アネモネはダチュラの夢を見る

宍戸御宙

安達由良という人物について(脚本)

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〇教室
  人には誰だって秘密の一つや二つくらい
  あるのではないだろうか。
  僕、安達由良にも秘密がある。
  誰にも言えない大きな秘密が──

〇文化祭をしている学校
  今日は文化祭。
  毎年、学校関係者以外にも
  近隣住民や卒業生などが
  参加するので、かなり盛り上がる。
  うちの高校の一大イベントだ。
  今年もその例に漏れず、校内は多くの人で賑わい、大盛況の様相を呈していた。

〇教室
  しかし、かく言う僕はこういうワイワイ
  した感じの行事はそこまで得意ではない。
  なので、今もこうして自分の教室で
  のんびりしている。
  うちのクラスの出し物は『縁日』だ。
  輪投げに射的、ちょっとした軽食販売。
  客はそこそこ入っているが、
  他クラスよりは落ち着いていた。
  このまま何事もなく時間だけが過ぎていく
  ・・・・・・はずだった。

〇体育館の舞台袖
  続いては2年生有志によるバンド
  『Top-Tap』の生ライブです!
  ・・・・・・どうしてこうなった。
  なぜ僕が急病で休んだ見ず知らずの人の
  代わりにバンドのボーカルをやることに
  なっているのか。
男子生徒「よっしゃ、頑張ろうぜ!なっ!」
  僕にピンチヒッターを頼んだ張本人が、
  背中をパンッと叩く。
  全部この人のせいだ。
  教室まで来て懇願してきた彼に
  僕は押し切られてしまった。
  言っておくが、彼のことは今日まで
  知らなかったし、ましてや僕がギターを
  弾けることはクラスでも数人しか
  知らないはずだ。
  だが、彼は僕に頼み込んだ。
  一体なにがどうなっているんだ。
  わけがわからない。
  う、うん・・・・・・
  できることなら今からでも帰りたいと
  思いながら、仕方なく舞台中央に立つ。

〇学校の体育館
  ほぁあ・・・・・・
  改めてみるととんでもない観客の多さだ。
  これからこの数を前に歌うと考えただけで
  自然と冷や汗が流れる。
  しかも、かなり近くから
  猛烈な視線を感じる。
  だが、ここまで来てしまった以上、
  もう引き返すことはできない。
  ええい!もうどうにでもなれ!
  ・・・・・・半ばヤケクソだった。

〇教室
  ──その後、文化祭は無事に終了し、
  皆は後片付けに取り掛かり始めていた。
  もちろん僕も協力しようと
  思ったのだが・・・・・・、
  ダメだ、疲れた・・・・・・
  ステージで体力を使い果たしたのか、
  凄まじい脱力感に襲われていた。
  ごめん、少し休ませて・・・・・・
「おう、バンド頑張ってたもんな。 ここは俺らに任せとけ」
  仲の良い男子生徒に断ると、
  彼は快く受け入れてくれた。
  やはり持つべきものは友である。

〇学校の屋上
  やってきたのは屋上。
  人気もなく、風通しも良いので
  一休みするにはもってこいの場所だ。
  はふぅ・・・・・・
  ひどく間延びしたため息を吐いて、
  フェンスにもたれながら腰を下ろす。
  程なくして穏やかな眠気を催した僕は
  抗うこともなく、そのまま眠りに落ちた。

〇学校の屋上
「・・・・・・先輩。安達先輩」
  突如、誰かに声をかけられた僕は
  ハッとして目を覚ました。
  するとそこには、一人の女子生徒が
  しゃがみ込んでこちらを見つめていた。
  君は確か・・・・・・
  僕はこの生徒の顔に見覚えがあった。
  さっきのステージ。前の方の列で
  じっと僕の方を見ていたあの子。
???「1年の姉川萌音、です・・・・・・」
萌音「ごめんなさい、 起こしてしまって・・・・・・」
  いや、そろそろ起きないと
  いけなかったし、大丈夫だよ
  今にも泣きだしそうな顔をする彼女を
  慌ててフォローする。
  で、僕に何か用かな?
  話しかけてきたのだから
  何か用件があるはずだ。
  そう思った僕は彼女にそう問うた。
  すると萌音と名乗った彼女は先程とは一変
  して、真剣そうな面持ちでこう答えた。
萌音「はい、先輩にお伝えしたいことがあります」
  ──あ、マズイ
  この雰囲気、会話の流れ。
  今まで何度か味わったが、
  あまりいい思い出はない。
萌音「・・・・・・私、先輩が好きです。 前から、ずっと」
  ああ、やっぱり。
  この子もまた、本当の僕を知らないせいで傷ついてしまう。
  ・・・・・・ごめん。
  君の気持ちには応えられない
  いつまでも慣れるはずのない
  罪悪感に耐えながら、
  僕は彼女からの好意を断った。
萌音「そう、ですか・・・・・・。 すみませんでした・・・・・・」
  逃げるように立ち去る彼女。
  僕には、その背中を見ていることしか
  できなかった。
  ・・・・・・戻ろ
  こんな気分で休憩を再開できる
  わけもなく、教室に戻ったが、既に
  後片付けは全て終わってしまっていた。

〇白いバスルーム
  ──帰宅した僕は、
  お風呂に入ることにした。
  今すぐにこの疲れと、
  頭の中のモヤモヤを洗い流したかった。
  服を脱ぐ。
  男子用の制服、そして下着も、全て。
  ・・・・・・僕が男の子だったら
  告白も素直に喜べたのかな
  そう呟いて、
  僕は自分の裸体に視線を落とす。
  告白してくれたあの女子生徒に比べれば
  かなり小振りではあるが、
  それでも確かに、その胸には
  2つの膨らみがあった。
  『安達由良は女の子である』
  これが僕の抱える秘密。

コメント

  • 突然の代理なんてびっくりしますよね、主人公の彼女の少し謎めいたような感じがとても魅力的な感じがしました。楽しく読ませて頂きました。

  • 楽しく読ませていただきました。
    なぜ、告白を断らないといけないのかがわかった時は、そういう理由だったんだな、と。
    由良さんはとてもかっこいいのかな。

  • 偽りの自分で過ごす日常って、様々なイベントがどのように見えるのか気になりました。やっぱり、この主人公みたいにフィルターがかかった感じになりそうですね。

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