エピソード1(脚本)
〇密林の中
農夫「僕は貧しい農夫」
農夫「重い病に苦しむ母の命を救うためにこの森へやって来たんだ」
農夫「この森のどこかにどんな病気でも治してくれる伝説の薬草があるはずだ」
農夫「どこだ?薬草はどこにあるんだ?!」
〇密林の中
その頃
森の別の場所では・・・・・・
勇者「俺は勇者 正義を守る人類最強の男だ」
勇者「人類の敵である魔王を倒すために、この森のどこかにあるという伝説の聖剣を探しに来た」
勇者「どこだ?聖剣はどこにあるんだ!?」
勇者は草木の生い茂る道なき道を聖剣を求めて進んで行く
勇者「はぁぁぁ!」
時折現れる狂暴な森の魔物など勇者の敵ではない。
あっさりと退治して、勇者はさらに森の奥へと進んでいく。
勇者「最強の男である俺様が聖剣を手にすれば魔王など楽勝で倒せるはずだ」
勇者「魔王を倒したら褒美として、王様から金銀財宝をもらい、美しい王女様も嫁にもらおう」
勇者「そうだ、いっそのこと国中から美女を集めてハーレムを作るか」
勇者「魔王を倒した英雄ならハーレムくらい作っても当然だろう」
実はこの勇者。
実力は本物だが、素行が悪いことで有名だった。
女癖が悪く人の恋人や人妻にも平気で手をつける。
借金も多く、酒代の踏み倒しも常習犯だ。
それらの悪行は彼が【勇者】であることで全て大目に見られている・・・・・・と本人は思っていたが、
実は現在、王国では彼から【勇者】の称号を剥奪することを検討している。
そのことを知った勇者は『魔王を倒せば誰も文句を言わないだろう』と、
魔王を倒す力を持つ聖剣を探しに来たのだった。
勇者「魔王さえ倒せば全て問題なし! 金と女と名誉。 最高の未来が俺を待ってるぜ!」
不純な欲望をふくらませながら、勇者はさらに深く森の奥へと進んでいった。
〇密林の中
森の中を歩き続けて、やがて夜になった頃、勇者は森の最も深い場所へたどり着いた。
勇者「こ、これは・・・・・・!!」
そこには月光に照らされた美しい祭壇があった。
祭壇の中央には、美しい剣が地面に突き刺さっていた。
勇者「見つけたぞ! 伝承の通りだ!」
勇者「この地面に突き刺さった聖剣を抜けるのは、真の勇者のみ」
勇者「聖剣を引き抜いた者には魔王を倒す最強の力が与えられるのだ!」
勇者「さぁ、聖剣よ! 我が物となれ!」
勇者は聖剣の柄を握りしめて、深く地面に突き刺さった聖剣を引き抜こうとした。
勇者「ん?」
しかし。聖剣は微動だにしなかった。
勇者「・・・・・・おかしいな?抜けないぞ?」
勇者「おい、聖剣! 俺様は勇者だぞ! おとなしく言うことを聞け!」
勇者「ふん!ふん!ふん!」
聖剣を握る手に力を込めて、懸命に引っ張る勇者。
しかし、聖剣が抜ける気配は一切なかった。
〇暗い洞窟
????「・・・・・」
『ふん!ふん!ふん!』
聖剣を抜こうとする勇者の声は地の底にまで響いていた。
????「なにやら上に騒がしい男がいるな どうやら聖剣が欲しいらしい」
勇者『どうして抜けないんだー!?』
????「当然だ。 我が地面の底で、こうやって聖剣を押さえているのだからな」
????「我は邪神 数千年前に創造神様に逆らった罰として、地の底で聖剣の番人をしている」
邪神の手は、勇者が引っ張る聖剣の剣先を地底側でしっかりと握っていた
????「最近、人間の世界では勇者を名乗る者が多数いるらしい」
????「人間の国の王が、強き者に勝手に勇者の称号を与えて名乗らせているというではないか」
????「そんなものは断じて勇者ではない!!」
????「この聖剣を手に入れた者こそが創造神様の加護を得て【真の勇者】となるのだ」
????「聖剣の主になるには、聖剣を使いこせる鍛え抜かれた肉体と清らかな正義の心の両方を備えていなければならぬ」
????「いま上にいる男は、力だけならまぁまぁだが心が汚れすぎている。 欲望の匂いがぷんぷんするぞ」
????「お前のような男には絶対に聖剣は渡さぬ」
〇密林の中
勇者「ど、どうして抜けないんだ? 俺は勇者だぞ!」
勇者は焦っていた。
このまま聖剣が抜けなければ、悪行の数々を追及されて、勇者の称号を剥奪されてしまう。
勇者「聖剣よー! 頼むから抜けてくれー!!」
????『しつこいぞ。失せろ!』
勇者「ぎゃー!!」
勇者のしつこさに苛立った邪神の魔法により、勇者は全身黒焦げになり、森から逃げ出して行った。
〇密林の中
はぁはぁ、薬草はどこにあるんだ?
薬草を探す農夫は疲れていた。
勇者のように戦う力のない農夫は魔物から逃げ回りながら必死の思いで薬草を探していた。
農夫「あ、あれは・・・・・・なんだ?」
とうとう森の奥までやって来た農夫は、聖剣の祭壇を見つけた。
農夫は聖剣の美しさに導かれるようにふらふらと近づいていき、
聖剣の柄を握りしめて、地面から一気に引き抜いた!
〇暗い洞窟
????「しまった!! まさか1日に二人もこの祭壇に人間がやって来るとは!?」
????「さっきの男を追い払ったことで油断して、聖剣を押さえるのをサボってしまった!」
????「このままでは創造神様に怒られてしまうぞ!」
????「ぬぅぅ、どうすれば・・・・・・」
〇密林の中
農夫「な、なんだ? この美しい剣は・・・・・・ 思わず引き抜いてしまったけど・・・・・・」
見事だ、真の勇者よ
ひぃぃ!
だ、誰ですかぁっ?
????「我は聖剣の番人。 お前を聖剣の主、真の勇者と認めよう!!」
農夫「い、いや、僕はただの農夫ですが・・・」
????「黙れ! お前は真の勇者だ! 我がそう決めたのだから間違いない!!」
農夫「ひ、ひぃぃ!」
〇黒
????「聖剣を抜かれてしまったからには仕方がない」
????「もうこの人間を真の勇者ということにしてしまおう」
????「この男は肉体は虫ケラレベルの戦闘力しかないが、幸いにも心は清らかなようだ」
????「こいつに魔王を倒させて、ちゃんと真の勇者に聖剣を渡したことにすれば問題なし!」
????「魔王など我がちょっと手助けしてやれば、誰にでも簡単に倒せるのだ。 いや、むしろ魔王は我が倒す!!」
????「人類と魔族の戦いに干渉したら創造神様に怒られてしまうが・・・・・・」
????「このままだとどうせ怒られるのだ。 もうそれしかない!!」
邪神は自分のミスをごまかす為に、農夫を真の勇者だと言い張ることにした。
????「バレなければいいのだ」
〇密林の中
????「よし、真の勇者よ。 さっそく魔王を倒しにいくぞ!!」
農夫「そんなの無理ですぅ。 それに僕は母の病気を治す薬草を探さないと・・・・・・」
????「病気なら我の魔法で治してやる!!」
????「魔王も我が倒すから、お前は聖剣を持って側で見ていろ」
農夫「そ、それって僕がいく意味ないんじゃ・・・・・・」
????「お前が行かねば我が怒られるだろうが!!」
農夫「ひぃぃ!」
こうして農夫は、邪神に引きずられて魔王討伐の旅に出た。
〇謁見の間
数ヶ月後、無事に魔王討伐の旅から帰って来た農夫は、王様から魔王を倒した【真の勇者】として金銀財宝の褒美を授けられた。
褒美を受けとる式典では【真の勇者】の傍らに、病気が直った母親と謎の邪神の姿があったという。
貧しい農夫だった男が、どうして聖剣の主に選ばれて魔王を倒すほどの力を手にいれられたのか?
多くの人がその謎の答えを求めたのだが・・・・・・
真の勇者の秘密を探る者は、どこからか飛んできた謎の魔法によって、みんな全身黒焦げになって発見されたという。
やがて真の勇者の謎を探る者は、誰もいなくなった。
魔王を倒した【真の勇者】の隠された真実は・・・・・・
????「創造神様には絶対に内緒だぞ!!」
おしまい
楽しいストーリーでした。やっぱり、みんな自分の身が大事なもんなんですね(笑)農夫さんがでてきて びっくりしました。短い中にうまくお話しが展開されていて楽しかったです。
邪神も創造神様が怖いんだな。魔王さえ簡単に倒す邪神なのに。創造神様に怒られるから自分の失敗を隠すため、農夫を利用するところが面白い。
とてもおもしろかったです。秀逸な作品でした。権力にすがってばかりで、結局能力のない人っていますよね。増えすぎた勇者は真の勇者以外、どんどん減らせばいい、というのは、この世界の特定の職種にも当てはまりそうです。反対に、本当に能力のある人がどんどん重用される世の中になればいいと思いました。農夫の方が今後幸せになって、どんどん活躍してほしいと思いました。