空白のひとコマ

遠藤彰一

エピソード2(脚本)

空白のひとコマ

遠藤彰一

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  午前2時43分──

〇漫画家の仕事部屋
小田正人「あーあ。 ったく、一日に何回休憩するんすか。あの人」
長谷川清香「作業は早いんだからいいじゃないですか。 それに、手入れも的確ですし」
小田正人「そりゃ20年以上もアシやってれば誰でもうまくなりますって」
小田正人「俺は、絶対にあの人みたいにはなりたくないわー」
長谷川清香「なぜですか?」
小田正人「だってあの人。 完全に漫画家、諦めちゃってるじゃないですか」
長谷川清香「そうですか?」
小田正人「そうですって。 あの人が自分の作品描いてるの見たことあります?」
長谷川清香「ないですけど・・・」
小田正人「でしょ? もう半年以上描いてないんですよ」
長谷川清香「きっと内緒で描いてるんですよ」
小田正人「いーや。 あれはもうアシスタントで一生食っていくつもりですね」
長谷川清香「私はプロアシも立派な職業だと思いますけど」
小田正人「清香さんはデビューしてるから言えるんですよ。 そういうこと」
長谷川清香「それは関係ないです」
小田正人「ありますって。 まず、漫画家って名乗れるじゃないですか」
長谷川清香「名乗れたって別に変わらないですよ」
小田正人「清香さんはそのありがたみを全くわかってない」
小田正人「世の中にその肩書きを欲しがってる人が何万人いると思ってるんですか」
長谷川清香「私はたまたまですから」
小田正人「そのたまたまでグランプリ取られちゃたまんないっすよ。 これだから嫌ですね天才肌は」
長谷川清香「小田君だって佳作じゃないですか」
小田正人「だーかーら。 佳作とグランプリは雲泥の差なんですよ」
長谷川清香「技術的にはプロ並だって講評にもあったじゃないですか」
小田正人「そうじゃなくて。 佳作じゃ本誌掲載できないじゃないですか」
小田正人「そっちは漫画家。こっちはフリーター。 分かります?」
長谷川清香「・・・・・・」
小田正人「俺はさっさとデビューして、本誌の看板背負わなきゃならないんだから」
長谷川清香「やる気まんまんですね」
小田正人「あったりまえですよ。 俺は将来、小塚晋 (おづかすすむ) みたいな大漫画家になるんですから」
長谷川清香「頑張ってください」
小田正人「頑張ってますよ。 だから、宮本さんみたいには絶対になりたくないんです」
長谷川清香「・・・・・・」
小田正人「そもそも、宮本さんが佳作だった賞でグランプリ取ったのが先生なんだから。 もう、プライドボロボロっすよ」
長谷川清香「小田君。 人のことはこのくらいにして手を動かし──」
小田正人「それに知ってます?」
長谷川清香「まだあるんですか? もうそろそろ」
小田正人「いいじゃないですか。 こうやって2人きりで話すのも今日が最後なんですし」
長谷川清香「・・・なんですか?」
小田正人「宮本さん。随分と借金あるみたいですよ」
長谷川清香「そうなんですか?」
小田正人「何でも、キャバ嬢に入れ込んじゃってるとか」
長谷川清香「そんな風には見えませんけど」
小田正人「ああいう人がはまりやすいんですよ。 ああいう所って」
長谷川清香「私はそういう所に行ったことがないので」
小田正人「で、消費者金融で借りたのがどんどん膨らんじゃったみたいで。 たぶん、先生にも」
長谷川清香「先生にも?」
小田正人「先生にも」
長谷川清香「本当ですか? 聞いてませんよそんなこと」
小田正人「言えるわけないじゃないですかそんなこと。 でも、絶対に本当です」
小田正人「こないだ石黒さんと先生が話してるのこっそり聞いちゃった──」
  ガチャ
小田正人「えっと、どれを手伝えばいいんでしたっけ」

次のエピソード:エピソード3

コメント

  • 凄く、引き込まれていきます。楽しみです。

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