エピソード1(脚本)
〇黒背景
――――――地縛霊
自分が死亡した時にいた土地や建物に
特別な理由を有して宿っているとされる死霊
〇黒背景
「日光(たいよう)・・・日光どこ?どこへ行ったの・・・」
「またあの男!私の部屋にいるっ」
「今日こそ追い出してやるっ!」
〇古いアパートの廊下
「でもどこかで見たような・・・」
「ま、いっか」
〇和室
晃「よし!いけ!おりゃ!」
晃「ハァ・・・このゲームも飽きてきたな」
うらめしや~~~~ぁあああ
ヒヤリ
晃「おっ?」
晃「涼しいな ラッキー」
幸子さん「――って、何でお前はいつも怖がらないっ!?」
晃「“幸子さん”のお陰で」
晃「家賃安くて助かるぜ」
幸子さん「ここは私の部屋っ」
幸子さん「出ていけ!」
幸子さん「ずーっと部屋に閉じこもって」
幸子さん「ゲームばっかして!このプー太郎っ!」
晃「プー太郎?」
晃「現代じゃニートていうんだぜ」
幸子さん「ニート?」
晃「まァ 俺はニートでもプー太郎でもねぇけどな」
晃「自粛だ自粛」
幸子さん「何でもいいから働け」
幸子さん「できれば夜勤しろ夜勤」
晃「俺がニートなら世界中がいまニートだぜ」
幸子さん「まーた屁理屈を」
晃「ニュースを見ろ ニュースを」
晃「緊急事態宣言により」
晃「ニートが【正義】と証明されたんだ!」
幸子さん「私にはお前のほうが」
幸子さん「よほど化け物に思えてきたよ」
晃「日本人は働きすぎなんだ ヤレヤレさ」
晃「それに いまは家のなかで 仕事をする時代なの」
幸子さん「毎日部屋でゲームしてるだけのくせに」
晃「幸子さんのいた20年前は」
晃「ゲームは遊びの時代だったんだろうけど」
晃「現代はゲームで金を稼いでいる人は」
晃「山ほどいる時代なのさ」
幸子さん「・・・ゲームを仕事にしてるのか?」
晃「まァ 無職だけどさ」
幸子さん「やっぱりただのプー太郎じゃないかっ!」
幸子さん「親が泣くよ!」
晃「・・・」
幸子さん「何」
幸子さん「急に黙って」
晃「・・・」
幸子さん「な 何よ そのいやらしい顔は」
晃「もっと叱ってくれよ」
幸子さん「キモい!!」
晃「締まりのない顔は生まれつき」
晃「親に言えよ」
幸子さん「生き方の問題っ」
幸子さん「いいから出ていけ!」
晃「さっきからギャーギャー言ってるけど」
晃「家賃払ってんのは俺だぞ?」
幸子さん「あー もう面倒くさい」
幸子さん「いっそ 呪い殺してやろうか?」
晃「オ オイ 待てよ」
晃「いいのか?そんなこと言って」
幸子さん「何さ」
晃「お 俺が出ていったら こんなボロアパート」
晃「すぐに 取り壊されちまうぜ」
幸子さん「・・・」
晃「誰かさんが夜な夜な出てくるせいで」
晃「新しい入居者入ってこねーし」
晃「あんた ここから出られないんだろ?」
晃「それに いつも言ってる “日光(たいよう)”て何だ?」
幸子さん「う・・・うぅ」
晃「泣くなよ 幽霊みたいに」
幸子さん「どこいったの?日光(たいよう)・・・」
晃「幽霊にとっちゃ 日光(たいよう)は天敵だろ?」
幸子さん「日光(たいよう)は 私の可愛い可愛い赤ちゃん」
晃「子供の名前・・・?」
晃「20年前 幸子さんに何があったんだ?」
幸子さん(・・・)
〇黒背景
20年前――――
〇和室
幸子「私はこの部屋で 産まれたばかりの息子と暮らしていた」
幸子「短大を卒業して働いた会社の上司との子だった」
幸子「でも彼には妻も子供もいたの 不倫だった」
幸子「両親には子供の名前も伝えず一人で産み そして育てた」
幸子「息子との生活は 貧しくとも幸せだった」
〇通学路
幸子「でもちょうどその頃から」
幸子「誰かにあとをつけられはじめた」
〇ビルの裏通り
幸子「毎日毎日」
〇暗いトンネル
沙知絵「毎晩毎晩」
〇和室
ある日 私はシャワーを浴びていたら――――
ドンドン!ドンドン!
部屋のドアを叩く激しい音
きっとストーカーだ
ノックの音は鳴りやまない 泣き叫ぶ赤ん坊
〇黒背景
慌てて風呂場を出ようとした私は
ツルッ ドギャッ!!
床に落ちていた石鹸で滑って転び
打ち所が悪かったせいか
二度と日光と逢えないカラダになった
〇和室
幸子さん「その日から日光のいない世界がはじまった・・・」
晃「へ?それが死の真相・・・?」
晃「幸子さん おっちょこちょいすぎるだろ」
幸子さん「日光にもう一度逢えるなら・・・」
幸子さん「成仏してもいい!」
晃「・・・そっか」
幸子さん「あのとき あのストーカーが」
幸子さん「ノックさえしなければ――――」
幸子 ハッとする
幸子さん「お前・・・なんで私の名前を知っている?」
晃「・・・」
幸子さん「どこかで見覚えあると思っていた・・・」
幸子さん「お前だったんだね?」
晃「・・・」
幸子さん「私をずっとストーカーしてたのは!!」
晃「・・・」
幸子さん「日光を何処へやった!?」
晃「・・・」
幸子さん「何とか言え!! さもないと――――」
晃「俺 20歳だぜ」
幸子さん「ハァ?だから何」
晃「20年前にストーカーのしようがない」
幸子さん「へっ?」
晃「それにストーカーだと思っていたのは」
晃「幸子さんの親父さん」
幸子さん「えっ・・・」
晃「幸子さんが一人で赤ちゃんを育てるて言うから」
晃「心配で親父さんが見守ってたんだ」
幸子さん「そんな・・・」
晃「赤ちゃんも幸子さんの両親が無事育てた」
幸子さん「ホント?本当に?」
幸子さん「よかった・・・日光」
幸子さん「何でお前がそんなこと 知ってる!?」
晃「日本中 知ってるさ」
晃「TVの怪奇ホラー番組で特集してたから」
晃「親父さん 番組で謝ってたよ」
晃「『娘がご迷惑おかけしてます』」
晃「『幸子は小さい頃から人をビックリさせるのが好きな子でした』って」
幸子さん「お父さん?」
幸子さん「――――って 私 TVに出てるのっ!?」
幸子さん「ヤダ 恥ずかしい・・・」
晃「息子さん 連れてきてやろうか?」
幸子さん「えっ ホント・・・ですか?」
晃「あァ ただし――――」
幸子さん「嫌な予感」
晃「俺の言うことは 何でも聞いてもらうぜ」
幸子さん「サイテー」
晃「さっ まずはメシを作ってもらおうか」
幸子さん「ホッ それくらいなら お安い御用」
晃「・・・」
晃(赤ちゃんの名札に縦書きで書かれていた名前――――)
晃(俺の名前は【晃】じゃなくて、【日光】だったんだな)
晃「皆うっかり者すぎるよ」
晃(まだ名乗れない)
晃(成仏してもらっちゃ困るからね)
晃(親孝行しなくちゃいけないからさ)
晃(幸子さん・・・いや 母さん)
オチについては、途中からもしやっと思いながら読んでいたのですが、ラストの展開が想像以上にハートフルでほっこりしました。素敵な2人暮らしですね!
終盤に近づいて、なんとなく…と思ってたんですが、やっぱり幸子さんの息子さんだったんですね。
なんだか心が温かくなるお話でした。
それじゃ、しばらく成仏されるわけにはいきませんね。
文句いいながらもなんだかんだ一緒に住んでて微笑ましい〜、恋愛展開かなと思って読み進めていましたら、予想外の展開で、しかも彼の名前に謎解きが隠されていて、おもしろかったです。親父さんの名前がでてきたタイミングで気づきました。簡単な謎解きで、読み手に「やった!」ていう感覚を与えつつ、ストーリーもおもしろくよく描かれていて、心あたたまる作品でした。