その優しさに救われて(脚本)
〇通学路
──逢魔時。
それはこの世ならざるモノが蔓延る時間帯だ。
美晴「・・・またヤバいのが出たな」
真っ黒な影が地面を這って少しずつ、しかし確実に美晴に近づいてくる。
美晴「・・・逃げるしかないよね」
美晴「今はあいつも近くにいないし」
そう言って美晴が逃げようとした瞬間だった。
大和「・・・またお前は面倒なことに巻き込まれてるな」
そう言って美晴の目の前に現れたのは、一人の男子生徒だった。
彼が一つ手を振ってみせると、蠢いていた黒い影は跡形もなく消え失せた。
美晴「大和! 助かったよ、ありがとう!」
美晴「やっぱり大和の除霊スキルは最強だね」
満面の笑みで礼を言う美晴に、大和は怒りをあらわにした。
大和「またお前は勝手に一人で帰ろうとして・・・」
大和「俺が家まで送るから大人しく教室で待ってろって言っただろ」
美晴「・・・そうだけど。毎日送ってもらうのは悪いと思って」
美晴「大和の負担になりたくなくて、一人で帰ろうと思ったのよ」
大和「でも結局面倒ごとに巻き込まれてんじゃねえか」
美晴「・・・返す言葉もありません」
黙り込む美晴に、大和は大きな溜め息を吐いた。
大和「・・・お前は幽霊や妖が"見える"だけで祓えねえだろ。だからこんな時間に一人になるな」
大和「ただでさえ、お前は何故か奴らに狙われやすいんだ」
大和「・・・何かあってからじゃ遅いんだよ」
そう言った大和の顔は、酷く辛そうだった。
美晴は幽霊や妖が見えるタイプの人間だったが、祓うことができない。
そのため彼女は、幼い頃から危険な目に遭うたびに何度も目の前にいる幼なじみに命を救われてきた。
・・・そしてそのたびに大和は悲しげな表情をした。
美晴「・・・心配かけてごめんね」
美晴「大和が強いのは分かってるし、頼りにもしてる」
美晴「でも私のせいで大和に何かあったら、私は・・・」
その先を考えただけで、恐ろしくなる。
それぐらい美晴にとって大和の存在は大きかった。
大和「・・・変わらないな、お前は」
大和はそう言って、一瞬微笑んだ。
しかし次の瞬間、彼は小馬鹿にしたように笑っていた。
大和「ていうか、人の心配してる場合かよ」
大和「俺を頼るのをやめたら、真っ先に死ぬのはお前の方だぞ」
美晴「そうなんだけど! そんなにはっきり言わなくてもいいじゃない!」
怒りだした美晴に、大和は声をあげて笑ったが、やがて彼女の頭にそっと手を置いた。
大和「俺の心配なんかしなくていい」
大和「お前は自分のことだけ考えてろ。 いいな?」
美晴「・・・」
大和「家まで送っていく、行くぞ」
そう言って、大和はさっさと前を歩き出した。
ただの幼なじみというだけで、何度も美晴を救ってくれた大和。
その優しさに何度も救われてきた。しかし・・・。
美晴「・・・どうしてそこまでして、私のことを助けてくれるの?」
美晴の小さな問いかけは、夕焼けのなかに吸い込まれていった。
〇古びた神社
──美晴が住む街を抜け、さらに進むと山奥に一つの神社がある。
大和「・・・帰ってきたか」
かつてそこでは神が祀られていたが、時代の流れとともに、神は人々から忘れ去られていき、神社は廃れていった。
そして今やそこは・・・
大和「・・・人の姿も慣れないものだな」
──鬼の住処でもあった。
人の姿から本来の姿である鬼に戻った大和は、フッと息をついた。
そして思い出すのは、先程の美晴とのやりとりだ。
大和「・・・やはり美晴は変わらないな」
大和「──前世から変わらず、優しいままだ」
〇寂れた村
──それはまだ大和が小鬼だった頃の遠い昔。
美代「・・・あなた、鬼よね?」
美代「こんな人里までおりてきてどうしたの?」
大和は妖力が弱いという理由だけで鬼の一族に見捨てられた。
そんなときに出会ったのが、美代という人間の巫女だった。
美代「怯えなくていいのよ。私はあなたを退治しようと思ってないから」
美代「行くところがないのなら、おいで」
そして大和は美代と暮らすようになった。
美代は心優しい巫女だった。
妖を浄化する高い霊力を持ちながらも彼らとの戦いを忌み嫌い、傷ついた妖を放っておけない性格の娘だった。
──そんな美代が、大和は大好きだった。
そして彼女との幸せな日々がいつまでも続くと信じていた。
──彼女の霊力を恐れた他の妖に美代が殺されてしまうまでは。
〇古びた神社
大和「・・・」
美代が死んだとき、大和は嘆き悲しんだ。
美代に守られてばかりで、弱いままの自分が憎くて許せなかった。
大和「・・・もう二度とあのような思いはしたくない」
そのために大和は妖としての格を上げ、強くなり、美代の仇を討った。
そして数百年の間、美代の生まれ変わりを探し求めた。
──そうして美代の生まれ変わりである美晴を見つけたのだ。
しかし大和が喜んだのもつかの間、彼女は生まれ変わってもなお、幽霊や妖に狙われやすい人間だった。
大和「美晴に警戒されないよう、人に化けて奴らから守ってきたが・・・」
大和「まさかこんな忙しない日々になるとはな・・・」
それでも生まれ変わった彼女との日常も悪くはなかった。
・・・時折、美代を思い出して胸は痛むが。
大和「・・・そろそろ休むとするか」
大和「明日も朝早くに美晴を迎えにいかねばな」
そうして大和は柱にもたれて、目を閉じる。
──愛しい亡き人とともに過ごした社で、今日も鬼は眠りにつくのだった。
ロマンティックなお話ですね!
生まれ変わった彼女を探すなんて、すごくすてきです。
大和くんは普段は普通の少年のふりをしていますが、その時の彼もかっこいいです。
鬼や妖の中にも人間に味方する者がいるんですね。前世の彼女がものすごく強くて、後世の彼女は弱い。その弱さが鬼の心には彼女を守ろうとする気持ちが強く、力も強くなっているのですね。
心優しい鬼もいるんだなあとなんだか心温まりました。人を好きな気持ちっていうのは、なによりも強いですね!
時代を超えてのラブストーリー素敵でした。