豆腐が鎹(かすがい)

サトJun(サトウ純子)

電子レンジが欲しい(脚本)

豆腐が鎹(かすがい)

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〇テーブル席
後ろのテーブルの女A「あー!もー! ホント、うちの旦那、ムカつく! もうムリムリ!」
後ろのテーブルの女B「わかるわぁ。 でも、子供の事を思うと、いつもギリギリのところで思いとどまる」
後ろのテーブルの女A「そうなのよ。 子供にお金の苦労はさせたくないしねー」
後ろのテーブルの女B「案外、子供にとっては、良い父親だったりするしね」
  子は鎹(かすがい)
  ・・・か。
???「この人も、そんな感じなのかなぁ・・・」
  ・・・
  夫婦って
  家族って
  『子供』で繋ぐものなの?
???「あ、そろそろ時間だ」

〇公園通り
  ── 出てきた。あの女性だ
???「いつも、同じバッグで、同じ靴なのに。 今日は違う」
???「マル対、出てきました。 上、白ブラウス。下、カーキロングスカート。白の籠トートバッグ、白の紐付きサンダル」
???「道を2時の方向に横断中」
「明らかにいつもと違うな。 了解。やってくれ」
???「了解」
秋豆のり子「いててて・・・」
女性(マル対)「だ、大丈夫ですか?」
秋豆のり子「だ、大丈夫です! 驚かせちゃってすみません!」
女性(マル対)「はい。 落としたの、これで全部かしら?」
秋豆のり子「ありがとうございます。 手伝ってもらっちゃって・・・すみません」
女性(マル対)「いえいえ」
秋豆のり子「・・・」
秋豆のり子「イチロクマルサン。 マル対に接触」
秋豆のり子「トートバッグ内に確実に入れました」
「了解。お疲れ。 後で事務所に寄ってくれ」
秋豆のり子「了解」
秋豆のり子「・・・」
秋豆のり子「うぅぅぅ〜・・・」
秋豆のり子「やったー!」
秋豆のり子「バイト終わりーっ!」
秋豆のり子「面取りから五日間。 良く頑張った!私!」
秋豆のり子「これでようやく」
秋豆のり子「電子レンジが買えるーっ!」
秋豆のり子「あ、お母さんからだ」
秋豆のり子「もしもーし」
「あ、のりりん?」

〇新橋駅前
秋豆さゆり「取材終わって、ぱるぴとみさりんとジェラード食べに行くところなんだけど、のりりんも来るー?」
「のりりん、おいでよぉー」
みさりん「ほーんと。 ゆさりぃーのセンス、さいこぉよ! ウチのママと同年代とは思えないィィィ」
ぱるぴ「マジで。ウチらといても全然違和感ないしぃ!」
秋豆さゆり「あたしぃ・・・」
秋豆さゆり「永遠の20歳だからぁー!」
「・・・」
ぱるぴ「・・・20歳って、びぃみょくね?」
みさりん「ゆさりぃー。 そこは「18歳」じゃないのぉ?」
秋豆さゆり「えぇーっ! だって、18歳じゃあ、堂々とお酒飲めないじゃない」
「そこ!?」
秋豆さゆり「・・・なんかおかしい?」
ぱるぴ「さいこー!」
みさりん「だいすきー!」

〇公園通り
秋豆のり子「あははは・・・」
秋豆のり子「私、まだ、バイト中だから」
「そんなのサボっちゃいなさいよぅ。 たまには良いじゃないー」
秋豆のり子「事務所寄らなきゃいけないから。 またね!」
秋豆のり子「・・・はぁ」

〇おしゃれな居間
  一週間前。
  いきなり電子レンジが壊れた。
秋豆さゆり「えー?のりりん、電子レンジ使ってたのー? ってか、家にあるの知らなかったぁ」
  でしょうね。
  お母さん、料理しないもんね。
秋豆さゆり「電子レンジなら、コンビニで借りればいいじゃなーい」
  そんなこと、できるのはお母さんだけよ!
秋豆駿介「電子レンジ? のり子、そんなの使ってたのか!」
  そうよね。
  お父さんは昔ながらの料理人で
  ピザも釜戸で焼いちゃうもんね。
秋豆とめ「電子レンジって、マイクロ波を使っているのでしょ?」
  はいはい。
  お婆ちゃんは電磁波系に敏感だから
  苦手なの知ってたから
秋豆のり子「でもね、でもね」
秋豆のり子「私はホットミルクが好きなの!」
秋豆のり子「でも、牛乳を温めた後の 膜がこびり付いた鍋」
秋豆のり子「あれを洗うのがどうしても嫌なのー!」
秋豆のり子「毎回、それが憂鬱でホットミルクを飲むのを躊躇してた・・・」
秋豆のり子「その、憂鬱さを解消してくれたのが この、電子レンジさまなの」
「・・・ふーん」
秋豆のり子「ほらほら、子は鎹(かすがい)って言うじゃない!たまには子供の為に・・・」
秋豆さゆり「えー。だって、来週、韓国コスメ巡りする予定だから、そんなお金なーい」
秋豆駿介「俺も、お得意さんの店をハシゴしなきゃいけないから、そんな余裕ないなー」
秋豆とめ「こりゃ、子は鎹(かすがい) じゃなくて、豆腐に鎹(かすがい)だねぇ」
秋豆のり子「・・・」
秋豆のり子「・・・はいはい。 皆んなが使わないものなら 自分で買うわ」
  そして、私は単発バイトをする事にした。

〇店の事務室
秋豆のり子「お疲れ様です。 戻りました」
田島光太郎「おう。お疲れ。 今、仕掛けてくれたペン型GPS発信機をケンタが追いかけてるところ」
秋豆のり子「・・・浮気ですかね」
田島光太郎「どうだろうね。 今日、あきらかにいつもと違うの、わかっただろ?」
秋豆のり子「はい。 服装だけでなくて、後ろ姿が・・・ 歩き方が全然違いました」
田島光太郎「まー、それに気付いた旦那が、男がいると疑って依頼してきたんだから」
田島光太郎「俺たちは調査だけをして、金貰えばいいのさ」
田島光太郎「はい。バイト代」
秋豆のり子「ありがとうございます!」
田島光太郎「・・・で。 それで電子レンジ買うんだって?」
秋豆のり子「あー、もう! それ、父さんから聞きました?」
田島光太郎「おう。 『豆乳より牛乳が好きらしい』って 不貞腐れてたぞ?」
秋豆のり子「もぉー。すぐしゃべるんだから!」
田島光太郎「・・・」
田島光太郎「のんちゃん、進学迷ってるんだって?」
秋豆のり子「う、うん・・・」
田島光太郎「豆腐屋は継がなくていいって、言ってたぜ」
秋豆のり子「それは関係ないっ」
秋豆のり子「ただ、やりたい事とか、将来どんな仕事をやりたいとか。全然想像できなくて」
田島光太郎「・・・はぁ?」
田島光太郎「最近の高校生は そんな事、考えてんのか! ウケるー」
秋豆のり子「えー!普通でしょ?」
田島光太郎「あのなー。 そんな「やりがい」なんか考えていられるような、甘っちょろい世の中じゃないぜ!」
田島光太郎「そんなのは、脛かじりしていて、自立できてないヤツが言う事さ」
田島光太郎「生きて行く為に金を稼ぐ。 それを一生懸命やっていれば、なんかわかってくるもんだよ」
秋豆のり子「いつの時代の話よー」
田島光太郎「駿介だって、傾いた豆腐屋の経営を立て直そうと、必死でホストクラブで働いてたじゃないか」
秋豆のり子「父さんやおじさんはそうだったかもしれないけど、私は違うの!」
田島光太郎「はいはい。 のんちゃんはまだ、親の脛かじりちゃんだからなー」
秋豆のり子「ひっどーい!」
田島光太郎「あはははっ」
田島光太郎「・・・ま、電子レンジ代を自力で稼いだ事は認めるわ」
田島光太郎「お疲れさん!」
秋豆のり子「はい。ありがとうございました。 失礼します」

〇繁華な通り
  私は、豆腐屋が嫌いなわけではない。
  父さんの作る豆腐や厚揚げは
  最高に美味しい
  ただ・・・
  あの豆腐屋は
  父さんでなければ絶対無理なのだ。
秋豆のり子「・・・」
秋豆のり子「よし!電子レンジ見に行くか!」
「あら?なんか聞こえる。ラッパ?」
「知らないの?お豆腐屋さんよ!」
「こんな繁華街に? ・・・ヤバっ!本当だ!」
秋豆のり子「マジかー」

〇渋谷のスクランブル交差点
通行人A「ヤダー!おじさま、ウケるぅ!」
通行人B「そんなに褒められたら買いたくなっちゃうじゃない」
通行人C「い、いつもの木綿豆腐二丁ください」
通行人D「マイコね。 おじちゃんだいすき!」
秋豆駿介「どうして今日もこんなに素敵な お嬢さま方ばかりなんだ」
秋豆駿介「ここから離れられなくなってしまったよ」
秋豆のり子「やっぱり父さんだ」
秋豆のり子「昔かじったホスト時代の悪い癖が・・・」
女性(マル対)「私にもいつもの絹ごし豆腐と厚揚げくださーい!」
秋豆のり子「あ!マル対!」
秋豆のり子「ま、まさか・・・これ?」

〇店の事務室
田島光太郎「で、どうだった?」
「イチナナマルゴ、マル対、ニ対に合流。 確かに男です。ただ・・・」
田島光太郎「ただ、なんだ?」
「豆腐屋です」
田島光太郎「あー」
田島光太郎「あいつかー。 ホント紛らわしい・・・」
田島光太郎「・・・」
田島光太郎「あ、ケンタ。 ついでに揚げ豆腐買ってきて。 証拠品にすっから」

〇渋谷のスクランブル交差点
秋豆駿介「皆さん。夕飯はこの豆腐を使った手作りで。ご家族を温かくお迎えください!」
「はぁーい!」
秋豆のり子「・・・」
  案外、子が鎹(かすがい)より
  豆腐が鎹(かすがい)の方が良いのかも?
秋豆のり子「・・・」
秋豆のり子「さ、電子レンジ買いに行こっ!」

〇システムキッチン
秋豆のり子「こんにちは。のりりんです!」
秋豆のり子「本日は、豆腐を使った 電子レンジ料理をご紹介します」
秋豆のり子「まず、耐熱皿に、絹ごし豆腐と麺つゆをお好みの量入れ、ラップをかけて電子レンジで3分ほど温めます」
秋豆のり子「温まったら、天かす、刻んだ長ネギ、おろし生姜を乗せて、出来上がり!」
秋豆のり子「ちょっとした揚げ出し豆腐風の一品に」
女性(マル対)「なるほど! これで急なお客さまが来ても安心だわ」
秋豆のり子「これなら、 料理をしないお母さんでも作れます!」
秋豆さゆり「うわぁー!すっごく美味しいぃぃ! お酒のつまみにもなるぅっ!」
秋豆さゆり「・・・」
秋豆さゆり「でも、刻んだり温めるの面倒くさいから、 また、のりりん作ってねぇ!」
秋豆のり子「・・・」
  ・・・ま、いっか。

コメント

  • サスペンス風に始まってほのぼのな展開になったの、ほっこりしました😄ホットミルクの下りは完全に同意です。毎回美味しい豆腐メニューが紹介される流れになるんでしょうか😋

  • パパの豆腐屋さん、味よりも接客力が強すぎる🤣
    なるほど、これを継ぐのは大変すぎますね…

    しかし、そんなお父さんにも豆腐の電子調理の利点と可能性を知って貰いたいと願います…アレらは冬の私の生命線です☺️

  • タイトルから心を掴まれ、そのままラストまで一気に見入ってしまいました!この個性的な家族、キャラの濃さの中にも一本芯が通っていて魅力的ですね。
    ホットミルクの鍋、私も洗いたくないです。思わず大きく頷いてしまいました!

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