読切(脚本)
〇黒背景
その悪魔は退屈を忌み嫌っていた。
苛烈な気性を持ちながらも、礼節を重んじる悪魔を、同族は魔界の一角の王の一人として彼を畏れた。
そんな彼は、突然。
一人の人間に呼びだされた。
〇怪しげな祭祀場
少年「本当に悪魔っているんだ・・・・・・」
魔法陣の中にいる一人の少年は、悪魔の姿を見上げている。
その表情は悪魔を前にしても恐れを抱いておらず、ただ目の前の、悪魔が召喚されたという事実を受け止めていた。
悪魔「お前、名は、なんて言う」
少年は名を告げる。
少年の名を吟味するように悪魔は眼を瞑る。暫くして悪魔は眼を開けた。
悪魔「いいぜ、お前の契約に乗ってやるよ」
悪魔の言葉に、少年は顔を綻ばせた。
少年「ありがとう」
悪魔「悪魔に礼を言うなんて、変わってんな、お前」
呆れたように悪魔が肩を竦めると、少年はそう?と首を傾げた。
悪魔「ま、精々末永く、ヨロシクな」
悪魔は口元を歪める。
少年は、悪魔の気紛れに、笑顔で応えたのだった。
〇黒背景
それからいくつかの時が流れた。
〇豪華な王宮
少年だった彼は、王となった。
〇黒背景
悪魔と彼が交した約束は、彼を守ることというシンプルなものだった。
悪魔はその代償に刺激を欲した。
一瞬、女をと、考えたが、何か背筋に寒気が走ったので諦めた。
あとで知ったが、王となる少年は神の寵愛を受けた愛し子だった。
運命の子から生まれた愛し子。
その愛し子に、悪魔は知識を与え続けた。
王は、その知識を何よりも喜んだ。
〇貴族の部屋
神「我が愛し子よ。お前が望むものを与えよう。己が望むまま、その願いを叶えるが寵愛を与えし者の使命なる」
枕元で王は、神を見た。
王は、これが神託かと理解して頷いた。望むものは決まっていた。
王「神よ。私が望むのは、善悪を判断し、貴方の民を裁く為に、聞き分ける心。その心をお与え下さい」
腰を降り、頭下げ、王は神の前に傅く。
まだ少年の面立ちを残したまま、彼は王の姿を見せていた。
神はたいそう、その姿に、その応えに喜んだ。
神「いいだろう。我が愛し子よ。お前に望み通り万物を知る智慧を、また、富を与えよう。我が民をよく導け。その指輪の征くままに」
〇貴族の部屋
神の祝福を最後に、王は目を覚ました。
朝起きて急に智慧を身に着けた王を見た悪魔は呆れたように笑っていた。
祝福(ギフト)を受け取った人間を見たことは、永い時間を生きる悪魔故に見たことがあるし、
愛し子となれば何れ何かしらの祝福(ギフト)は与えられるだろうと予想していた。
その上、悪魔という種族は元より神から作られた。
人間を天使と共に、別の側面で導く役割を持っていた。
〇教会
それから国は繁栄の一途を辿った。
皆が王の名を賢王または繁栄の証として謳った。
〇豪華な王宮
王は、他の悪魔を召喚し、使役していった。
〇神殿の広間
国には豪壮極まりない神殿が建てられた。
神殿には、聖櫃が置かれ、途絶えぬ焔が燃え続けた。
〇豪華な王宮
国は発展し、多くの使者が訪れた。
悪魔と王の話す暇はめっきり無くなってしまった。
〇河川敷
そうして月日は流れた。
〇怪しげな祭祀場
久々に悪魔は自身と王が初めてあったあの祭祀場に足を運んでいた。
丁度、あの日のような月明かりに見えたからかもしれない。
石の隙間から抜ける風が、心地よかった。
人気のない筈のその場所で人影が揺れた。
悪魔「誰だ?」
そこにいたのは──王だった。
罰の悪そうに王は立っていた。
悪魔「どうしたんだ?」
王「眠れなくて・・・」
視線を落とす王。
だが、あの時。
悪魔は王が何かを隠したように見えた。
故にひっかけてみた。──王は昔と変わらず面白いくらいに引っかかってみせた。
彼が見ていたのは、指輪だった。
悪魔を使役し、動物と会話のできる真鍮の指輪。
神からの最初の祝福(ギフト)。
彼はそれを捨てようと画策していたという。
悪魔「幾ら何でも何やってんだ、お前・・・」
呆れたように悪魔が言うと、王は泣きそうな顔を浮かべていた。
王「自由が、自由が欲しいんだ」
王「僕は、生まれた時から王になることが決められていた。それ以外の未来は無かったんだ」
王「この国だって、僕が統治してる訳ではない、神の意志によって成り立っているにすぎない!!」
悪魔に縋りついて王は吐露する。
王の胸の内の想いに、悪魔は今となっては昔となった少年を見た。
悪魔「・・・しゃーね、泥被ってやるよ」
悪魔は笑った。
王「何を言って・・・」
悪魔は素早く指に嵌められていない指輪を奪った。
悪魔「どこにでも逃げちまえ、”エディデヤ”」
〇河川敷
王は気がつくと市政の外に出されていた。
〇黒背景
それでも、運命からは逃れられなかった。
王は、天使に連れられて帰ってきたからだ。
そして、王は繁栄と堕落の名を冠した。
〇美しい草原
風が吹いた。
長閑で昼寝には最適な気温だ。
少女「おーきーてくださーーい、アス!」
大きな声が鼓膜をノックする。爆音に驚いて、悪魔は飛び起きた。
その様子に、メガホンを持った少女はにししと笑った。
その笑顔は、かつての王にどこか似ていた。
〇黒背景
悪魔は目を閉じる。瞼の内側に映るのは──。
〇河川敷
王「アス、もし僕が生まれ変わったら──」
王にとって、悪魔は唯一心を許せる人物だったのかもしれない…と思いました。
王って孤独なものですよね。
最後の彼女は転生した王?と思ったんですが。
だったら幸せそうで良かったです。
すごく面白かったです!あえて登場人物を白黒だけで表現しているのも世界観が守られているような感じがしてとても素敵だなと思いました!
欲しいものがいくつあっても、結局自由が奪われたら生きているのが楽しくない。それは、一般人でも同じです。でもそんなことを悟ったのは結構大人になってからです。王のように若い時分は、リーダーとして、たくさん葛藤したのではないかと思います。続編に期待大です。