第四話「大五郎の漢気」(脚本)
〇河川敷
これは今から一年前。
まだアズキと大五郎が
生徒会に入る前のことである
たくさんのレディースが、
大五郎を取り囲んでいる。
その中心にいるアズキが
大五郎を睨みつける。
近藤アズキ「この街の最強は私!」
花巻大五郎 「ふん。ずいぶんと吠えるんだな」
近藤アズキ「なんだと!?」
花巻大五郎 「愚かな。力で己を証明するのは、弱者の証」
近藤アズキ「だまれェェェ!!!」
アズキのパンチが大五郎に飛ぶ。
だが大五郎がギリギリのところで
それを躱す。
近藤アズキ「なっ・・・!」
花巻大五郎 「これくらい・・・造作もない」
近藤アズキ「うわぁぁぁぁぁ!!!」
アズキは落ちていた金属バットを
拾い上げて、大五郎に振りかざす。
だが、指一本でそれを止める大五郎。
近藤アズキ「くっ・・・! この街では私が最強・・・ ずっとそう思っていたのに──」
花巻大五郎 「強さとは己の弱さを見つめることだ」
近藤アズキ「・・・・・・!」
威風堂々と立ち去っていく大五郎。
その一か月後、大五郎が生徒会長に
就任すると、アズキは彼を追って
生徒会秘書へと立候補した
以来、アズキは大五郎への
忠誠を誓うようになった
〇河川敷
そして一年後。生徒会秘書となった
アズキの仕事は、大五郎のサポートである
花びらをむしり取りながら、
俯いている大五郎。
近藤アズキ「生徒会長。そろそろ帰りましょう。 このままではこのあたりの花びらを 全てむしり取ってしまいます」
花巻大五郎 「僕は失恋した。彼が・・・裕司くんが 君のことを好きだと言ったんだぞ!」
近藤アズキ「私が、彼の告白を受けるとお思いですか?」
花巻大五郎 「うるさい! とにかく僕のことは放っておいてくれ!」
近藤アズキ「・・・わかりました。なら今度は 別の角度から攻めてみましょう」
花巻大五郎 「別の・・・?」
〇駅前ロータリー(駅名無し)
山中裕司「まさか、アズキさんに デートに誘われるなんて・・・!」
近藤アズキ「おまたせ」
山中裕司「アズキさん──」
裕司が振り返ると──
山中裕司「――と、生徒会長!?」
近藤アズキ「生徒会長も今日は予定がないという ことなので、三人でデートしましょう」
山中裕司「へ? てっきりこないだの告白の 返事をくれるものかと──」
花巻大五郎 「不服か?」
山中裕司「い、いや! そういうわけでは──」
近藤アズキ「同じリレーのチームなんだから、 何も問題はないわよね」
〇ファストフード店の席
テーブルの上にはハンバーガー。
アズキの前だけ、ハンバーガーが
山のように重なっている。
山中裕司「アズキさん・・・? それ全部食べるんですか?」
近藤アズキ「いつもはこの倍食べるけど」
近藤アズキ「ふふ。普通の男ならば、 ここまで大食いの女は必ず嫌うはず──」
山中裕司「さすがです! 食欲のある女性って魅力的だと思います!」
近藤アズキ「くっ・・・! それならば」
ハンバーガーを次々と口に運ぶアズキ。
食べ方が汚くて、口の周りが
ケチャップだらけになる。
近藤アズキ「これならどんな男だって──」
山中裕司「あっ、口の周り汚れてますよ。 はい、ハンカチどうぞ」
近藤アズキ「ど、どうも・・・」
アズキと裕司のやり取りを
羨ましそうに見つめている大五郎。
花巻大五郎 「・・・いただきます」
〇カラオケボックス(マイク等無し)
裕司と大五郎が並んで座る。
その前に立ち、マイクを持つアズキ。
近藤アズキ「ハンバーガーではうまくいかなかった けど・・・今度こそ!」
山中裕司「アズキさんの歌が聴けるなんて、 ラッキーだな~」
近藤アズキ「大きな翼の~♪ 大きな鳥が飛んできて~♪」
黒板を爪で引っ掻いたような、
音程の外れた歌声が響き渡る。
思わず耳を塞ぐ裕司。
山中裕司「なっ、なんだこれ・・・! 鶏が首を絞められたような声だ・・・!!」
近藤アズキ「今度こそうまく行った──」
山中裕司「でも、ずっと聴いていると だんだん耳に馴染んでくるかも・・・!」
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