転生したら片思いしてたヤツの性癖がヤバいことに気づいた(脚本)
〇闘技場
──歓声が上がる。
闘技場は熱気に包まれていた。
それは炎の魔法によるものだけではない。
幼き炎の大魔法使い、アクルの才気を目の当たりさせられた民衆は、
輝かしい時代の到来を感じ、歓喜にむせび泣きながら、彼と、そして彼の才を見出した王子の名前を称揚した。
偉大なる魔法使いアクル様!
偉大なる王子ジャイド様!
称揚の声にアクルは、満足げに微笑みを浮かべ──
そして、悠然と闘技場から退場していったのだった。
〇城の回廊
アクル(・・・はあ)
闘技場から戻り、回廊を歩くアクルは溜め息を吐いた。
アクル(大魔法使いアクル、か)
アクル(転生してから10年経ったけど、 ぜんっぜん慣れないな・・・)
足を止め、アクルは目を閉じる。
昔のことを思い返すと、記憶の波に飲み込まれそうになる。
軽いめまいの中で、いくつもの景色がフラッシュバックしてく。
〇オフィスのフロア
──おぼろげな記憶。
あるオフィスビルの一室。入社して10年。アクルには――否。
阿久津 瑠璃(あくつ るり)にはよく覚えのある光景だった。
あまり要領が良いとは言えない阿久津は、いつも他社のビルの窓明かりが消えていくのを横目に仕事をしていた。
斎藤大助「お疲れ、今日も残業?」
そこにいつも現れるのが、同僚の斎藤 大助(さいとう だいすけ)だった。
気さくで、親切で、人好きのする性格。
その日も当たり前のように仕事を手伝い、そして、帰りには飲みに行った。
瑠璃と大助は、親しい間柄だった。
――簡単に言えば友人だった。
だが──
〇城の回廊
「――クル様! アクル様!」
アクル「・・・!」
呼びかけられ、アクルは我に返る。
見ると、兵士が走り寄ってくる。
「アクル様。第6王子ジャイド様がお呼びです。お部屋の方にご案内せよとの命にございます」
アクル「あ、ああ。分かった」
〇宮殿の部屋
アクル「ジャイド様。アクルにございます」
アクルの声に「入れ」と、張りのある声が返る。兵士がドアを開け、アクルは中へと入る。
ジャイド「アクル!よく来たな」
ジャイド「今朝も闘技場にて、山のように巨大な熊を焼き払ったそうだな。流石は炎の大魔法使いだ」
アクル「お言葉ですが、ジャイド様」
アクル「ただの獣など、私の敵ではございません。称えるべきは、あの化け物熊を捕らえた兵士たちかと」
ジャイド「なるほど。言われてみればそうかもしれないな」
ジャイド「見事な炎の魔法を披露したお前に報奨を与えようと思っていたが、兵らにも褒美を与えることにしよう」
アクル「それがよろしいでしょう。 ・・・・・・ところでジャイド様」
アクル「私をお呼びくださったのは、いかなるご用向きがあってのことでしょうか」
アクルは、多少の無礼を承知で本題へと入った。
正直なところ、ジャイダとあまり長い時を過ごしたくなかったのだ。
アクル(・・・ジャイダを見ていると、思い出したくもない過去を思い出してしまう)
不思議なことに、ジャイダは転生する前の友人である、斎藤大助によく似ていた。
そして、大助との間には忌まわしい過去があった。少なくともアクル──瑠璃にとっては思い出したくもないものだった。
だからこそアクルは、話を早く終わらせようとした。
・・・だが、始まった話こそが、アクルにとっては最も忌避すべきものだった。
ジャイド「そうだな。世間話もここまでにしよう」
ジャイド「アクル。お前は――『転生』がこの世にあると信じるか?」
アクル「──え?」
アクルは我が耳を疑った。転生。それこそまさに自分の身に起きたことだった。
アクル(まさか、ジャイダは俺の正体に気づいて・・・?)
アクルが身構えると、ジャイダは笑って言った。
ジャイド「実は俺、前世の記憶があるんだ」
アクル「なっ・・・!」
アクルは驚きに絶句する。
──ジャイダが、転生者?
ジャイド「驚いただろ?」
ジャイド「前世は地球って場所で会社員やってたんだよ。で、ちょっとしたことで事故って死んじゃってさ」
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ジャイドこと斎藤大助が、アクルこと阿久津瑠璃の告白を断った理由って……、衝撃です。性的指向の問題だと思っていましたが、ソッチー!!