ずっと、一緒(脚本)
〇アパートの台所
亮ちゃんが、冷たい。
〇明るいリビング
亮ちゃんと付き合って、そろそろ一年が経つ。
付き合い始めの頃は毎週末デートしていたものの、ここ数カ月はなんだかんだ理由をつけて、二週空いて、三週空いて、
先月なんて、丸一ヶ月デートしなかった。
〇明るいリビング
スマホにメッセージを送っても、もう既読がつかない。
〇明るいリビング
最初に付き合おうと言ってくれたのは、亮ちゃんだった。
私は、そのずっとずっと前から、亮ちゃんのことが大好きだったけど、亮ちゃんのほうが年下だったし、
まさか、私が彼女の立場になれるなんて、思ってもみなかった。
〇ホテルの部屋
亮「瑠美って呼ぶから」
彼氏と彼女として、初めて同じベッドで朝を迎えた朝、亮ちゃんはそう宣言した。
昨日まで「さん付け」だったのに突然の呼び捨て。亮ちゃんはいつだって私より偉そうにしたがった。
亭主関白みたいだ。
でも、私はなんだかそれが嬉しくて、はい、と頷いて亮ちゃんの肩にもたれかかる。
瑠美「亮ちゃん、頼りにしています」
亮「俺が瑠美のこと、守るから。大好きだよ」
〇明るいリビング
それがいつから狂っちゃったのだろう。いや、狂っていたのは、最初からだったのかもしれない。
〇明るいリビング
瑠美「ねえ、なんで最近デートしてくれないの?」
亮「なんでって。俺だって色々予定があるんだよ」
〇明るいリビング
付き合い始めのころは、毎週末二人で色んなところに行った。
時には気分を変えて、私の運転で遠出して、そういうホテルに一泊することだってあった。
それが、ここのところさっぱりだ。
〇明るいリビング
瑠美「ねえ、今週末も忙しいの?」
亮「忙しいって言ってるだろ!しつこいんだよ!」
亮ちゃんがシャワーを浴びている間、私はとうとうやっちゃいけないことをした。
亮ちゃんのスマホを見たのだ。長い付き合いだ。6桁のパスワードは難なくわかった。
メッセージアプリを起動してみる。
アプリの上の方には、よくやりとりする人の名前が表示される。
一番上に「陽菜」とある。私の名前「瑠美」は上から5番目。
嫌な予感がする。
震える指で「陽菜」の名前をタッチする。
りょう、大好きー!土曜のお泊り楽しみだよ!
俺も!ひなが大好き!泊まりで家は大丈夫?
大丈夫だよー。葵の家に泊まることになってるから。りょうの家は?怒られない?
うちは父親いないしそのへん緩いんだよね。まあ男だしね。
〇明るいリビング
陽菜と亮ちゃんのやりとりをスクロールすればするほど、二人の仲が友達以上なことがわかる。
おはようからおやすみまで、ひっきりなしに続くメッセージ。その中には「好き」だの「愛してる」だのの言葉がいくつも出てくる。
亮ちゃん、最後にいつ私に好きって言ってくれたっけ。
いつのまにか「好き」なんて、私からしか言わなくなった。
メッセージアプリの他にカメラロールも見てしまった。涼ちゃんと同じ年くらいの女の写真が多くある。
きっとこれが、陽菜なんだろう。
化粧もしてない、あどけない顔の女が、画面いっぱいに笑顔を向けている。
その笑顔の先には亮ちゃんがいるの?
〇明るいリビング
気分が、悪い。
〇明るいリビング
瑠美「亮ちゃん、女ができたんでしょ?」
亮「は?」
〇明るいリビング
私は、我慢が出来なかった。
シャワーから出てきた亮ちゃんに、すぐにそう言ってしまった。
〇明るいリビング
瑠美「ひな」
亮「は?」
瑠美「陽菜って女と付き合ってるんでしょ」
亮「は?」
亮ちゃんの視線が、テーブルの上に置いてあるスマホにいく。
〇明るいリビング
亮「俺のスマホ見たのかよ?」
瑠美「見たよ。悪い?」
亮「はあ!?ふざけんなよ!!」
〇明るいリビング
亮ちゃんが、こんな語気荒く何かを言うのは初めてだった。
〇明るいリビング
亮「勝手に人のスマホ見るなよ!」
亮「彼女ヅラしやがって!」
亮「気持ち悪いんだよ!クソババア!!!」
もう、おしまいだ。
私は、台所のシンクに出したままだった包丁を手に取った。
私は今日、この包丁を使って、亮ちゃんの好きなシチューを作る予定だったのに。
瑠美「亮ちゃん、私のこと好きだって、守ってくれるって言ったじゃん」
包丁を手にした私を見て、亮ちゃんは怯えた顔をした。
既視感。
そうだ、亮ちゃんのパパもこんな顔をしたんだ。
やっぱり親子だ。似てるんだね。
包丁をふりおろす瞬間、亮ちゃんはこう言った。
亮「やめて・・・かあさん・・・」
なんで、最後なのに、瑠美って呼んでくれないの。
〇アパートの台所
あれから、何日経ったかな・・・
〇アパートの台所
私は冷凍庫から、亮ちゃんの首を取り出す。
〇アパートの台所
冷たくなった亮ちゃんと私は、
〇アパートの台所
ずっと、一緒。
最初はかわいい喧嘩かなと思ったら…こんな恐ろしい結末に。これだけ恐いと思わせるのはすごい表現だと思います。
怖すぎです…。付き合っていたのは瑠美さんの妄想?それとも禁断の親子恋愛だったんでしょうか。
愛が深すぎるが故に、首を冷凍庫に保管しているのもゾッとしました。
いやいや怖い怖い。
ってことは親子の愛ってやつだったってこと…?
それとも連れ子的な…?
にしても残った首でこれからも一緒…あぁ怖い汗