願い叶えたまえ!(脚本)
〇祈祷場
――そこは、人里離れた山奥。
鬱蒼とした森の
廃寺から聞こえる声は──
中年の信者「ああ、教祖様!」
中年の信者「どうか、どうか願いを叶えたまえ! (わが社に更なる繁栄を・・・!)」
女性の信者「教祖様、お願いします! (この美貌を永遠に・・・!)」
???「・・・」
中年の信者「教祖様!」
???「その願い、聞き届けた」
中年の信者「おお!」
???「そなたらが 教義を守るなら・・・」
???「いつか必ず、 その願いは叶えられる」
中年の信者「なんと! ありがとうございます!」
女性の信者「ああ、教祖様!」
中年の信者「教祖様! 必ずや教義を守ります!」
中年の信者「この秘密・・・ 決して誰にも言いませんとも!」
???「・・・」
〇旅館の和室
文彰「ふう・・・」
道流「文彰様」
文彰「ああ。道流か」
道流「お疲れ様でございます。 こちら、本日のお布施になります」
文彰「うん」
道流「ですが・・・まだまだ!」
文彰「なっ・・・」
道流「あと二億五千万! 絶望的に足りません!!」
文彰「わかってんだよ! そんな額すぐに稼げるか!」
道流「そもそも、あなたには 教祖としての威厳が足りないんです」
道流「どう見ても! どこにでもいる平凡平均の 男子校生じゃありませんか!」
文彰「仕方ないだろ! 実際平凡そのものの男子校生なんだよ!」
道流「何を言います。 あなたは教祖なのですよ!?」
道流「この宗門の跡取りとして しっかりしていただかなくては!」
文彰「いや・・・普通にしんどいんだけど。 稼業が怪しい新興宗教とか」
道流「・・・文彰様。 ご存知でしょう、この寺の秘密を」
道流「この寺には・・・ ざっと三億もの借金があることを!!」
文彰「秘密ていうか悪夢だ。それは」
道流「いいえ、秘密です。 決して知られてはならないのです」
文彰「まあな。秘密だよな。 母さんが実はギャンブル狂いだったとか」
文彰「全財産かけて当てに行った馬が ことごとくハズれたとか」
道流「あれは・・・ 預言者を名乗るには厳しい結果でした」
文彰「しかも、実は生きてて 借金取りから逃げて暮らしてるとか!」
文彰「さらに! 教祖だった母さんの予知能力が 不思議な力で俺に譲られたとか! 無茶にも程があるだろ!」
道流「そうです。そんなことが知れたら、 この寺が危うくなる」
文彰「俺のメンタルが危いよ。すでに」
道流「・・・文彰様」
道流「正論を吐いたところで・・・ 返済期日は待ってくれないのです」
文彰「うぐ・・・」
道流「借金まみれの寺の醜聞。 ウソ八百の偽教祖の宣託」
道流「これらの秘密をひた隠し、 一日も早く完済を目指すのです・・・!」
文彰「・・・」
〇教室
文彰「ふあ・・・ねむ・・・」
正樹「おっ、教祖様じゃん!」
文彰「おい。やめろ」
正樹「あはっ、わりいな! ついうっかり」
文彰「うっかりじゃないよ。もう」
正樹「秘密なんだよな。 けど俺、おばちゃんのこと 昔っから知ってるしなー」
正樹「新興宗教なんて 愉快な稼業と思ってたけどさ。 まさかお前が跡を継ぐとはな」
文彰「好きでやってると思うか? こんなの」
正樹「けど、普通に面白いよな。 お前んとこの教義? っての」
正樹「『秘密を守る』ってのが 願いを叶える秘儀っていうのがさあ。 おばちゃんが考えたの?」
文彰「さあな。 確かにうまくできてるよ」
文彰「・・・教祖の存在は、誰にも秘密。 身の程知らずな願いを持つのも、秘密」
文彰「秘密を守れば、 いつか願いは叶う――とかさ。 詐欺もいいとこだろ」
正樹「だよな。 それじゃ多少ズルしてもバレないし。 うまいこと考えるよなー」
文彰「・・・」
〇古びた神社
夕方──
道流「おかえりなさいませ。 遅かったのですね」
文彰「・・・ただいま」
道流「信者が来ています。 お早目にお支度を・・・文彰様?」
文彰「わかってる。すぐに行く」
道流「お待ちください」
文彰「なんだよ」
道流「そのような顔で 信者の前に出るつもりですか」
文彰「仕方ないだろ。 元々こういう顔なんだ」
文彰「やりたくないことやってるんだ。 多少は見逃せよ」
道流「・・・文彰様」
〇風流な庭園
道流「・・・」
文彰「なんだ。道流?」
文彰「どうした。 信者はもう帰ったのか」
道流「ええ・・・」
文彰「・・・?」
道流「文彰様。 お話があるのです」
文彰「・・・なんだ。改まって」
道流「いずれ、お話しせねばと思っていた」
道流「こんなことには・・・無理があると」
文彰「道流・・・」
道流「文彰様。 あなたは、もしかして」
道流「教祖であることが・・・ お嫌なのですか?」
文彰「嫌に決まってんだろ! 今さらなに言ってんだ!」
道流「では、ですが」
道流「その嫌なことを なぜあえてなさるのか」
文彰「それは・・・」
文彰「借金あるし、とか・・・」
道流「相続放棄は。 自己破産も一つの手です」
文彰「そ・・・そういう現実的な解決方法を このタイミングで出してくるな・・・」
道流「文彰様。 すべてを捨てるなら、今しかない」
道流「どういうわけか、あなたの教祖稼業は ありえない程うまくいっています。 先代を凌ぐほど」
道流「このまま続けていては、 この嫌なことから 一生逃れられなくなってしまう」
道流「それでも・・・いいのですか」
文彰「・・・」
道流「・・・もう一度言います」
道流「ただのあなたに戻るには、今しかない」
文彰「・・・」
文彰「必要ない。このままでいい」
道流「文彰様・・・」
文彰「うまくいってるなら言うことないだろ。 なにがいけない?」
道流「そうまでして、なぜあなたは・・・」
文彰「秘密だ。道流」
道流「!」
文彰「言ったら叶わない。 言わなければ、いつか叶うかもしれない」
文彰「そうなんだろ? だから、言わない」
(・・・こうしていれば
お前といられるから、なんて)
(言わなければ・・・秘密にしていれば
願いは叶い続けるんだ。
俺の願いは・・・)
道流「待ってください。 あなたの願いとは・・・」
文彰「教祖に教義を破らせるのか? お前だって信者のくせに」
道流「・・・っ」
道流「・・・もういい。 勝手になさい」
文彰「・・・勝手にするさ。 なんたって教祖だしな」
文彰「秘密は・・・守らないとな」
END
怪しげなようで、そうでもなさそうな信仰宗教ですね。
教義が「秘密にする」ってところがお母さんよく考えてると思いました。笑
秘めた想いにキュンキュンしました。
新興宗教の割には、秘密を守ることを基本概念としていて、なかなかまともな感じがしますね。まさか教祖がそれにプライベートを持ち込んでいるとは誰にもわかり得ませんね。コミカルなお話で好きです。
初めて読ませて頂くストーリでした。タイトルからも興味を惹かれ、内容もとても楽しく拝見させて頂きました。宗教の要素が入っていながら、他の要素も入っている、楽しかったです。