女は素直にお礼を言うのだった。
~~~「今日まで寂しかった?」
――「そっちは寂しかった?」
~~~「うん・・・寂しかった」
――「うん、私も同じ」
  彼女は微笑み、また一つたこ焼きを食べる。
  その笑った顔を見ると、なんだが恥ずかしくなって顔をうずくめたくなる。
――「花火、もうすぐ始まるね」
~~~「うん、あと少し」
  腕時計を見ると、あと2分で打ち上がり時刻だった。
  花火が打ち上がると共に、彼女との別れのカウントダウンが始まる。
  この音は、大切な時間の始まりでもあり、悲しい時間への始まりなのだ。

〇教室の教壇
  私は彼女が好きだ。
  彼女の何も知らないし、あっちが話そうとしない限り、私も聞きはしないが、好きだ。
  3年前、思い付きで立ち寄ったこの教室で私は一目惚れをした。

〇花火
  街の電気が少し目立たなくなるのを合図に、最初の一発が空へと打ち上がった。
  その花火はビルの高さをゆうに超え、ドンっという力強い音を立てながら暗い空へと花を咲かせた。
  そこから絶え間なく様々な種類の花火が打ち上げられ、窓から見る景色は、戦場の花畑のようだった。
――「今年も綺麗だね」
~~~「うん」
  窓の外を眺める彼女の横顔は、花火の明かりに照らされ、さらに可憐な様子だった。
  周囲に鳴り響く花火の音が、時計の秒針の音みたく、時を刻んでいった。
――「私、やっぱ君が好きだよ」
  毎年、花火が後半戦に入り、さらに大きく、豊かな色のものが上がる頃、
  彼女は私にそう言ってくる。
~~~「毎年聞いてるよ。私も好きだよ」
――「毎年言わなきゃ忘れちゃうでしょ?」
~~~「忘れないよ。忘れられる訳ないじゃん」
――「そ、そう」
  自分で言い始めたのに、あとから照れて、白い頬を赤らめる姿がなんとも儚く、愛おしい。
  彼女は恥じらいを隠すために、窓の外を見て、反射される光で顔の色を分からなくする。
  その表情は、なんとも幸せそうだった。

〇花火
  ラスト、残すところ特大サイズの花火が三発となった。
  これが終われば、彼女とはまた1年間会えなくなる。
  私は彼女の方を見る。
  その時、彼女も私の方を見た。
  その目線は私の目を見ているのではなく、少し下の方を見ていた。
――「ねぇ、キスしよっか」
  一発目の花火がと共に、彼女はそう言いながら私の方へ近づいて来た。
  私も、身をゆだねるように自然と彼女の方へ寄っていった。
――「いいってことだよね」
  小悪魔な笑みを浮かべながら彼女はそう言った。
~~~「う、うん」
  緊張からか、少し俯く私の顔を手で優しく持ち上げた。
――「目、閉じて」
  言われた通り、ゆっくりと目を閉じる。
  すると、暖かくプルンとした彼女の唇が、私の唇に重った。
  短くキスをすると、彼女は私の口へと舌を流し込んできた。
  少し驚いたが、されるがまま、私も熱くなった彼女の頬に手を当てながら、舌を絡めた。
  段々と体が熱くなり、息が荒くなると思うと、
  2発目の花火が上がった。
  私たちは唇を離し、目を開ける。
  彼女はすっかり顔が赤くなり、呼吸も少し荒かった。
  私の姿も、彼女からはそう見えているのだろうか。

〇花火
――「たこ焼きの味、しない?」
  私の唇をそっと親指で撫でながら、彼女は言った。
~~~「ううん、大丈夫」
――「よかった」
  抱きしめた彼女の首筋からは、香水の甘い匂いが私の鼻孔を優しく撫でた。
――「そっちからは甘い味がするけど」
  彼女はクスリと笑った。
~~~「それはキスが甘いからだよ」
――「なら、もう一回してみる?」
  首を傾げると、また彼女は私の唇を奪ってきた。
  そして、3発目、最後の花火が上がった。

〇教室の教壇
  その光は、目を閉じていても、ハッキリと花火の形が分かるくらいの光だった。
  彼女から唇を離し、私は目を開ける。
  だが、もうそこには彼女の姿はない。
  花火が終わり、街の電気だけで照らされている薄暗い教室。
  そこには、ほこりの被った机に、食べかけのりんご飴と、まだ温かい新品のたこ焼きが置いてあった

コメント

  • 幻想的なラブストーリーですね。
    女の子達の気持ちが交差して、甘い気持ちにさせてくれました。
    花火の時だけ現れる彼女は、はかない感じがしましたが、たぶん花火のイメージだからかな?と。

  • 夏の季節、古ぼけた教室、そして夜と揃ったら怪談のお話しかと思いました。しかし、このお話は全然怖さがありません。女の子のピュアな気持ちが良く伝わりました。

  • 夏っていう季節だったり、普段は会えない特別感だったり、儚く消えてしまう花火の情景とも重なって、七夕の織姫と彦星のようで、せつなくピュアで静かでありながら情熱的な恋心が表現よくされていると感じました。私自身、花火を好きな人とみるっていうシチュエーションが大好きなんですよね。なんていうか、儚い一瞬の時間を共有するっていうことに、とてつもない価値を感じるんです。いろいろ回想させてくれるよい作品でした♪

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