思い出のハンバーグ

はやまさくら

思い出のハンバーグ(脚本)

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思い出のハンバーグ
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〇黒
  わたしの家の近所には、
  家庭料理が評判の小料理屋がある。
  その店は女将さんが一人で切り盛りする
  小さな店で、
  温かくて居心地がよい。
  開店当時からわたしは通い詰めていて、
  毎日夕食は女将さんの店で
  食べることにしていた。

〇カウンター席
女将(おかみ)「いらっしゃい、茉莉亜(まりあ)さん。 今日は寒いわね」
茉莉亜(まりあ)「ホントホント。 急に冬が近づいてきたって感じ」
女将(おかみ)「今日は何にする?」
茉莉亜(まりあ)「女将(おかみ)さん。 今日の日替わり定食は何?」
女将(おかみ)「本日の日替わりは、唐揚げ定食よ」
茉莉亜(まりあ)「じゃあ、それください」
女将(おかみ)「少々お待ちください」
女将(おかみ)「はい、どうぞ召し上がれ」
茉莉亜(まりあ)「うわっ、美味しそう! いただきまーす!」
茉莉亜(まりあ)「うーん、やっぱ女将さんが 作る料理は最高~!」
茉莉亜(まりあ)「・・・・・・」
女将(おかみ)「少し元気がないみたいね。 何かあったの?」
茉莉亜(まりあ)「あれっ、そんなに顔に出てる? 参ったなぁ・・・」
茉莉亜(まりあ)「実はね、 どうやら私に弟ができるみたいなの」
女将(おかみ)「それはおめでとうございます」
茉莉亜(まりあ)「全然めでたくなんかないってば!」
茉莉亜(まりあ)「お父さん、 全然家に帰ってこないと思ったら、 外に愛人を抱えていたの」
茉莉亜(まりあ)「弟ってのは、 その愛人との間にできた子供・・・」
茉莉亜(まりあ)「子供を作るのなら、 せめてちゃんと籍を入れてからに するべきじゃない?」
茉莉亜(まりあ)「今までも仕事にかまけて 私の事を放置してたけど、 もう愛想が尽きちゃった」
女将(おかみ)「・・・・・・」
茉莉亜(まりあ)「確かにお金で苦労したことはないわ」
茉莉亜(まりあ)「日常生活も家政婦さんを 雇ってくれているから、 何の支障もない」
茉莉亜(まりあ)「でも、寂しいの」
女将(おかみ)「・・・・・・」
茉莉亜(まりあ)「昔は幸せだったな」
茉莉亜(まりあ)「裕福ではなかったけど、 家にはお父さんとお母さんがいて、 温かい食事が食卓にあった」
茉莉亜(まりあ)「今は毎食一人で外食・・・」
茉莉亜(まりあ)「ま、夜は女将さんのお店で 食べているから、 寂しくはないんだけどね」
茉莉亜(まりあ)「・・・ごめん、女将さん。 こんな話、面白くないよね」
女将(おかみ)「いいえ。 この際だから、思っていることを 全部吐き出しちゃえばいいわ」
女将(おかみ)「その方があなたも楽になれるでしょ?」
茉莉亜(まりあ)「ありがとう。 では、遠慮なく甘えさせてもらうね」

〇おしゃれなリビングダイニング
茉莉亜(まりあ)「大好きだったお母さんが いなくなったのは、 私が5歳の時」
茉莉亜(まりあ)「両親が離婚したのよ」
茉莉亜(まりあ)「父は会社を経営しているんだけど、 その頃、急激に業績が伸びたの」
茉莉亜(まりあ)「その分、仕事が忙しくなり、 父は家庭を顧みなくなった」
茉莉亜(まりあ)「そして夫婦げんかが絶えなくなり、 愛想を尽かした母は 家を出て行ってしまった」
茉莉亜(まりあ)「どうして母は 私を連れて行ってくれなかったんだろう?」
茉莉亜(まりあ)「会いたいよ、お母さん」

〇カウンター席
女将(おかみ)「色々辛いことがあったのね。 思い出させてごめんなさい」
茉莉亜(まりあ)「ううん、大丈夫。 とっくの前に吹っ切れてるから」
女将(おかみ)「・・・・・・」
茉莉亜(まりあ)「お母さんは料理が得意だったんだ。 特にハンバーグが絶品だったな」
茉莉亜(まりあ)「特別な日には、いつもお母さんが ハンバーグを作ってくれたんだ」
茉莉亜(まりあ)「・・・正直、もうお母さんの顔も 覚えてないんだけどね」
女将(おかみ)「・・・・・・」
女将(おかみ)「思い出のハンバーグ、なのですね」
茉莉亜(まりあ)「うん。また、あのハンバーグが 食べたいな・・・」
女将(おかみ)「・・・・・・」

〇黒
  思い出のハンバーグ・・・

〇おしゃれなリビングダイニング
母「今日の夕食は 茉莉亜が大好きなハンバーグよ」
茉莉亜(まりあ)「わーい♪」

〇黒
  そして次の日も、
  わたしは女将さんの店へと足を運んだ。

〇カウンター席
茉莉亜(まりあ)「こんばんは、女将さん。 今日もいつものヤツをお願いします」
女将(おかみ)「日替わり定食ね。 すぐ作るから、ちょっと待ってて」
茉莉亜(まりあ)「はーい」
茉莉亜(まりあ)「女将さんは一人でこの店を 切り盛りしているんだよね?」
女将(おかみ)「ええ、そうよ」
茉莉亜(まりあ)「いつも繁盛しているんだから、 もっと大きな店を構えればいいのに」
女将(おかみ)「他のお客さんにも言われるんだけどね。 私はこの店の場所を気に入っているの。 だから、移転する気はないわ」
茉莉亜(まりあ)「そうなんだ。 まあ、私もこの場所の方が 通いやすくて便利なんだけどね」
女将(おかみ)「はい、本日の日替わり定食です。 どうぞ召し上がれ」
茉莉亜(まりあ)「あれっ、今日はハンバーグなんだ。 この店、和食中心なのに珍しいね?」
女将(おかみ)「たまには、こういうのも良いでしょ?」
茉莉亜(まりあ)「うん、私、ハンバーグ大好き!」
茉莉亜(まりあ)「本当に美味しそう。 いただきまーす!」
茉莉亜(まりあ)「ぱくっ・・・」
茉莉亜(まりあ)「・・・」
茉莉亜(まりあ)「・・・・・・」
女将(おかみ)「どうしたの?」
茉莉亜(まりあ)「この味、覚えてる」
女将(おかみ)「・・・・・・」
茉莉亜(まりあ)「どうして女将さんが、 このハンバーグを?」
女将(おかみ)「・・・・・・」
女将(おかみ)「大きくなったわね、茉莉亜」
茉莉亜(まりあ)「えっ、もしかして・・・」
茉莉亜(まりあ)「・・・お母さん?」
女将(おかみ)「離婚した時、 本当はあなたを連れて行きたかった」
女将(おかみ)「でも、当時の私は専業主婦で 特に稼ぎもなかったから、 断腸の思いで諦めた」
女将(おかみ)「あなたに不自由な生活を させたくなかったのよ」
女将(おかみ)「「必ず娘を幸せにする」と言った あの人を信じて、親権を渡したのに・・・」
女将(おかみ)「大事な娘が寂しい思いをしていると知り、 私はいたたまれなくなって、 この小料理屋を始めたの」
女将(おかみ)「あなたが通ってくれるようになって 本当に良かった」
女将(おかみ)「こうやって近くで 見守ることができたのだから」
茉莉亜(まりあ)「お母さん・・・」
女将(おかみ)「私、決めたわ。 親権者変更について、 あの人と話し合ってみる」
女将(おかみ)「これ以上、茉莉亜に 辛い思いをさせたくないわ」
女将(おかみ)「今までのような 裕福な生活はさせられないけど、 ・・・私についてきてくれる?」
茉莉亜(まりあ)「もちろんよ!」

〇黒
  宣言どおり、
  母はわたしの親権を取り戻すために
  行動してくれた。

〇応接室

〇役所のオフィス

〇中規模マンション

〇ダイニング
茉莉亜(まりあ)「いただきまーす!」
茉莉亜(まりあ)「やはり、家族と囲む食卓は 最高だよ!」
母「今まで辛い思いをさせて、 ごめんなさいね」
母「でも、これからはずっと一緒よ」
茉莉亜(まりあ)「うん!」

コメント

  • 温かくてとても素敵な物語。途中で展開は分かるけど、そうあって欲しいと願う自分も望む展開でした。もっともっと読みたいって思うのになぁ

  • とても暖かくて素敵なお話でした。
    はやまさん、どうか安らかに…

  • らっこさん、沢山の優しいコメントありがとうございました。
    すごく嬉しかったです。
    今夜、貴女の残した作品すべて読み直させて頂いてから、改めてアカウントに言葉を残させて頂こうと思います。
    こちらの作品、とても温かくて好きでした。
    寂しいです。らっこさん。

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