空白のひとコマ

遠藤彰一

エピソード5(脚本)

空白のひとコマ

遠藤彰一

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  午前3時11分──

〇漫画家の仕事部屋
石黒理「さあ、悲しむのは2時間後だ。 さっそく作業に取りかかろう」
小田正人「え?」
宮本義和「!!」
石黒理「いや、だってもう、3時10分を過ぎてるだろ?」
小田正人「だから何言って──」
石黒理「朝一の印刷に間にあわせるには2時間弱しかないじゃないか。 私達は早く残りを仕上げよう」
小田正人「はあ? こんな時に漫画なんて描けるわけないでしょ!」
石黒理「こんな時だからこそ漫画を描くんだ!」
小田正人「何を言ってんだこの人は。 清香さん、待っててください」
  小田は清香を床に座らせ、先生の寝室へと向かう。
石黒理「どこに行くんだ」
小田正人「石黒さん、どいてください」
石黒理「駄目だ」
小田正人「は?」
石黒理「触ってはいけない。 死体を動かすと死体遺棄罪になってしまう」
小田正人「死体遺棄罪って。 宮本さんも何とかしてくださいよ」
宮本義和「う、うん」
石黒理「漫画を描き終えたらすぐに連絡する。 もちろん、葬儀だって盛大に行う」
小田正人「そういう問題じゃないでしょ!」
石黒理「今は事を荒立てるべきではない。 連絡がほんの数時間遅れるだけのことだよ」
小田正人「それがおかしいって言ってんだよ!」
石黒理「そう熱くなるなって。 木嶋先生のためにも、今は漫画を優先するんだ」
宮本義和「漫画はもう無理ですよ。 最後のコマは先生が描くことになっていたんですから」
石黒理「それは君達が描くんだ」
小田正人「なっ・・・」
石黒理「いいかい。 先生は最後までは描いて死んだことにする。 空白部分は君達が埋めるんだ」
小田正人「めちゃくちゃだ! そんなの!」
石黒理「私達はまだ何も見ていない。 先生は漫画を最後まで描いて自殺した。 それを私達が2時間後に発見する」
小田正人「うわーーーーー!」
石黒理「うっ」
小田正人「てめえ、それでも人間か!」
  拳を振り上げ激昂する小田を宮本が止めに入る。
宮本義和「止めろ、小田君」
小田正人「そうまでして自分の出世が大事か!」
長谷川清香「先生の前で止めてください!」
小田正人「・・・・・・」
  小田は石黒の胸倉から手を放す。
石黒理「こっちの方がよっぽど犯罪だよ。小田君」
小田正人「うるせー!」
石黒理「君達にどう思われようと私は構わない。 ただし、連載には穴は開けさせない。 絶対に5時までに漫画を完成させる」
小田正人「言ってろ。誰が描くか」
石黒理「本当にそれが先生のためかい?」
小田正人「はあ?」
石黒理「『報い人』は漫画家、木嶋真也(きじましんや)を代表するヒット作だよ」
小田正人「だから何だよ」
石黒理「決して中途半端に終わらせていい作品ではないってこと」
小田正人「それは完全にあんたの都合だろ」
小田正人「どうせ、最終回で本誌のランキング上位狙いたいんだろ? 魂胆見え見え」

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