お人形遊び

ウミウサギ。

読切(脚本)

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〇貴族の部屋
ミリカ「おはよう、パパ」
  おはよう、ミリカ。
ミリカ「今日はいい天気ね」
  そうだね、ミリカ。
ミリカ「今日の朝ごはんは何かしら」
  クロテッドクリームをたっぷり塗ったスコーンと、スクランブルエッグと、サラダだよ。
ミリカ「まぁ、素敵ね」
ミリカ「私、スコーン大好き」
  それはよかった。
  メイドに運ばせるから、少し待ってておくれ。
ミリカ「分かったわ、パパ」
  さぁ、朝ごはんだよ、ミリカ。
ミリカ「まぁ、美味しそう」
ミリカ「いただきます」
  いただきます。
ミリカ「もぐもぐもぐ・・・・・・」
ミリカ「うん、美味しいわ、パパ」
  よかった。
ミリカ「私、やっぱりスコーンが好きだわ」
ミリカ「触るとぼろぼろと崩れていく様が、 瞳に儚く映るもの」
  随分と文学的な表現をするんだね。
ミリカ「あら、私が読書好きなの忘れていらっしゃって?」
  忘れていないよ、ミリカ。
ミリカ「スクランブルエッグも美味しいわ」
ミリカ「バターの味がよく引き立ってる」
  あとでコックに言っておくよ。
ミリカ「是非お願いするわ」
ミリカ「今日もお仕事なの、パパ?」
  そうだよ。
ミリカ「あら、じゃあ今日も私はお留守番ね」
  寂しくないかい?
ミリカ「寂しくないと言えば嘘になるわ」
ミリカ「でも、うさぎのミミィが一緒にいてくれるもの」
ミリカ「この子と一緒だったら、 私、お留守番頑張れるわ」
  そうか。
  そのうさぎのぬいぐるみ、
  いたく気に入っているんだね。
ミリカ「ミミィと呼んでちょうだい」
  ごめんごめん。
ミリカ「ご馳走様でした」
  ご馳走様でした。
ミリカ「それじゃ、お仕事行ってらっしゃい、パパ」
  ああ、行ってくるよ、ミリカ。
ミリカ「・・・・・・・・・・・・」
ミリカ「パパが行ってしまったわ」
ミリカ「でも寂しくないわ 私にはミミィがいるもの」
ミリカ「ね、ミミィ」
ミリカ「ミミィ、今日はどんなお話をしようかしら」
ミリカ「そうだわ、 今日はロマンチックなお話をしましょう」
ミリカ「むかしむかし、あるところに、 それはとても可愛らしいお姫様がいました」
ミリカ「お姫様はたくさんのメイドに囲まれていましたが、いつもひとりぼっち」
ミリカ「ある時、お城の外から王子様が現れました」
ミリカ「王子様はこう言いました」
ミリカ「可哀想なお姫様、 僕が貴方の伴侶となりましょう」
ミリカ「こうしてお姫様と王子様は結ばれ、 お姫様はひとりぼっちではなくなったのでした」
ミリカ「めでたしめでたし」
ミリカ「・・・・・・あら? 単純すぎてつまらなかったかしら?」
ミリカ「でもいいの これは幸福なお話だから」
ミリカ「・・・・・・・・・・・・」
ミリカ「そろそろパパが帰ってくるわ」
ミリカ「いつものようにベッドで待っていましょうね、ミミィ」
  ただいま、ミリカ。
ミリカ「お帰りなさい、パパ」
ミリカ「今日のお土産はなぁに?」
  フランスの詩人の詩集さ。
ミリカ「まぁ、嬉しい」
ミリカ「私、フランスの文学は初めてだわ」
  おや、そうかい?
ミリカ「えぇ、そうよ」
ミリカ「だから、とても楽しみだわ」
  それじゃあ、
  この一冊はミリカにとって大事な一冊になるね。
ミリカ「そうね」
  今日も仕事で疲れたよ、ミリカ。
ミリカ「あら、そうなの」
ミリカ「いつもお疲れ様」
  抱きしめてもいいかい?
ミリカ「えぇ、いいわ」
ミリカ「私の身体でよければ、 いつでも貸してあげるわ」
  ありがとう、ミリカ。
ミリカ「・・・・・・パパ、とても暖かい」
  ミリカも暖かいよ。
  とてもぬくくて、お日様のようだ。
ミリカ「あら、嬉しい」
ミリカ「パパ、いつでもミリカのことを抱きしめていいからね」
ミリカ「パパはミリカのために頑張ってくれているんだからね」
  ああ、ありがとう。
  ・・・・・・ありがとう。
ミリカ「あら、あらあら、泣くことないじゃない」
ミリカ「今日のパパはまるで子供のようね」
  子供みたいになる時だってあるさ。
ミリカ「そうなのね」
ミリカ「よしよし、よしよし・・・・・・」
ミリカ「・・・・・・・・・・・・」
ミリカ「そろそろお休みの時間だわ、パパ」
  おや、もうそんな時間か。
  名残惜しいが、おやすみ、ミリカ。
ミリカ「えぇ、おやすみ、パパ」
ミリカ「・・・・・・・・・・・・」
ミリカ(私は知っている)
ミリカ(私が、パパの本当の子供じゃないことを)
ミリカ(私が、子供のいない人のために作られた、 お人形であることを)
ミリカ(でも、それでいい)
ミリカ(いつまでもいつまでも、パパと一緒にいたい)
ミリカ(時は悠久じゃないからこそ、 この幸せな時間にいつまでも浸っていたい)
ミリカ「・・・・・・おやすみなさい、パパ」

コメント

  • 精巧にできたAIなのかアンドロイドなのか、それとも全てがパパの心の中の一人芝居なのか。なんにせよ、ミリカの発言が健気であればあるほど、人形遊びでしか癒されることのないパパの孤独感や寂しさが胸に迫りますね。最後までミリカだけの画面でやり切ったのも独特の雰囲気で好きです。

  • 相手に弱いところを見とせるのが苦手な人もいる。友達だと気を使ってしまい、うまく話せない。もっぱら愚痴は育てている植物に聞いてもらってます。

  • 人間誰しも頼るところが人間ではありません。
    私も抱き枕を持っています。
    よく仕事の愚痴を聞いてもらっています。
    私の抱き枕もこんな感じで包容してくれていると考えたら、なんだか心があったかくなりました。

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