言霊(脚本)
〇可愛い部屋
「ママ〜きょうはコレよんで〜?」
「また?本当にこの絵本が好きなのね」
「うん!大好き!」
「でもどうしよっかな〜?」
「は〜や〜く〜」
「はいはいw」
「むか〜し昔、ある所に猫と女の子が居ました」
「女の子は絵を描いて暮らしてましたがちっとも売れません」
「だからいつもお腹を空かせていました──」
〇黒
「何でも言う通りにするなんて思わないでよ!!」
「おい! まだ話は終わってな──」
(私の人生なんだから好きにさせてよ!!)
〇男の子の一人部屋
春戸「うわ!?」
彩乃「よっ」
春戸「よ、じゃないよ。ビビった〜」
彩乃「・・・」
春戸「またケンカ?」
彩乃「まぁ」
春戸「だからって毎度まいど俺ん家来なくても」
彩乃「アイツと同じ建物に居たくない」
春戸「おじさんも大変だな〜」
彩乃「大変なのはこっち!」
彩乃「大学はあそこに行きなさい!将来は何になりなさい!って」
彩乃「私はアンタの物じゃね〜っつの!」
彩乃「もう口利かねーし顔も見たくない!」
春戸「ほらほら、言葉が汚くなってるよ?」
彩乃「細かい事気にするな」
彩乃「幼馴染、でしょ?」
春戸「はいはい」
〇黒
〇書斎
父親「まったくあの堅物は・・・」
父親「いったい誰に似たんだ?」
母親「ふふ」
母親「あなたにですよ?もうそっくり」
父親「私はあんな乱暴な言葉遣いはしていない!」
父親「世の中には言霊と言うものがあって──」
母親「”言葉を大切に”ですよね?」
母親「もう何度も聞きましたよ?」
父親「そ、そうだったか・・・」
母親「あなた?」
父親「な、なんだ?」
母親「ちょっと買い物にでも行きますか?」
父親「そ、そうだな・・・」
母親「ふふふ」
父親「な、なんだ?別にあいつを心配してる訳では・・・」
母親「わかってますよ」
父親「・・・」
〇黒
〇男の子の一人部屋
彩乃「できた・・・!」
春戸「ちょっとは落ち着いた?」
彩乃「まぁ・・・」
春戸「そろそろ帰る?」
彩乃「・・・帰りたくはない」
春戸「わがまま言わない」
春戸「送ってくから」
彩乃「1人で帰れるし!」
春戸「そんな格好の女子を1人で帰す訳にいかないって」
彩乃「エッチ・・・」
〇通学路
彩乃「降ってきた!?」
春戸「急ごう!」
〇開けた交差点
彩乃「もう最悪!」
春戸「びしょ濡れだ〜」
彩乃「全部あのクソ親父のせいだ!」
春戸「ま〜たそんな事言って」
彩乃「だって本当だもん・・・」
彩乃「あんな父親、居なくなちゃっえば良いのに──」
彩乃「え・・・事故!?」
春戸「そう、みたい・・・」
「おい!救急車!!」
「女の子は無事だ!」
母親「あなたぁあああああああああ!!!!!!」
彩乃「え・・・お母さん?」
春戸「嘘・・・だろ?」
彩乃「お、とう・・・さん・・・?」
〇黒
〇書斎
〇女性の部屋
〇女性の部屋
彩乃「私があんな事言ったから・・・」
彩乃「ごめんなさい、お父さん・・・ごめんなさい・・・」
彩乃「これからはお利口にするから・・・」
彩乃「何でも言う事聞くから・・・」
彩乃「帰って来てよ・・・」
〇黒
〇木の上
〇木の上
〇木の上
〇木の上
〇黒
〇女性の部屋
「彩乃? 入って良いか?」
彩乃「・・・」
「入るぞ?」
春戸「よっ・・・」
彩乃「・・・」
春戸「ちょっと痩せたな・・・」
彩乃「・・・」
春戸「おばさんも心配してるぞ?」
彩乃「・・・」
春戸「そういや新しいクラス発表されたぞ?」
春戸「また同じクラスだった」
春戸「小1から10年連続──」
彩乃「もうほっといて!!!!!!」
彩乃「私のせいでお父さん、死んじゃった・・・!!」
彩乃「私がお父さんの言う通りにしなかったから・・・」
春戸「それはちが──」
彩乃「違くない!!」
彩乃「だってあの日・・・」
彩乃「私を探しに出かけたから・・・」
春戸「知って、たのか・・・」
彩乃「ううん。でもわかるよ・・・」
彩乃「うん。わかってた」
彩乃「厳しい事言って、でも全部私を思ってくれてて・・・!!」
春戸「うん・・・」
彩乃「ケンカしたままもう会えないなんて。思わないじゃん・・・」
彩乃「お父さん、ごめん」
彩乃「ごめんなさい・・・」
春戸「・・・」
春戸「彩乃、今日は渡したい物があるんだ」
彩乃「え?」
彩乃「お父さんの、スマホ?」
春戸「そう」
彩乃「何で・・・」
春戸「もっと早く渡したかったけど、修理に時間かかっちゃって」
春戸「でもやっと渡せる」
彩乃「どういう事?」
春戸「中を見ればわかるって、おばさんが」
彩乃「・・・」
春戸「じゃ、帰るな」
春戸「あ、もう一つ」
春戸「おじさんは何より彩乃を大切に思ってたよ」
彩乃「・・・」
〇黒
〇女性の部屋
彩乃「ロックが解けない・・・」
彩乃「お父さんとお母さんの誕生日じゃない」
彩乃「結婚記念日も違う」
彩乃「あとは・・・」
彩乃「あ・・・」
何よりも彩乃を大切に思ってたよ・・・
彩乃「私の誕生日・・・」
彩乃「でも中って・・・」
彩乃「ん?」
彩乃「小説投稿アプリ?」
彩乃「ずっと紙に原稿書いてたのに・・・」
彩乃「『黒猫とお絵描き少女』」
彩乃「昔むかし、ある所に猫と女の子が居ました」
彩乃「女の子は絵を描いて暮らしてましたがちっとも売れません」
彩乃「だからいつもお腹を空かせていました──」
〇黒
〇廃列車
猫耳の少女「パパ!やっぱり私、街に出たい!」
黒猫「ダメだ!街は危険だって何度言えば──」
猫耳の少女「でも・・・!」
猫耳の少女「でも、私の絵をもっと沢山の人に見て欲しいの!」
黒猫「世の中そんなに甘くない!」
黒猫「ここに居た方が安全だし、その方が幸せ──」
猫耳の少女「幸せって何⁈ 何の変わり映えもしない毎日をただ過ごす事!?」
黒猫「それは・・・」
猫耳の少女「これ。パパが褒めてくれた時、すごく嬉しかった」
猫耳の少女「この絵は心を安らかにしてくれるって・・・」
黒猫「・・・」
猫耳の少女「お願いパパ!私、誰かの為に絵を描きたい!」
猫耳の少女「私の絵で1人でも幸せになってくれる人がいるなら・・・」
黒猫「・・・」
黒猫「わかった」
猫耳の少女「え?」
黒猫「お前の絵の良さはワシが1番よくわかってる」
黒猫「自分のやりたいようにやってみなさい」
黒猫「そして・・・」
黒猫「帰りたくなったらいつでもココに帰っておいで」
猫耳の少女「パパ・・・」
猫耳の少女「うん・・・ありがとう・・・!!!!」
〇女性の部屋
彩乃「ズルいよ・・・お父さん・・・」
彩乃「自分だけ気持ち伝えてきて・・・」
彩乃「私も、伝えたい事たくさんあるのに・・・」
彩乃「・・・」
彩乃「・・・」
彩乃「!!!!」
〇黒
〇可愛い部屋
春戸「ただいま〜」
女の子「パパおかえりー!!!!」
春戸「ただいま」
春戸「なんだ、またその絵本読んでもらってたのか」
女の子「うん!だってだ〜いすきだもん!!」
春戸「何でそんなに好きなんだ?」
女の子「だってママとおじいちゃんがなかよしでつくったから!!!!」
春戸「そっか・・・」
春戸「だってさ」
彩乃「い、今ならもっと上手く描けるもん・・・」
春戸「またそうやってはぐらかす」
春戸「君だってその絵本・・・」
彩乃「うん・・・」
彩乃「大好き・・・」
〇黒
お わ り
最初と最後のシーンが繋がって、良質なドラマを見終えたような満足感がありました。彩乃は黒猫を見るたびにお父さんが見守ってくれているような気持ちになるんだろうなあ。でもやはり彼女の今があるのは、そばで見守り続けてくれる春戸の存在があってこそですね。
どんなに大きくなって歳をとっても、我が子の事がいつまでも心配になりますよね。私も亡くなってから気づいて後悔したことがあります。やはり死と離れて暮らしているからか今が大事だと気づかないのでしょうね😞あらためて気づかされました。素敵な作品ありがとうございました!
後悔は人を成長させるものなのでしょうか。
少なくとも後悔が全くない人生を歩んできた人なんていないでしょう。それを背負って強く生きていくのが、残された人の役割なのかもしれませんね!