桜に消えた君へ

ゆり

読切(脚本)

桜に消えた君へ

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〇桜並木
  毎年この季節になると
  僕には思い出す光景がある
  決して忘れる事の無い
  あまりにも美しいその光景

〇桜並木
  今日のような
  桜の花びらがまるで雪のように舞う日に
  突然僕の前から消えてしまった
  最愛の・・・

〇桜並木
  花嫁・・・

〇桜並木
  純白のウェディングドレスを着た彼女が
  ピンク色の桜吹雪の中に

〇桜並木
  溶けてしまうように・・・

〇黒
  消えた・・・

〇高層マンションの一室
  5〜6年程前
  僕には結婚をしたいと思っている女性がいた
美月「大樹おかえりなさい」
美月「今日も大樹に会えて嬉しいよ」

〇高層マンションの一室
大樹「ただいま」
大樹「僕も美月に会えて嬉しいよ」

〇高層マンションの一室
  心の底から彼女を愛していた・・・
  たぶん彼女も僕を愛していた・・・
  僕はそれがずっと続くと勝手に思い込んでいた・・・

〇桜並木
  しかし・・・
  別れは突然訪れた
  ”桜が満開になりました”
  ニュースのアナウンサーがそう告げた晴れた昼下がり

〇桜並木
  僕は郊外の公園で彼女と待ち合わせをしていた
  平日この公園にはあまり人がおらず
  のんびり花見をするには打って付けの場所だった

〇桜並木
  そろそろ日も傾いてきた頃
  珍しく彼女は1時間も遅れてやってきた
美月「大樹・・・」
美月「遅れてごめん・・・」

〇桜並木
大樹「・・・!?」
大樹「美月どうしたの!?その格好!?」
  彼女は深く深呼吸をしてから

〇桜並木
美月「私実はね・・・」
美月「他に好きな人が出来て」
美月「今日結婚したの・・・」
大樹「え!?」
大樹「まさか!?」

〇桜並木
美月「今日まで言い出せなくて・・・」
美月「ごめんね・・・」
  彼女の瞳から大粒の涙が溢れた・・・
大樹「急にどうしたの!?うそでしょ!?」
  彼女は一言一言
美月「だから・・・」
  振り絞るように
美月「大樹も他の素敵な人と・・・」
美月「幸せになってください・・・」
美月「さようなら・・・」

〇桜並木
  そう言うと振り返えらずに
  そのまま向こう側へ歩いて行ってしまった

〇桜並木
  突然の出来事に
  僕は茫然自失となり
  彼女を追いかける事も出来ず
  ただその場に立ち尽くしてしまった・・・

〇桜並木
  桜吹雪の中で小さくなっていく後ろ姿は
  まるで桜の中に溶けていくように
  いつの間にか消えて無くなった・・・

〇桜並木
  どうして・・・

〇桜並木
  胸が・・・
  苦しい・・・

〇黒
  その日以来
  僕は2度と彼女に会う事はなかった・・・

〇総合病院
  桜が満開になり
  街中がピンク色に染まった日
  私は医師から余命を告げられた・・・
  あと1年で私は死ぬらしい・・・
  たまたま体調不良で病院を訪れた際に
  病が見つかった
  とても珍しい病気で
  現在の医療ではどうする事も出来ないらしい・・・

〇病院の診察室
  救いなのは
  この病は死ぬまで
  痛みなどの苦痛はないらしい
  その時が来ると
  まるで眠るように去くらしい・・・

〇アーケード商店街
  ・・・ちゃんと
  この死を受け入れよう・・・
  私は今まで充分幸せだった・・・
大樹「美月」
大樹「何ぼーっとしてるの?」
美月「え!?」
美月「何でもないよー」
美月「お腹空いたなーと思って笑」
大樹「美月はホント食いしん坊だな〜」

〇銀杏並木道
  でも・・・
  私の周りの大切な人達を
大樹の母「美月さん」
大樹の母「いつも大樹をありがとう」
  悲しませたくない・・・
大樹の母「これからも仲良くしてやってね」
  ごめんなさい・・・
  私あまり大樹と一緒に居れないみたい・・・
  両親を早くに亡くした私を
  いつも本当の娘のように可愛がってくれた・・・
  あなたをいつか・・・
  お母さんと呼びたかったです・・・

〇病室(椅子無し)
  梅のつぼみが膨らみ出し
  春らしさを感じる今日この頃
  そろそろ私の寿命が近づいているらしい

〇病室(椅子無し)
  少し疲れやすい程度で
  体調に大きな変化は無く
  まだ死ぬなんて信じられない・・・

〇病室(椅子無し)
  でも・・・
  もし私が死んだら・・・
  2人はとても悲しむだろう・・・
  大樹はずっと立ち直れないかもしれない・・・
  大切な2人を
  私のせいで悲しませたく無い・・・
  だから・・・
  私が死ぬ事は2人には秘密にしよう・・・
  絶対に知られてはいけない
  私史上最大の秘密・・・

〇桜並木
  今日桜が満開になった
  このきれいな桜が観れるのも
  今日で最後・・・
  そして
  大樹と会えるのも今日で最後・・・

〇総合病院
  神様・・・
  大樹が私を忘れて新しい恋ができますように・・・
  これから私は最低な方法で
  大樹とお別れをします・・・

〇病院の診察室
  私は先生に無理を言って
  最後の外出許可を出してもらった

〇桜並木
  そしてずっと着たかった
  母親の形見のウエディングドレスを着て
  約束の公園へ向かった
  幸い公園に他の人は居なかった

〇桜並木
  弱った身体でドレスを着て歩くのは想像以上に大変で
  約束の時間より1時間も遅れてしまった・・・
  でも大樹に弱っているところを見せてはいけない・・・
  私はこれから最低な女を演じて
  大樹に嫌われなきゃいけないんだから・・・
美月「・・・大樹」

〇黒
  さようなら・・・
  心の底から愛していた・・・
  今までありがとう・・・

〇病室(椅子無し)
医師「・・・」
医師「ご臨終です・・・」
看護師「明るくて性格の良さそうな娘だったのに」
看護師「1人のお見舞いも無いまま亡くなりましたね・・・」

〇桜並木
  桜の季節になると考えてしまう・・・
  あんなに愛していた彼女と
  あのまま別れて本当に良かったのか?
妻「ぼーっとしてどうしたの?」
大樹「いや桜が綺麗だなーっと思って・・・」
  彼女は本当に他の男と結婚したのか・・・?
  それならなぜあんなに悲しい瞳をしていたのか・・・?
  なぜあんな大粒の涙を流していたのか・・・?
  今となってはわからないけど・・・
妻「あ、桜吹雪!」
  たぶん・・・
  これで良かったのだろう・・・
  あの日の出来事は
  未だに誰にも言えないまま
  ずっと心に閉まっている・・・

〇黒
  彼女と過ごした最後の時間
  あの時ちゃんと伝えればよかったな・・・
  『今までありがとう』
  桜に消えた君へ

コメント

  • 桜が満開になるといつも嬉しく眺めながらも「あとは散るだけだな」と、そこはかとなく寂しい思いも同時に襲ってきます。そんな幸せと寂しさが隣り合わせの儚い桜と美月の儚い運命が重なり合うような、胸に染み入るストーリーでした。

  • 彼女の気持ちは痛いほどわかります。私、男ですけど!でもね、男からすると彼女の命が尽きるまで一緒にいたいな。死ぬまで君を愛します。

  • 短編の中に、ストーリーがぐっと濃縮されていて読んでいて泣けました。あのやり方は彼女なりの優しさだったんだと思うけれど、私だったらよけいひきづってしまいそうだな。本当に愛しているなら最後の最後の瞬間まで一緒にいたいな。でも、彼に今奥さんがいて、前を向いて進んでいるので、彼女の作戦は成功ですね。小説と思えないくらい、入り込んでいろいろ考えてしまいました。

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