陰謀の行方

nori

陰謀の行方(脚本)

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〇荒廃した街
  20XX年、ベルクルクスから発射されたミサイルがマリアベラ郊外に着弾
  秘密軍事訓練に参加していた町民に死傷者は出なかったが
  破壊兵器に転用可能なエネルギー製造を禁じた両国合意に対する違反と、マリアベラ政府は報復を決めた

〇地下に続く階段

〇地下実験室
ベラ「相変わらず気味の悪いところね。いい加減、陽の当たる場所へ出てきたらどう?地下壕の姫よ」
マリア「人の思いが交錯する場所は苦手って、言ってるでしょ」
ベラ「生きていれば、人の縁は避けられない。いつまで逃げ回るつもり?」
マリア「逃げてるワケじゃないわ。必要ないだけ」
ベラ「理由はどうあれ、行きつく先は同じ。 孤独よ」
マリア「孤独とは自由。誰にも束縛されない。それがわたしの生き方」
ベラ「たった一人の肉親が地下壕でこんな生活をしているとはね」
マリア「陽の当たる場所がすべてじゃないわ。わたしのやるべきことはここにある」
ベラ「その研究が役立つ時が来たっていうんだから皮肉よね」
ベラ「政府が報復を決断したわ」
マリア「ミサイル着弾のせいね。その件だけど、おかしいと思わない?」
ベラ「何が?」
マリア「ベルクルクスが合意を破棄するとは思えない。街は破壊されたけど、死傷者は出なかったワケでしょ」
ベラ「たまたま住民が秘密軍事訓練に参加してたから被害を避けられただけよ」
マリア「出来すぎだわ。彼等は私たちが秘密裏に訓練を続けてるの、知らないワケでしょ?」
ベラ「何が言いたいの?」
マリア「瓦礫を成分分析してみたけど、あれだけの爆発を引き起こすだけの原子は検出されなかった」
ベラ「まさか!?あれだけ街が破壊されたのに?」
マリア「誘爆よ」
ベラ「誘爆?」
マリア「内と外で連動した巧妙な罠」
ベラ「内と外?」
マリア「着弾予定地に仕込んだ導火線上にミサイルを被弾させる。両国で手を結べば、難しいことじゃないわ」
ベラ「馬鹿な!?目的は何?」
マリア「最終決戦・・・見せかけの平和に終わりを告げ、互いの存亡をかけた戦いに挑む」
ベラ「・・・」
マリア「ここの研究が役に立つ時が来たって言ってたわよね。どういうこと?」
ベラ「あなたが作ったエネルギー転換術を報復に使うのよ」
マリア「どういうこと?」
ベラ「国民の怒りと憎しみを吸収して、ベルクルクス破壊へのエネルギーに転換する」
マリア「そんなことをしたら、負の連鎖よ。憎しみが強い方が勝者になる。私たちの生まれた国をそんな国にしたいの?」
ベラ「それは・・・」
マリア「止めないと。ベラ、力を貸して!!」
ベラ「無理よ。もう走り出してるのよ」
カドワキ「説得を任された貴女がそんなんでどうするです」
ベラ「カドワキ、どうしてここへ?」
ベラ「最終決戦論者の陰謀の可能性があるのよ。このままでは取り返しのつかないことになるかも・・・」
カドワキ「それがどうしたんですか?」
ベラ「まさか・・・」
カドワキ「双方合意というやつです」
マリア「ベラ!?」
カドワキ「さてと、彼女から説明があった通りです。貴方の技術を拝借させて頂きたい」
マリア「そんなことをさせるとでも?」
カドワキ「これまでのあなたの実験経過は実は頂戴済みです。よって、あなたの協力など不要なのですよ。くっくっくっ」
カドワキ「設定はこれでよしと・・・」
カドワキ「!?」
(ベルクルクスの奴らを殺せ!!)
(奴らに我らの怖さを思い知らせてやる・・・)
「どうしたらこれ止まる・・・止まれ」
マリア「うーん・・・」
「止まれ──」
マリア「誰?」
マリア「あなた、ここで何してるの?」
マタギ「早くこれ止めろ!!なんか上がってる」
マリア「ヤバい、すでに転換が始まっている。それにしても、何という熱量・・・」
マタギ「このままだとどうなる?」
マリア「あなた、誰?」
マタギ「マタギ。ベルクルクスから来た」
マリア「なんで?」
マタギ「悪い話、聞いた。だから奴ら、追ってきた」
マリア「あなた、何か知ってるの?」
マタギ「また戦争やるつもり。多く死ぬ」
マリア「そうだった。ダメだ、書き変えられてる。停止プログラムがきかない・・・」
マタギ「止められないのか?」
マリア「・・・」
マタギ「わたし、いっぱい持ってきた・・・ベルクルクスで平和望んでいる人の思い、いっぱい持ってきた」
マリア「ゴメンナサイ・・・わたし・・・こんなことのために作ったんじゃないのに・・・」
マタギ「みんなの思い・・・無駄になる」
マリア「待って」
マタギ「えっ?」
マリア「止められないなら、もうひとつ別のプログラムを走らせればいい」
マリア「ベルクルクスの思い、わたしに預けて。賭けてみる価値はある」
マタギ「うん」

〇荒廃した街
マリア「眩しい・・・」
マリア(平和への思いよ、わたしの声になれ)
マリア「親愛なるマリアベラの皆さん、皆さんの怒りや憎しみが高まっているのはわかっています」
マリア「ですが、どうか聞いてください」
マリア「今回の攻撃はベルクルクスの企てじゃないんです。両国で最終決着を望む者の陰謀で、わたしはそれを証明できます」
マリア「彼らは、エネルギー転換術で皆様の怒りと憎しみを破壊的な力へと換え、ベルクルクスへ放とうとしています」
マリア「わたしの声、届いてますよね?これがエネルギー転換術です」
マリア「あるものをわたしの声を伝える力に転換しています」
マリア「それは、平和を望むベルクルクスの思い」
マリア「これがエネルギー転換術です。強烈な力を放つものであれば、どんなエネルギーにも転換できます」
マリア「今まさに皆様の怒りと憎しみが、ベルクルクス破壊へのエネルギーに転換されようとしているんです。どうか、怒りを鎮めてください」
マリア「私たちが愛するこの国を、憎しみで支配しないでください」
  お願いだから、残虐の道を選ばないで
マタギ「動き、止まった・・・」
マリア「えっ?」
マタギ「熱量、下がってる」
マリア「ホント?」
マタギ「ああ」
マリア「よかった、ホントによかった・・・」
  怒りや憎しみは世界を破滅させる強い力です。でも優しさもまた強い力・・・
  私たちの思いは、いつかきっと世界を変えられる

コメント

  • 人間の思いや感情をエネルギーにすると聞くとありえないような気がしますが、考えてみれば戦争でも紛争でも人間の心が引き起こしたものだから、この物語は戦争発生と終息のメカニズムの壮大なメタファーなんですね。たった一人でも、マタギのように境界を跨ぐ勇気のある人間の存在が希望の光となるんだなあ。

  • この短編の中に、この世界設定とスリリングな展開がギュッと詰まっていて読み応え充分でした。さらにはメッセージまでも込められているとは!

  • 戦争は何も生みません。
    犠牲を糧にある現代かもしれませんが…。
    今私たちが言う平和論はあくまでそれを許容しているだけで、突然こんなことになっても、何も抗えませんが…。

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