さかのぼる昇

師走ソウジ

エピソード1(脚本)

さかのぼる昇

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〇墓石
  暑い夏の日、お盆の帰省で母方の実家へやってきた昇は、母と共に墓参りへやってきた・・・
  急な斜面に段々と連なる墓地を2人はキョロキョロしながら登ってゆく。久しぶりの来訪で、どこにお墓があるのかうろ覚えだった。
貴子「確かこっちだったかしら」
昇「あの木、見覚えがあるよ」
貴子「そうねぇ・・・ あァ、あった、あった。 これよ、これ・・・」
昇「思ったより綺麗にしてるじゃん」
貴子「そうね。お父さん、マメに来てたのね。 忙しいくせに」
  2人は桶に水を汲み、墓の掃除を始めた。
貴子「ちょっと、水を撒く前に、そのへん、箒で綺麗にはいてよ」
昇「えぇ、水で流しちゃえばいいじゃん」
貴子「だめよ、意外に埃っぽいんだから、ここ。 泥だらけになっちゃう」
昇「えぇ・・・」
  昇はなんだかんだで墓の周りを綺麗に掃いた。そしてちりとりにゴミを集めようと屈んだとき、ふと墓碑が目に入る。
昇「お母さん、おばあちゃんって昭和5年の生まれなの?」
貴子「そうよ。あんたと同じ午年よ」
昇「おばあちゃんが死んだのは、2016年だから、もう6年か」
貴子「ホントにね、今年は7回忌よ。 あっという間だわ。あんたも今年で成人だし・・・」
昇「ねぇ、おばあちゃんってどんなだったの?」
貴子「何よ、急に。昇もよく知ってるでしょ?」
昇「いや、確かにおばあちゃんになったおばあちゃんは知ってるけどさ・・・ どんなお母さんだったのかなって」
貴子「フフ、変なこと聞くのね。 そうねぇ、そういえば、今日みたいにお母さんと2人でお墓参りに来たことがあったわ・・・」

〇墓石
  貴子の母、淑子は厳しい人だった。
貴子「お母さん、なんでまたこんな暑いときにお墓参りに来るのよ」
貴子の母「つべこべ言わない。ほら、その辺これで掃いて。ご先祖様も待ってるのよ」
貴子「えぇ・・・」
  淑子はひと通り掃除が終わると、線香を焚いて真剣に墓前に手を合わせた。
貴子「お母さん、もう帰ろうよ」
貴子の母「つべこべ言わない。 ほら、あなたも手を合わせなさい」
  貴子は渋々母に並んでしゃがみ、手を合わせた。
  ふと、墓碑に目が止まる。1番新しい記述は戦後の祖母だったが、その前は祖父も含めて戦争中に亡くなった人のようだった。
貴子「お母さん、おじいちゃんのこと、お母さんは覚えてるの?」
貴子の母「そうね、ぼんやりとかしら。写真で見たから覚えている気がしているだけかもしれないわ」
貴子「おじいちゃんは、ここにいるの?」
貴子の母「石ころだけよ。いつだったか、遺骨代わりにっておばあちゃんがそこら辺の石を拾ってきたの。笑っちゃうわよね」
貴子「本当に!? おばあちゃんも大胆だったのね」
貴子の母「きっと、それくらいしっかりしなきゃいけなかったのよ。私と弟を1人で育てるには」
  淑子は墓碑を指差した。
貴子の母「ほら、おじいちゃんの隣、私のおじさんにあたる人。あの人は私の恩人なのよ。私の代わりに焼夷弾に当たっちゃったの」
貴子「ここでも空襲があったの?」
貴子の母「爆弾積んで、南の島まで帰るのは大変でしょ?都会で余った爆弾はこの辺の田舎に捨てていったのよ」
貴子「そっか」
  少しの間、蝉の声が大きく聞こえた。
貴子の母「さぁ、帰りましょ」
  母はさっぱりと言って、また、スタスタ先へ歩き出す。貴子は慌てて後を追った。
  しばらくは黙っていたが、ふと母の隣を歩く。そして聞いてみた。
貴子「ねぇ、お母さんのお母さんってどんな人だったの?」
貴子の母「何よ、急に。変な子ね」
貴子「なんとなく。気になるじゃない。おばあちゃんの若い頃」
貴子の母「そう? そうねぇ」
  そして時代は昭和を通り過ぎ、大正へ向かう。

コメント

  • 「墓じまい」という言葉もよく耳にするようになり、現代はお墓との縁が薄くなりつつありますね。でもこのストーリを読んで、ご先祖様の生き様に思いを馳せるきっかけや場所は現代人にこそ必要なものかもしれないなあと実感しました。

  • お墓参りや法事の時って、その故人にかかる過去のお話を聞きたくなりますよね。過去エピソードを下の世代に話すことを含めて「故人を偲ぶ」ことなのかもですね。情感たっぷりの本作を読んで、ふとそう感じました。

  • 作品を拝読させて頂き、先祖代々、お母さんやお父さんの両親の話を聞いて、そして受け継がれていくのかなぁと。
    私もよく祖父母の話を聞いていたのを思い出しました。

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