第一話「地獄谷山高校の掟」(脚本)
〇学校の校舎
9月。新学期の初日──
私立・地獄谷山高校――そこは一見すると
どこにでもある普通の高校だった
だが、この学校には生徒はおろか
先生すらも恐れる鉄の掟があった
山中裕司(やまなかゆうじ・1年)
佐々木隼人(ささきはやと・1年)
山中裕司「青い空、白い雲・・・ 今日もいい天気だなぁ」
佐々木隼人「俺は天気よりも女子が気になるな。ほら、 あのポニーテールの子とかやばいっしょ?」
山中裕司「興味ないよ」
山中裕司「それに、僕には心に決めた女性がいるんだ」
佐々木隼人「生徒会秘書の近藤さんだろ? 高嶺の花すぎるからやめとけって」
佐々木隼人「そんなんだから、 年齢=彼女いない歴だってバカにされんだ」
山中裕司「ほっといてよ。 隼人だって彼女いたことないでしょ?」
朝の爽やかな雰囲気をぶち壊す、
野太い男の声が響き渡る。
男「生徒会長が通りまぁぁすっ!!」
生徒たちは一斉に脇に逸れて道を作る。
佐々木隼人「やばいっ! 生徒会だ!」
正門の奥から、
多くの生徒会役員たちが現れる。
その中の一人が、
血だらけの男子生徒を運んでいる。
山中裕司「ひぃ・・・! なんだあれ!」
佐々木隼人「あ、あの血だらけの奴・・・! 生徒会に逆らったって噂の生徒だ。 中には山に埋められたって奴も──」
生徒会長・花巻大五郎
(はなまきだいごろう・3年)
大五郎の姿を認めると、
一斉に頭を下げる生徒たち。
花巻大五郎 「・・・うむ。いい朝だ」
この学校の鉄の掟・・・
それは生徒会に逆らわないことだ
生徒会は絶対的な権力を握っており、その
頂点にいる花巻大五郎は、生徒はおろか
先生すらも逆らってはならないことだ
山中裕司「あれは近藤さん・・・!」
近藤アズキ(こんどうあずき・2年)
生徒会秘書として絶対的な信頼を得ており、陰では裏の支配者とも呼ばれている
おまけに校内一と呼ばれる程の美女だった
山中裕司「優雅で上品で華麗・・・ 夏休みを挟んだことで 美しさに一層磨きがかかった──」
佐々木隼人「おい! 裕司! 頭下げろって」
裕司が我に返ると、
目の前に大五郎が立っていた。
山中裕司「うわぁぁぁ・・・!」
花巻大五郎 「なぜ頭を下げない?」
山中裕司「あ、あ、あの! ちょっと首を痛めてしまって、それで──」
花巻大五郎 「とりたてて痛くもなさそうだが?」
山中裕司「いや、その二秒前に治ったというか、 気のせいだったかも、なんて」
花巻大五郎 「気のせい、だと・・・?」
佐々木隼人「死んだな・・・ 友よ、短い付き合いだったな」
山中裕司「申し訳ありませんでした!」
山中裕司「僕は死んだ・・・お母さん、 先立つ不幸をお許しくださいっ・・・!」
花巻大五郎 「処分は追って連絡する」
生徒会役員たちを連れて
立ち去っていく大五郎。
アズキだけが残り、
裕司の顔をマジマジと見つめる。
近藤アズキ「なるほど・・・あなたが山中裕司ね」
山中裕司「え? なんで僕の名前を──」
裕司の言葉を聞かず、
颯爽と立ち去っていくアズキ。
〇学食
食堂にはたくさんの生徒たちがいるが、
裕司と隼人の周りだけは誰もいない。
佐々木隼人「今朝の噂が広まってるんだろうな・・・ いまお前は校内で関わりたくない ランキング第一位だ」
山中裕司「なんとかしてよ」
佐々木隼人「友人のよしみで、最後のランチに 付き合ってるだけでもよしと思え」
山中裕司「最後のランチとか言わないでよ!」
佐々木隼人「だいたい、 なんでちゃんと頭を下げなかった?」
山中裕司「それが、その・・・ 近藤さんに見とれちゃって──」
佐々木隼人「はぁ。そんなことだろうと思った」
佐々木隼人「お前、憧れるのは勝手だけど、 本気で付き合えるとでも思ってるのかよ」
山中裕司「付き合えるなんて思ってない。 近藤さんは女神、ピラミッドの頂点・・・ でも憧れずにはいられないんだ」
アズキが脇目も振らず、
ツカツカと裕司のところに歩いてくる。
佐々木隼人「近藤さん? こっちに来る・・・!」
山中裕司「ううっ。今朝の不祥事のことだろうな」
近藤アズキ「お食事中に失礼」
山中裕司「け、今朝はすみませんでした! 自分のような量産型生徒Aが 生徒会様の──」
近藤アズキ「昼食は毎日それ?」
山中裕司「へ? ま、まあ、ほぼ毎日・・・」
近藤アズキ「明日からは私がお弁当を持ってくるから、 昼食は買わないように」
山中裕司「は?」
佐々木隼人「へ?」
近藤アズキ「明日からは私がお弁当を持ってくるから、 昼食は買わないように」
佐々木隼人「二回言った・・・」
そう言うと立ち去ってしまうアズキ。
山中裕司「近藤さんが、僕に? お弁当?」
〇学食
翌日
山中裕司「なあ、本当に近藤さんが お弁当持ってきてくれるかな?」
佐々木隼人「まあ考えられるのは毒殺だな」
山中裕司「ど、毒!?」
佐々木隼人「生徒会長の言ってた【処分】ってのは、 それしか考えられん」
山中裕司「そ、そんな・・・」
佐々木隼人「あれを見ろ! 来た・・・!」
アズキがツカツカと歩いてきて、
裕司の前にお弁当を置く。
近藤アズキ「はい。これ」
山中裕司「あ、ありがとうございます。 その、いまは食欲がないので後程──」
近藤アズキ「いますぐ食べて。私の目の前で」
山中裕司「ううっ・・・」
佐々木隼人「もう諦めろ。裕司」
恐る恐るお弁当箱を開く裕司。
すると女子力の溢れた
カラフルなお弁当が露わになる。
佐々木隼人「おおっ! おいしそう!」
近藤アズキ「食べて」
山中裕司「は、はい・・・」
おかずを口に運ぶ裕司。
近藤アズキ「どう?」
山中裕司「おいしいです・・・! この唐揚げレモン風味なんですね」
近藤アズキ「この卵焼きは?」
山中裕司「うん、これもおいしい! ほのかにバターの香りが漂っているような」
近藤アズキ「正解。舌は悪くないみたいね。 これからは毎日持ってくる。じゃ」
佐々木隼人「ど、どういうことだ!? 毒入りじゃねえのか!? なんでお前が──」
山中裕司「あの近藤さんが僕に・・・? もしかしてモテ期!? 千年に一度のモテ期が来たのかも!」
佐々木隼人「モテ期だと!? 認めん!」
〇生徒会室
大五郎が神妙な面持ちで待っていると、
アズキが入って来る。
近藤アズキ「結果のご報告をいたします」
花巻大五郎 「うむ」
近藤アズキ「山中裕司にお弁当を渡したところ」
花巻大五郎 「・・・・・・」
近藤アズキ「とても美味しいと喜んでおりました」
花巻大五郎 「ほ、ほんとに!?」
途端、大五郎の表情がほころぶ
花巻大五郎 「じゃ、じゃあ僕の作った 愛情弁当を食べてくれてたんだね!」
近藤アズキ「玉子焼きに入れた隠し味の バターにも気づいておりました」
花巻大五郎 「くぅ~! 最高! やっぱ裕司くんって最高の男だよね!」
花巻大五郎 「あ~。嬉しいなぁ。照れるなぁ。 でもやっぱり嬉しいなぁ。どうしよう~!」
近藤アズキ「良かったですね、生徒会長」
近藤アズキだけが知っている
大五郎の裏の顔・・・
それは大五郎が乙女だということだ
では大五郎がなぜ
裕司を好きになったのか。
それは・・・二話へ続く!