空白のひとコマ

遠藤彰一

エピソード6(脚本)

空白のひとコマ

遠藤彰一

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  午前3時18分──

〇漫画家の仕事部屋
長谷川清香「私、『報い人』を完成させたい」
小田正人「は? おかしいでしょ。 ありえないでしょそんなの。 ねえ、宮本さん」
宮本義和「・・・・・・」
石黒理「今回、君らには特別ボーナスを出そうと思う」
小田正人「金とかじゃねえし」
石黒理「必ず出す。約束する」
宮本義和「・・・いくらですか」
小田正人「は? 宮本さんまで。 いったい、どうしちゃったって言うんですか」
宮本義和「いや、僕は──」
小田正人「なんですか」
宮本義和「仕事を受けた以上、最後まで全うすべきだと思う、プロとして」
小田正人「そんな建前聞きたくないっすよ! 金ですよね? 金に釣られたんですよね?」
宮本義和「違う」
小田正人「違いませんよ。あ、もしかして」
宮本義和「?」
小田正人「さっき、石黒さんとコソコソ話してたの。 このことだったんですか!?」
宮本義和「何も話してなんかないよ」
小田正人「嘘だ。宮本さん、借金あるんすよね?」
宮本義和「なっ」
小田正人「あるんですよね? しかも、結構な額」
宮本義和「小田君には関係ないだろ」
小田正人「宮本さんは、先生よりも、自分の借金返済を取ったんです。 先生の友人のくせに」
長谷川清香「止めて小田君。先生の前で」
石黒理「ほら、あとは君だけだよ。小田君」
小田正人「いや、おかしいでしょ。皆さんも」
小田正人「人が1人死んでるんですよ。 そんな時に、隣の部屋で漫画なんて描けます?」
石黒理「だからこれは先生のためなんだよ」
小田正人「そんなのは方便だ。俺は絶対にやらないよ」
宮本義和「小田君」
小田正人「第一『報い人』は先生の作品だ。 それを俺らが成りすまして描くなんて」
石黒理「成りすましなんかではないよ。 もうストーリーだって打ち合わせ済みだし、ネームだって完成しているだろう」
小田正人「キャラだよキャラ」
石黒理「キャラ?」
小田正人「先生はキャラの顔だけは、絶対に自分で描いてたんだ。 ですよね? 宮本さん」
宮本義和「そうだけど」
小田正人「ほら。 一度だって、俺らに描かせてくれたことはない」
石黒理「だからこそ、先生をよく知る君らが──」
小田正人「そうじゃない。そうじゃないんだよ。 漫画家にとってキャラのペン入れがどれだけ重要かって話をしてるんだ」
石黒理「・・・・・・」
小田正人「それやっちゃったら漫画家として終わりでしょ? そうでしょ? 皆さん」
「・・・・・・」
小田正人「足りないヒトコマは、最終回の一番最後のコマだよ? 先生が一番こだわりたかった表情だよ?」
小田正人「そんなの俺らが勝手に描いていいわけがない」
石黒理「・・・わかった」
小田正人「やっとわかったか」
石黒理「共同名義にしよう」
小田正人「は?」
石黒理「『報い人』の最終話は木嶋先生と君らの共作とする」
小田正人「共作?」
石黒理「君らのクレジットも入れよう。 それなら問題ないだろう?」
小田正人「なっ」
石黒理「小田君。 君はこれで晴れて漫画家デビューだ。 どうだい?」
小田正人「・・・でも」
石黒理「もちろん、印税も入るぞ」
小田正人「・・・・・・」
宮本義和「何パーセントですか?」
石黒理「それはおいおい決めよう」
長谷川清香「私は名前もクレジットもお金もいりません。 だけど、作品には協力します」
小田正人「でも。そんなのって・・・」

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